362.ぴよゆえに、力強く

 お見合い会は広めの家で行われることになっていた。


 テテトカが作り上げた花飾り、それに種々の色鮮やかな花束が会場を華やかにしている。


 予約制なので席数は決まっていた。

 すでに着ぐるみ姿の給仕ぴよがスタンバイしている。


 ステラぴよは頭をちょっと傾けた。


「参加者十八人……けっこう多いぴよ」

「……すっかりなりきってるね……」


 着ぐるみ姿のナナがステラへと話し掛ける。


「ナナぴよも運営側ぴよね」

「レイアに呼ばれてね。魔法具のセッティングとか、なんとか……トラブル対処と設営だけだよ」

「優しいぴよ」

「……わかってて言ってるよね? まぁ、彼女のやることには付き合うつもりだし」

「いい話ぴよ……」


 ステラぴよはもふもふハンドを合わせて、ナナを見た。


「君って着ぐるみを着ると性格変わるタイプ……?」

「ハイになってる気はしてるぴよ」

「そっか……。そういう人は、たまにいるよね」


 会場での準備はほぼ完了している。

 草だんごのこねこね道具を用意、おいしいご飯に美しいバイオリンの音色。

 演奏するのはレイアである。


「そろそろ参加者を入れます……!」


 バイオリンを片手のレイアが現れ、着ぐるみ達に号令をかける。


 いよいよ、お見合い会が始まるのだ。


 ◇


 緊張した面持ちの参加者。

 ニャフ族や冒険者が多いが、エルフやドワーフの人も少しいる。


 座った参加者に、着ぐるみぴよが飲み物を提供していく。


「ドリンクぴよ」

「あ、ありがとうございます……」


 ヴァンパイア製の銀のコップに、新鮮なオレンジを添えた果実リキュールである。

 アルコール度は抑えめ、ぐいぐい飲める仕様だ。


「おつまみぴよ」

「あ、ありがとうにゃー……」


 ハム、チーズを中心に香味野菜が揃えられている。

 ステラぴよのエルフ料理の要素も含まれており、これまたお酒がぐいぐい進む。


 シュガーは忙しく、ドリンクやおつまみの補充の指示を出していた。


 ステラぴよもすすーっと華麗に動き回りながら、給仕をしていく。


 そうしてほどよく酔いが回ったところで、ぽてぽてとテテトカが現れる。


「ではではー、草だんごを作りましょー」

「「はーい!」」


 他にも数人のドリアードが補佐として参加し、草だんごのこねこねを指導していく。


「はーい、こねこねー」


 こねこね。

 こねこねこね。


 対面から隣り合って草だんごをこねこねしていくと、心の距離まで近付く気がする。

 この時間からは給仕も一段落だ。


 ステラぴよは余興係に移る。


「ぴよぴよ? ぴよぴよ?」


 ちょっと奥手なテーブルに行き、人と人とを強引に近付けたりする役割だ。


 もふもふハンドでそっと立ち位置を調整するという、高度な仕事である。


「よし、次はあっちですぜ」


 あるいは会話が止まりかけているテーブルに、シュガーと一緒に現れ、話題を提供する。


「ぴよ……!」

「その話の続きをこのコカトリスが聞きたいそうですぜ」


 ある意味、メチャクチャである。

 普通の人間がやったら間違いなく反感を買う。


 しかしもっふもふなコカトリスの着ぐるみにそれをされると、不思議と反感を抱けない。


 ステラぴよのコカトリス仕草は、相当の高みに達しているのだ。


 そんなこんなでお見合い会は、コカトリス主導で続いていく。


 参加者をシャッフルしながら、日が暮れるまでにはお互いに気になる人も出てきたようだ。


「ぴっぴよー」


 それもコカトリス着ぐるみのおかげ……のはずである。

 ……最終的に五組のカップルが誕生したのであった。

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