342.コカトリスの宿舎にて

341話を差し替えました。

本来はこちらが342話になります。



 疑問に思ったら、即解決。


 俺は通訳としてディア、そしてステラを連れてコカトリスの宿舎へやってきた。


「ぴよよー。もにゅもにゅキノコがたくさんぴよ」

「……こんなに持ち込んでいたのか……」


 大型のパズルマッシュルーム数体が壁に立て掛けてある。それだけでキノコ壁になっているな。

 なんだか室内で干しているハムとか、そんな情景を連想してしまう。


「コカトリスの半分は出払っているようですね……」

「ぴよ。お外で収穫してるぴよ」


 卵を温めているコカトリスは、ほぼ常に宿舎にいる。その他は交代交代で運動したり、お昼寝したり……気ままな生活だ。


「ちょうどパズルマッシュルームをつまんでいるぴよがいるな……」


 うつ伏せに寝転がりながら、壁に羽を伸ばし、もにゅもにゅしてるコカトリスだ。


「ぴよ?」(もにゅー?)

「ちょっといいかな、聞きたいことがあるんだが……」

「ぴよー? ぴよよー」(キノコ食べたい? いいよ、お腹いっぱい食べてってー)


 コカトリスはこちらにすっとパズルマッシュルームのかけらを渡してくる。


「お腹いっぱい食べて、といってるぴよよ」

「……頂きましょうか」

「そうだな、もらおうか」

「ぴよ! いただきますぴよ!」


 コカトリスのふもふもハンドからパズルマッシュルームを受け取る。

 ちなみにコカトリスの羽は魔力のおかげでとてもキレイだ。


 受け取ったかけらを口に運ぶ。


 ……もにゅもにゅ。


「んっ!?」

「あれ……!? こ、これは……」

「ぴよ! なんか、おいしいぴよよ!」


 まったりとして、スルメみたいな味が出ている。

 いや……普通のスルメじゃない。深みというか、まろやかさというか……。

 そういうのもちゃんとある!


「パズルマッシュルーム自体は他と変わらないよな……」

「聞いてみるぴよ!」


 そう言うと、ディアと寝転んだコカトリスはぴよぴよと会話を始めた。


「ぴよ! ぴよよ!」

「ぴよー。ぴよ?」

「ぴよよ、ぴよっぴ!」

「ぴよ、ぴよよー」


 高速でぴよぴよしあって、ディアが俺達の方に振り向く。


「ぴよ! 実演してくれるぴよ!」

「おお、やはり何か違いがあるんだな!」

「やりましたね……! これで謎が……!」


 寝転んだコカトリスがむにっと立ち上がる。


 そしてコカトリスの道具箱にあるバットを手に取った。


「えっ……な、なぜバットを……?」


 ステラが目を丸くした、そのとき――。


「ぴよー!!」


 コカトリスが気合を入れて、バットのヘッドをぐいーと押し付けた。


「…………」

「ぴよよーー!!」


 もう一度、ぐいーとバットのヘッドを押し付ける。

 蕎麦を打つ職人の気配さえある。


「ぴよ! ぴよよー」(これでよし! 味が深くなるよー)

「ぴよ……!」(ありがとぴよ……!)


 ふむ、一発で謎が解けたな。


「つまりかなりのパワーを加えると、美味しくなるわけか」

「みたいですね。だから自分達で仕留めた個体だけを……」

「ぴよ。それでこの味になるぴよねー」


 コカトリスのパワーはかなりのものだ。

 キックや頭突きでも相当の力が加わる。そうすると美味しくなる……。


「思えば、私も過剰に力は掛けていませんでしたからね……」

「だろうな。この感じだと完全にオーバーキルだろうし……」


 魔物を倒すのに必要以上の力は使わない。

 それはある意味、冒険者なら誰もが心掛けていることだ。


「ぴよ。謎は解けたけど、どうするぴよ? かあさまもぐいっとやるぴよ?」

「そ、そうですね……。ここはやはり私が……」

「……馬車で轢いてみる手もあるが」

「はっ! そうですね!」


 それで駄目ならステラやウッドの出番になるだろうな。この二人がパワーならツートップだろうし。


「さて、謎も解けた。早速――」


 俺が言いかけた、その瞬間。


 卵を温めていたコカトリスがもぞもぞと動き出した。


「……ぴよ!」


 そうして体の下から、三色の卵を取り出す。どことなく床屋のサインポールみたいな卵だ。


 そこで俺は気が付いた。卵にひびが入り、かすかに震えている。


「エルト様、卵が……」

「あ、ああ……まさか……」


 予定より早すぎないか?

 いや、この村の食料事情ならあり得るのか。


 ごくり。


「ぴよよー……!」


 ディアも目をぱっちり開いて見守っている。


 少しの間、ピシピシと卵のひびが増えていく。

 やがて卵の震えも大きくなっていき――。


 間違いない。もう、生まれる。

 ついにヒビが卵を覆い尽くした、その瞬間。


「ぴよよー!!」


 小さなコカトリスが、卵から飛び出してきたのであった。

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