313.調査へ
「ふむ……」
大広場から呼び出されたホールドは、小さな応接室でオードリー達の報告を聞いていた。
ホールドに向かい合うようにオードリー達が座っている。一通りの話を聞いた後、シスタリアが補足した。
「――魔法攻撃の類ではありませんでした。こちらに魔力は感じられませんでしたから」
シスタリアの言葉に、ホールドが難しい顔をしてちょび髭に触る。
「確かにドワーフの間にそういう噂があるのは知っていたが……」
「父上も聞いておられたんですね」
「本人達はガハガハ言って、笑い話にしていたがな」
クラリッサが目をぱちくりさせる。
「そんな深刻な話ではなかったんですね」
「もちろん。ある種の芸術は心に焼き付くように、印象を残すものだ。今回はそのためでもあるのだが……」
弱ったな、とでも言うようにホールドはソファーに深く腰掛けた。
「あの絵はライガー家より買ったものだ。そこらにある絵じゃない……。調べるしかないか」
かなりの大金を投じて買い入れた物だが、やむを得ないとホールドは思った。
オードリーとドワーフが同じことを言っている以上、そこに何かあると見るべきだ。
第三者か絵そのものなのか、それはわからないが……。
「商談で入り用の振りをして、とりあえず隔離する。第二倉庫ならいいだろう。あとはナナにも連絡を。シスタリア、手配してくれ」
「はい、旦那様。失礼いたします」
素早く立ち上がったシスタリアが応接室を出ていく。
「……虎か……」
「絵から幽霊とか出てくる話は知っていますけど、虎は珍しいような」
オードリーの言葉に、ホールドも頷く。
「そうだな……。バットを見ていた、という話も気になる。とりあえずは調べてみるしかない」
◇
「ぐいーんぴよ」
「だぞ」
「ぐいいーんぴよ」
「だぞ」
ステラの宿泊部屋。
今日の芸術祭を終えたステラ達は部屋へと戻ってきていた。
そしてベッドの上ではディアがマルコシアスを高い高いしている。
「おもしろいぴよね……!」
「だぞー。新鮮なんだぞ……!」
きらきらした瞳でディアとマルコシアスは見つめ合う。逆にやってみるとかなり楽しかったのだ。
「……和みますねぇ……」
ちなみにステラは部屋でシュバっとバットを振っていた。振るたびに空気を斬る音がする。
大聖堂の外は雪である。ずっと室内にいるため、運動不足にならないようにしているのだ。
「ぐいーんぴよ」
「だぞー!」
きゃっきゃっと遊ぶディアとマルコシアス。
コンコン。
と、部屋の扉がノックされた。
「はーい」
ステラがパタパタと応対に出る。
扉を開けるとそこには着ぐるみ姿のナナがいた。
「こんばんは。……ちょっといいかい?」
「ええ、どうぞ入ってください」
ステラに促され、ナナは部屋に入る。
「ぴよ! ナナもぐいーんしにきたぴよ?」
「だぞ?」
「い、いや……ちょっと別用で……」
「なんか真面目な話っぽいんだぞ」
「ちゃんとすわってきくぴよ」
すちゃっとベッドに座るディアとマルコシアス。
ナナとステラも椅子に座る。
「どうかしたんですか?」
「……あの虎の絵、『半身の虎』にいわくがあるようなんだ」
「いわく、だぞ?」
「ふぅむ……」
ナナに言われて、ステラはあごに手をやる。
「さっきホールドに頼まれてね、あの絵を展示場所から取り外して隔離してきた」
「まさか虎が絵から飛び出してきたんですか?」
「それ、誰かから聞いたの?」
「ぴよ! ひるまのひげのおじさんたちが、そんなこといってたきがするぴよ!」
「よく覚えてるんだぞ」
「だいたいおぼえてるぴよよー!」
えっへんと胸を張るディア。
「酒飲んで酔っ払い状態のときに、虎を見たとか……。もう話はかなり広まってるかと思いますけど」
「なるほどね……。シスタリアもそんな噂を聞いていたみたいだし、あり得るか」
ナナが着ぐるみのふもっとハンドを組む。
「なら話は早い。実は――オードリー達の前にも虎が現れたらしいんだ」
「まじぴよ!?」
「それは――大丈夫なんですか?」
制するようにナナが腕を出す。
「なんか現れて、すぐに姿は消えたらしい。起きたのはそれだけだ」
「それなら良いのですが……。しかし、そんなことが?」
「ホラーなんだぞ。怪奇、絵から飛び出る虎さんなんだぞ」
「ぴよ……! すごぴよね」
想像力をオーバーフローしているためか、ディアはあまり怖くないらしい。
「まさにすごぴよ、さ。絵に魔力はあったけど……術式らしいものがあるかどうか。絵の具の下にあるなら、破かないとわからない」
悪魔の技術なら、絵の具の下に術式を組んで虎を出現させることもできるかもしれない。
それほど絵は大きく、表面積もかなりあるからだ。
「ふぅむ。なるほど……」
「でもホールドも確証なしにそこまではしたくないみたいだ。それで頼みがあるんだけど……」
ステラはこくんと頷く。
「私にも見てほしい、ということですね?」
「ああ、今夜はとりあえず僕が調べる。そのあとに、ちょっと見てほしいんだ」
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