306.村への帰路

 ヒールベリーの村。


 地下広場の探索を終え、俺達は村への帰り支度をしていた。地下から地上に出ると、強烈な夕日が差し込む。


「ウゴウゴ、あっちに馬車が来てる!」

「おお、そうだな……」


 西日の向こうにニャフ族の馬車が並んでいた。

 タイミングぴったり、言うことなしだ。ちゃんと迎えに来てくれていた。


「呼んでくるでござるよ!」


 ハットリがしゅばばっと馬車に向かい、こちらに呼び寄せてきてくれる。

 まもなく、ブラウンを先頭に馬車隊が到着した。


「にゃん。またまた大量にゃん……!」


 馬車から降りたブラウンが開口一番、パズルマッシュルームを見ながら言う。


「大量に討伐したからな……」


 俺の言葉にアナリアも同意する。


「やはり地下広場ごとにパズルマッシュルームが生息していましたからね……。エルト様やぴよちゃん達のおかげで、あっさり倒せましたが……もにゅもにゅ」

「……食べてるにゃん?」


 アナリアは頬をもにゅもにゅと動かしている。


「荷物が多少は減るかと思って……」


 もにゅもにゅ。

 ちなみにアナリアの隣にいるイスカミナもパズルマッシュルームをつまんでいる。


「もぐ。なんとなく食べちゃうもぐ……もにゅもにゅ」

「そうですね。学院時代の思い出が……もにゅもにゅ」


 なるほど……。わからなくもない。

 学生時代に食べた物ってその後、無性に食べたくなる時があるからな。

 フラッシュバックというか……。アナリアとイスカミナもそうなんだろう。


「ぴよ!」(持って帰る!)

「ぴよよー!」(担いで帰るよ!)

「……ぴよ」(……食べながら)


 コカトリスもそれぞれビッグパズルマッシュルームを担ぎ上げている。

 やはりコカトリスはタフだな。疲れている様子は微塵もない。


「んじゃ、村に戻りますかい? 今からだとちょうど、夜になった頃に村へと着きますぜ」

「そうだな、戻るとしようか」


 探索はそこそこ進んだ。

 見つけた地下広場は合計で八個になる。


 もう八個分進むと、村の領地から飛び出しそうだな……。計算だとそうなる。

 それはさすがにマズイ気がする。


「……まぁ、あと少しは進めても大丈夫か。ん……?」

「にゃーん?」


 坂道の彼方から、黄色のナニカがわっせわっせと近付いてくる。


「ぴよっぴよー」(もにゅっとするためー)

「ぴよよぴよー」(ぼくたちも運ぶよ、おっきなシメジー)


 黄色のナニカは二匹のコカトリスだった。


「……ぴよちゃん達が来ましたね」

「そ、そうだな……。しかもテテトカも一緒だ。珍しいな」


 うむ。

 脇を抱えられる形のテテトカがついてきているな。


 ぴよぴよぴよ。

 コカトリスの歩みは遅いようで速い。

 すぐに俺達の近くへとやってくる。


「やっほーですー」


 半分寝ていたのか、うとうと声のテテトカ。


「お疲れ様、珍しいな……。村の外まで来るなんて」

「ぴよちゃんが興奮してましてー……。シメジ狩りの帰りだけでも手伝いたいとー」

「ウゴ、当たってるような」

「まぁ……間違いじゃないな」


 地下広場の探索はパズルマッシュルームとの戦いなしには不可能だ。

 そういう意味では正しい。


「でもぴよちゃんだけに行かせるのもあれだし、ぼくも来たんですー」

「そうか……。ありがとう」

「いえいえー。森の外って、こんな感じなんですねー」

「……移り住んできた時は違ったのか?」


 確かテテトカはドリアードの地から、ここに来たと聞いている。

 その時の様子がどうだったかは聞いたことがなかった。


「んむー。前との違いは忘れましたー……」

「そうか……」

「でも久し振りに外に出た気分ですー」


 すとっと降りたテテトカが、懐からごそごそと草だんごを取り出す。


「ちょっと食べちゃいましたけど、ぴよちゃんのおやつにー」

「ちょっと食べちゃったもぐね」

「……いつものことですね」

「でもありがとう、コカトリスもお腹が空いて……」


 と、振り返るとコカトリスはもにゅもにゅと担いだパズルマッシュルームを噛んでいた。


「空いて……んん?」

「ぴよっ!」(草だんごっ!)

「ぴよよー!」(それも食べるー!)

「よかったー。食べるみたいですー」


 しかしテテトカは取り出した草だんごをまず自分で食べる。もぐもぐ。

 そして改めて草だんごを懐から取り出した。

 何事もなかったように。コカトリス達も不思議がらずに流しているな。慣れきっていた。


 ウッドは目をぱちくりとさせている。


「……ウゴ。やっぱり、すごい。色々と」


 うん、それは俺も同意だな……。

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