280.でんぐり返しとトロッコの乗り心地

 一方、大聖堂では。


 ナナとの会食が終わったステラが、自室へと戻ってきていた。鍵を回して扉を開ける。


「ただいまーです……!」

「おかえりぴよ!」

「お、おかえり……なんだぞ」

「どうしたのですか、それは……?」


 ディアとマルコシアスはベッドの上にいる。

 ディアは普通にぴよっといたのだけれど、問題はマルコシアスのほうだった。


 体が逆さまに丸まっている。逆立ちの途中のような、そんな感じである。


「……でんぐり返しの途中なんだぞ」

「ちょっとくせんしてるぴよ」

「なるほど、察しました」


 どうやらでんぐり返しを試みて、途中で止まったらしい。なので体が逆さま、というか中途半端なのだ。


「なぜでんぐり返しを?」

「マルちゃんが、おてほんをみせてくれるよていだったぴよ」

「今もその最中なんだぞ」

「……大丈夫ですか? でんぐり返れてないような……」


 ステラがベッドに腰掛けると、ディアがぴっと羽根を立てる。


「ぴよ! こんなかんじぴよ!」


 ぴよぴよ。ディアがベッドにぐりぐりと頭を押し付けると、ぱっとでんぐり返しする。

 見事なでんぐり返しだった。


「どうぴよ?」

「完璧ですね! かわいいです……!」


 ステラはもっふもふとディアを撫でる。それを気持ち良さそうにディアは受け止めていた。


 一方、マルコシアスはぷるぷるとそのままの体勢を維持しているようだった。


「無理をしないほうが……。そう、でんぐり返しはまた今度に」

「ぴよ。むちゃはだめぴよ」


 ステラとディアの言葉に、マルコシアスが力なく答える。


「やらして欲しいんだぞ……。我、まさかでんぐり返しも出来なくなっていたとは思わなかったんだぞ」


 そのままぷるぷるするマルコシアスに、ディアとステラは手を叩いて応援する。


「が、頑張ってください!」

「もうちょいぴよ!」

「ぬぬぬっ……!」

「浮いてます、心なしか……!」

「もうひとふんばりぴよ!」

「えーい、だぞ!」


 マルコシアスはベッドを蹴り上げた。


 ぽふ。


 そのまま、マルコシアスは大の字にでんぐり返しする。……うまく着地できてるとは言い難いが。

 とりあえず一回転はできたのだ。


「できたぴよ!」

「ええ、でんぐり返れてましたよ!」


 もにもにとディアとステラがマルコシアスを撫で回す。


「……だぞ。頑張ったんだぞ」


 ほろりとしているマルコシアス。


「もちろんぴよ! みとどけたぴよよ!」


 ディアがもにもにっと羽をマルコシアスの首に回す。


「完璧でしたよ……!」


 ステラもマルコシアスの頭をぽふぽふ撫でる。


「じゃあ、もう一回やるんだぞ」

「えっ」

「ぴよ……!?」


 ステラとディアが一瞬、視線を交差させる。


「……ぴよ。もっとがんばるぴよ?」

「だぞ。もっと早くできるようになりたいんだぞ」

「なるほど……。わかりました」


 窓の外ではしんしんと粉雪が降っている。

 なぜマルコシアスがでんぐり返しにこだわるのかはわからない。

 でも、そのこだわりは大切なものなのだ。


「付き合いましょう……! お風呂の時間まで!」

「ぴよ! あたしもやるぴよ!」


 二人の言葉にマルコシアスは目を輝かせる。

 きらきら……。


「ありがとなんだぞ……!」


 ◇


 ヒールベリーの村。


 俺達は夕方前に村へとたどり着いた。

 ほぼ予定通りだな。


 そこで皆と解散し、それぞれ別れることになる。


「ぴよよー!」(おつかれしたー!)

「ぴよっ!」(じゃねー!)


 コカトリス達はビッグパズルマッシュルームを担ぎ上げて、宿舎へと向かっていった。


「では、私もこれにて……!」


 ウッドから降りたアナリアも宿舎に向かう。

 なにやらパズルマッシュルームを保存食にする手段があるらしい。


 酢に漬けるとかなり長持ちするのだとか。もっとも味は酢の味が主体になるみたいだが……。


「んじゃ、俺もここで……!」

「お先に失礼するでござる」


 アラサー冒険者とハットリが手を振りながら、別れの挨拶をする。


「さぁて、まだ土風呂には入れるな。うーん、ちょっと入ってくるかあ!」

「……拙者も行こう。ちょっと足腰がぱんぱんになったでござる」

「はっはー、年か!?」

「お主に言われたくはないでござる」


 だんだんと別れて、最後にウッドとイスカミナと俺でナールのところへ報告に行く。


「ブラウンが先に伝えに行っていると思うが……」


 そのナールは冒険者ギルドで仕事をしていた。

 三階の執務室に集まり、報告会をする。


「にゃ。お疲れ様でしたにゃ」


 出された紅茶で喉を潤す。

 外は乾燥しているからな……。意外と喉は乾いていた。


「あらましはブラウンから聞きましたにゃ。まさか地下広場がもう一つあったにゃんて……」

「それなんだが、もう一つ見つけたんだ。これで三個目だな」

「にゃ……! 三個目もあったのですにゃ!?」

「ウゴ、面積は狭くなってたけどあったよ」

「ありましたもぐ。大まかなことはこちらにまとめてますもぐ」


 イスカミナがごそごそと紙の束を取り出す。ちゃんと彼女は記録を付けていたのだ。


「にゃー……じゃあ、一定間隔で地下広場はありそうなのですにゃ」

「恐らくはな。また調べてみるが……流れは見えたと思う。次はもっとスムーズにいくだろう」


 馬を用意して三個目の地下広場から、中に入る。

 同時に地上からも先行部隊を用意する。

 こうすれば物資補給や交代も素早く、効率的にできるはずだ。


「にゃ。手配はお任せくださいにゃ。すぐに用意しますにゃ」

「ウゴ、頼もしい……!」

「その辺りはよろしく頼む。そしてもう一つ、だが……魔導トロッコを作ろうと思うんだ」


 俺の横ではイスカミナがわくわくとヒゲをぴくぴくさせていた。

 かわいい。


「にゃ……! もちろん賛成ですにゃ!」


 ナールが前のめりになって頷く。

 おっ、ナールも乗り気か。良かった。


「あのスリル、たまりませんのにゃ……!」

「もぐ! エキサイトなやつを作るもぐ!」

「にゃ、いいですにゃ!」


 きらきらと目を輝かせるイスカミナとナール。


 うん?


 ちょっと方向性が違うような気がする。

 まさか乗り回すことを前提にしてるのだろうか。


「いや、貨物用なんだが……」


 そこで二人が頷く。


「もちろん存じてますにゃ。にゃけど、あれはけっこう楽しいのですにゃ……!」

「ぶるんぶるんと進むもぐー!」


 ……なるほど。

 どうやら魔導トロッコはアトラクションの一つでもあるらしいな。


 まぁ、それはそれで楽しみが増えるからいいんだが……。


 トロッコ、地下……うっ。


 何か前世の記憶がひっかかるような、ひっかからないような……。


 どこかの考古学者でそんな話があったかな?

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