268.チェックポイント

 ホールドが自分のスペースに戻り、いよいよ本格的に設営が始まった。


 ステラがナナと胸元から降りたディアとマルコシアスに呼びかける。


「では、やっていきましょー!」

「「おー!」」


 そうしてナナが収納から取り出した品物を、せっせとステラ達は設置していく。

 お手伝いのドワーフもいるので、かなりスムーズだ。


 ユニフォームやドールハウスがてきぱきと並べられていく。


「よいしょ、よいしょ……」


 ナナがどんどん収納から出していくが、ふとその手を止めた。


「ここから花飾りのやつだね。組み立てが必要だ」

「わかりました……! 慎重にですね」


 結局、花飾りはそのままでは無理でバラバラに分解して収納したのだ。


「僕の収納はだいたいイメージしたモノごとに分けられるけど、取り出すときの順番は入れたとおりにならない。適当になるからね」

「わかったぞ、混ざらないようにするんだぞ!」


 マルコシアスがぴっと前足を上げる。

 そうしてナナが収納から出した花や枝、土台の木や石やバットを仮置きしていく。


 それをディアとステラが組み立てていくのだ。

 土台を作り、元通りの花飾りにしていく。


「ぴよ。ここはこのかくど、ぴよね……」


 ぴよよよ……と目を細めながら、枝をぶすっと土台に突き刺す。


 ぶすっ、ぶすっ。


 マルコシアスがちょっとだけ不安になる。


「……結構、力が入ってるんだぞ?」

「だいじょーぶぴよ、ララトマはこれくらいのちからでやってたぴよ」


 実際、その通りである。

 ディアのふわもっこ記憶力はララトマの制作過程を完全再現していた。


「えだをさすときは、ぶすっとぴよ。そーっとやるとへにゃるって、テテトカいってたぴよね」

「テテトカ、言いそうですね」

「確かに言いそうなんだぞ」


 そんな感じで作業していると、オードリーとクラリッサがひょっこりと現れた。


「すごーい……! ディアちゃんもお手伝いしてるんだ!」

「さすがです……。それにたくさんのバットが……」

「そうぴよ! おてつだいしてるぴよよ!」


 ディアがオードリー達に向き直り、マルコシアスも前足をぴっと上げる。


「我もお手伝いだぞ」

「とってもえらいですね……!」


 クラリッサがマルコシアスの頭を撫で撫でする。


「それでふたりはどうしたのぴよ? なにかあったぴよ?」

「えっと、もうお昼だから一緒にどうかなぁって……」


 そのセリフにステラがはっと気づく。


「集中してましたが、もうそんな時間でしたか……!」

「言われると僕もお腹空いてるかも」

「ぴよ。もうおひるになってたぴよね……!」


 それぞれお昼になったことに驚き、手を止める。


「毎日の食事は成長の元です……! 休憩にしましょう!」

「わかったぴよ!」

「ラジャーだぞ」

「はいはーい」


 ステラの言葉に一同賛成し、休憩に入る。

 よく働いてよく休むのがヒールベリーの村のモットーである。


 オードリーがそれを見て、ひとつ頷く。


「三階の大広間で、ビュッフェ式の昼食ですから! 色々とありますよー!」

「いろいろあるぴよー!」

「食べるんだぞー!」


 テンションが上がるディアとマルコシアス。


「ふふっ、でも午後も設営ですからね……!」

「よくたべて、よくうごくぴよー!」


 そうして、ステラ達は大聖堂の三階へと向かうのであった。


 ◇


 一方、地下通路では――。


 進みながら、俺達は所々にパズルマッシュルームを見つけていった。


 ちょこんと壁や床に生えているので、目をこらさないといけないが。


「あっ、またパズルマッシュ――」

「ぴよー!」(てやー!)


 俺の指差した先にコカトリスがぴよっとジャンプし、パズルマッシュルームをゲットする。

 ……早い。

 クイズ番組の早押し並みである。


 コカトリスはいざというときは素早い生き物だ。

 的確に逃げようとするパズルマッシュルームを捕まえる。


「ぴよー」(青だー)

「ぴよよ」(青だねぇ)


 コカトリスはパズルマッシュルームを捕まえると、俺達に一度見せてくる。


 アナリアがさっとメジャーで大きさを測る。


「……サイズが少し大きくなっていますね。一割程度ですが」


 彼女の言葉に俺は頷いた。


「なるほど、ザンザスに近づくにつれて大きくなるのかな。まだ指サイズだが……」

「おそらくその通りかと思います。ですが悪い兆候ではありませんね……」


 そう、この先が行き止まりでない可能性が高まるわけだからな。


「ぴよ、ぴよよ?」(もう食べてもいい?)

「あっ、どうぞどうぞ!」


 アナリアが手をぱたぱた振ると、コカトリスがパズルマッシュルームを口に放り込む。


「もにゅもにゅ……もにゅもにゅ……ぴよ」


 見ていると数分間噛んで飲み込んでいるようなんだよな。

 かなりの歯ごたえがありそうだ……。


「それでは先にいくでござ――っ!?」


 先頭を進もうとしたハットリが、はたと足を止めた。それをアラサー冒険者が警戒しながら、


「どうしたんでい?」

「……反響が妙でござる。この先、音が抜けてるでござるよ」

「ウゴ……何か変わった?」

「どこかに出たもぐ?」


 ざわめく一行。

 どうやらこの先の通路に変化があるようだな。

 アナリアとイスカミナを下がらせ、隊列を再編する。


「よし……最大限の警戒で進もう」

「「はいっ!」」


 そろりそろりと進むと、突然石造りの通路が終わりを告げた。


 ……巨大な地下空間がコカトリスのアイライトに照らし出されたのだ。


「こ、これは……」


 天井には光る苔。それに水の流れる音も聞こえる。

 村の地下にある広場にすごくよく似ていた。


 しかしやや薄暗いか。全体の大きさまでは掴めない。


 この感想は誰もが持ったに違いない。皆、驚きながらもどこか納得していた。


 ハットリがアラサー冒険者に目配せする。


「……地下広場と明らかに似てるでござるな」

「ああいうのもひとつだけとは限らない、というわけですかい」


 そこでアラサー冒険者が剣を構える。


「しかし……どうやら、チェックポイントってやつみたいですぜ」

「で、ござるな」


 続けてハットリもクナイを構えた。


 そうして――コカトリスのぺかーで、広場の奥からパズルマッシュルームが現れる。


「……来たか!」


 それは巨大な、人の背丈ほどもあるカラフルなシメジであった。

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