267.もにゅもにゅ
警戒しながら地下通路を進んでいく。
……ふむ。
なんだか肌が少しざわつくな。
「ウゴ……? なんか空気が変わった?」
ウッドが俺に尋ねてくる。
「よく気がついたな、偉いぞ。確かに魔力の濃度が濃くなっているな」
「ウゴウゴ、やっぱり……!」
ウッドが納得して頷く。
俺とウッドのやり取りを聞いて、アラサー冒険者が驚きの声を上げた。
「えっ? もう魔力が濃くなってきたんですかい?」
「ああ、あの石が置いてあるところから肌がざわつくというか――魔力が濃くなっているな」
この魔力を察知する感覚というのは、なかなか説明しがたいが……肌がざわつく、湿度を感じるのに近いな。
この魔力を察知する能力は、魔力が強ければ強いほどより鋭くなる。
俺やステラはより早く変化がわかるわけだ。
アラサー冒険者も感覚を磨いているので、当然察知はするだろうが――ウッドのほうが気づくのが早かったというわけだ。
「ウゴ、でもほんのちょっとだと思う」
「そうだな、村と比べればほんのわずかだ。でも、確かに俺も感じ取った」
「……すごいでござるな。拙者にもまだわからぬでござる」
どうやらベテラン冒険者でも感じ取れないほどの差か。
だが、そのまま何事もなく通路を進んでいく。
と、通路の先を照らすコカトリスが反応した。
「ぴよっ!?」(あっ!?)
「ぴよよ!」(キノコだ!)
「ぴよよー」(壁に生えてるー)
ぴっと羽で指し示された先を見る。
通路の右の壁に小さな青いシメジが生えていた。
パズルマッシュルームの青色バージョンか。
ぞろぞろと取り囲んでみる。
「ウゴ、昨日見たキノコに似てる」
「こりゃ完全にそうですねい。パズルマッシュルームだ」
じっーとアナリアが側で青いパズルマッシュルームを見つめる。
「でもまだ小さいですね。もう少し大きくなると動き始めるんですが……」
パズルマッシュルームは実は動くキノコである。
大きくなると走り始める。
それで爆発したりするので大変なのだが……このぐらいのサイズはまだ動かないのか?
「んじゃ、ちょっと採取しますぜ」
皆が見つめる中、アラサー冒険者がそろりと手を伸ばす――。
「あっ」
青いパズルマッシュルームがぶるっと震えたかと思うと、にょきっと動き始めた。
「△○#ー!」
そのまま壁伝いに逃げようとする。
てててー。
意外とすばしっこい!
「ぴよっ!」(待ったー!)
「ぴよよー!」(逃さないよー!)
だが、ぱしっとコカトリスが飛びかかり即座に押さえ付ける。
「捕まえたもぐ!」
「でかした! そのまま――」
「ぴよ!」(食べる!)
ぱく。
……あっ。
コカトリスの一匹が捕らえたパズルマッシュルームを躊躇なく口に放り込んだ。
早業である。とても止められない。
もにゅもにゅ……。
「ぴよ?」(どう?)
「もにゅ……ぴよよ、ぴよ」(味はないかなー。でもあごのたぷは減りそう)
「ぴよよー」(そっかー)
のほほんとしているコカトリス達。
「い、いいのか? コカトリスがパズルマッシュルームを食べたみたいだが」
もにゅもにゅ噛んでる。
「大丈夫です、エルト様! コカちゃんは植物ならなんでも食べますから……!」
「そ、そうなのか」
「パズルマッシュルームを常食してるコカトリスもいるもぐ。月刊ぴよにも書いてあったもぐ」
……それなら大丈夫か。
アナリアもふんふんと頷く。
「ええ、コカ博士のコラムにもありましたからね!」
もにゅもにゅとまだ噛んでる……。
「ぴよー」(ちょっと味でてきたー)
「ぴよよー」(次はわたしも食べるぅー)
「ぴよ〜」(りょーかいー)
……そうして俺達はさらに先へと進んで行った。
◇
一方、大聖堂。
ステラ達はホールドによって、芸術祭の展示スペースへと案内されていた。
「へぇー、いいところですね……!」
ステラが感嘆の声を上げる。
一階の大広間、その前部分が展示スペースらしい。
この奥に国宝級のお宝が置かれるということで、絶対に人が通る空間と言えた。
天井はかなり高く、格調高い壁の彫刻が素晴らしい。巨大シャンデリアのおかげで光も十分である。
そんな中をホールドがちょび髭を触りながら、
「共同開催だからな、この大広間の半分はヒールベリーの村とザンザスで使ってほしい」
「よろしいのですか?」
「俺は展示品を売り買いするのもあるからな。二階にたっぷりスペースをもらった」
コカトリス着ぐるみのナナが補足する。
「一階はゆったりと展示品を楽しんでもらうための空間だね。それで場を温めるのさ」
ナナの言葉にステラの胸元にいるディアが首を傾げる。
「ぴよ? あのおはなで、あったまるのぴよ……?」
「気持ちがハイになるということだぞ」
同じくステラの胸元にいるマルコシアスが付け足す。
「ぴよ! うれしいきもちみたいなものぴよ!?」
「そんな感じなんだぞ」
「そんな感じだね……さて、それじゃ準備もちゃっちゃっとやっちゃおうか」
ナナがお腹をごそごそする。収納から取り出すためだ。
「やるぴよー!」
「やるんだぞ、おー!」
ディアとマルコシアスは朝から雪を見てテンション高めである。
もちろんステラも気合が入っていた。
「ふふ、頑張りましょうね……!」
そしてにゅにゅっといくつものバットが、ナナの収納から器用に取り出される。それらを見て、ステラがぱぁっと微笑んだ。
「よいしょっと、まずはバット!」
「はい……!」
「次もバット、これもバット、その次もバットバットー!」
「ぴよー! バットバットぴよ!」
「バットバットなんだぞ!」
どんどんバットが積み上げられていく。
バットに囲まれて寝たナナの苦労の結晶である。
ホールドがちょび髭を触る手を止めて、まじまじとナナを見つめる。
ナナの収納の条件――長時間、一緒にいることを知っている彼はがぽつりと呟く。
「……ナナも大変だったんだな」
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