262.つなぎの素材

「おやー……なんとー……」


 テテトカが目をぱちくりさせる。彼女にとっても意外だったらしい。


 いずれにせよ、このままこの話題を進めるわけにはいかないな。

 ウッドがいるし……。


「……ここじゃなんだから、上で話そう」

「はーい」

「アナリア、悪い。ついてきてくれるか? 君の知識が必要になるかもしれない」

「わかりました……!」


 草だんごの材料については、俺よりアナリアのほうが詳しいだろう。

 薬師としての知識があるからな。


 俺はさらにウッドにも声をかける。


「ウッド、ちょっとだけ打ち合わせしてくる。コカトリス達を見てやってくれ」

「ウゴ、わかった!」


 コカトリスが羽をぱたぱた振ってくる。


「ぴよー」(いってらー)

「ぴよよー」(打ち合わせ、がんばー)


 草だんごの合間に飲んでいた紅茶をカップに淹れる。

 さすがに飲み物無しでお客を書斎には案内できないからな。


 テテトカ、アナリアと階段を登り、書斎へと迎え入れる。


 途中でアナリアへは事情を説明する。テテトカがララトマの件で来たことをだ。


「ごくり……。春はまだですけど、春ですね……!」

「ま、まぁ……緊張しないでいいからな」


 向かい側のソファーを勧めると、ぽてっとテテトカが座った。俺の隣にはアナリアだ。


 なんだか保護者面談のような感じである。

 いや、まさに保護者面談か……。


 紅茶をすすり、テテトカが言う。


「それでー……ララトマのことなんですけど」

「ああ、プレゼントだったか……」

「そうなんですー。なーんかアレコレ悩んでてー」


 テテトカの言葉に、アナリアがふんふんと頷く。


「わかりますわかります……」

「あーでもない、こーでもない……。いっそ、本人に聞いたらと思ったんですけど」

「……やめてさしあげてください」


 アナリアがそっと目をそらす。

 何かあったのかな?


「さすがにそれはあれかな、と考えてー」

「そういうことか……」

「ぼくたちの間では、服や植木鉢をあげるのは家族になりたいという意思表示ですしー……。じゃあ、いつでもおいしい草だんごとかどうかなって」

「……同じだな」


 俺達と全く同じ結論だった。


「へー、エルト様もそんな風にー?」

「ああ……率直に聞くけど、草だんごのプレゼントはまずいのか?」

「いいえー。作り置いた草だんごを渡すのは、親愛の証ですよー」

「そうなんですね……。クッキーを渡すみたいな……」


 アナリアが甘酸っぱい青春を思い出してるかのようだ。


 というか、そういう文化はこっちでもやはりあるんだな。

 前世の知識的には、さしずめバレンタインとホワイトデーみたいなものだろうか。


 草だんごのプレゼントも問題なさそうだし……このまま進めるのがいいだろう。

 ビッグ草だんごの件はあるが。


「……それで少し問題があってな」


 俺はビッグ草だんごの固まらなさを相談した。

 小さく、普段サイズで作ることも出来るのではあるが。


 俺の話を聞くと、テテトカが腕を組んで首を傾げる。


「うーん。難しいですねー」

「何かの材料のバランスだとは思うんですけど……」

「そー、材料に赤黒いキノコみたいなのがありますよねー?」

「ちょっとだけ刻んでいれるやつか?」

「ベリーマッシュルームですね」


 確かほんのり甘みがあるやつだな。

 今もリビングに材料としてある。


 この領地の森でも取れるのだが、かなりの希少品だ。見た目は赤黒いキノコだが、刻むと甘みがあるのだ。


「そうですー。それが草だんごのコシを決めるんですけどー……もっと綺麗な赤じゃないと、大きな草だんごはダメなんです」

「真紅のベリーマッシュルームですか……」


 アナリアの声が露骨に曇る。


「ここで採取はできないやつか……」


 俺も領地で取れるのは一通り把握している。

 しかしベリーマッシュルームは赤黒い、低ランク品しか取れないはずだ。


「取り寄せるしかないが、綺麗な赤ならばオッケーなのか?」

「そうですー。ぼくもそれでおっきな草だんごを作りましたしー」


 テテトカが両手を広げて大きさをアピールする。


「むかしですけど、こーんなやつです!」

「そ、それはすごいな……」

「とてつもなくおっきいですね……!」


 だけど問題は取り寄せか。手元にないと始まらない。


「うーん……ザンザスに問い合わせれば、手に入るか?」

「ええ、おそらく……」


 アナリアの言葉の歯切れが悪い。

 何か懸念があるんだろうな。


 俺の視線に気が付いたか、アナリアが軽く息を吐く。


「真紅のベリーマッシュルームはとても貴重です。手に入らないわけではないのですが」

「……問題があるんだな」

「ええ、この国で真紅のベリーマッシュルームが確実に手に入るのは一箇所しかないのです」

「へー、そうなんですねー」


 テテトカはぽよぽよしている。


「ザンザスのダンジョン、第三層……色々と名前がありますが『謎解きの回廊』あるいは『キノコの迷路』……その深部にしかありません」

「……なるほど」


 それは困ったな。

 第三層からは状態異常を仕掛けてくるギミックが多いと本に書いてあった。


 そしてそのため、潜るのも容易ではない。今、第三層は入場も制限しているはずだ。

 つまり手に入るのも容易ではないはず……。


「でも……」


 そこでアナリアがおそるおそる、


「地下通路の先は第三層に繋がる可能性があります。つまり……」


 アナリアの言わんとしていることを俺は察した。

 可能性は低いだろうが……。


「……もしかしたら、真紅のベリーマッシュルームがあるかも……か」

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