214.湖へレッツゴー

 村から小一時間、ボートを運んで湖に到着した。

 湖周りの木からは葉が落ちているものの、それだけだ。

 穏やかに波もなく、水面がかすかに揺れている。


「よっと……この辺で大丈夫ですか?」

「おっけーですにゃ。この布の上に降ろしてくださいにゃ!」

「はーい、とっ」


 ステラが山盛りのパーツを布の上に置く。

 ……足元しか見えてないはずだが、本当に何事もなかったな。

 息も切れていないのはさすがだ。


「ウゴウゴ、俺の持ってるパーツもここに置く?」

「お願いしますにゃん!」


 ウッドもボートのパーツを置く。


「大丈夫か、二人とも」

「ウゴ、全然平気!」

「もう五周は余裕です!」


 ステラとウッドが並んでサムズアップする。

 本当にイイ笑顔だな。まだまだ元気らしい。


 俺も大樹の腕で運んできたボートのパーツを布の上に置く。

 大樹の腕を解除して……とりあえず運ぶのは終わりだな。


「ありがとうございますにゃん。エルト様方が運んでくれましたおかげで、他の物を持って来れましたにゃん」


 見るとニャフ族は食べ物や釣り道具を持って来ていた。

 なるほど、湖を見ながらのお昼ご飯もいいな。


「ボートの組み立て方はもうわかっていますぜ、任せてくだせえや」


 どんと胸を叩き、アラサー冒険者達が請け負う。

 頼もしいな。

 こういう時、連携が取れていると手早く進む。


「それじゃそちらは任せよう。俺は――」


 コカトリスボートが十台か。

 ボートの持ち主達は気にしていないようだけど、このままだと雨ざらしだ。

 俺が気になる。


「ボート用の屋根でも作るか」


 俺の言葉にステラが頷く。


「いいですね!」

「にゃ!? そこまでして頂かなくても……ですにゃ!」

「気にしないでくれ。せっかくのボートだし、屋根はあった方がいいだろう」

「にゃ〜〜ありがとうございますにゃ! とても嬉しいのですにゃ!」

「にゃーん!」


 皆、大喜びのようだな。

 ぱぱっと木材を生み出すのは俺にしかできない。

 とはいえ屋根そのものは生み出せないのだが……。


「どうぞ、エルト様。杉でもヒノキでもポプラでもなんでもどうぞ……!」


 すでにステラがどこからかゲットしたナタを持っている。キラッと光ってよく切れそうだ。


「かあさま、やるきぴよ!」

「神業が見られるんだぞ」

「しゅしゅっとやね、つくっちゃうぴよ!」

「ええ、しゅしゅっと作ります!」


 頼もしいな。

 この前のボートのおもちゃ作りでステラの腕前はわかっている。


「よし、じゃあ作るとするか!」


 ◇


 魔力を集中させ【植物生成】で色々と木材を生み出す。ヒノキやら松やらだな。


 にょきにょきと地面から生えては、ウッドが引き抜いて割っていく。

 それをしゅぱぱぱっとステラがカットし、板にするのだ。


「な、なんてスピードだ……。負けてられねぇぜ!」

「「にゃー!」」


 アラサー冒険者とニャフ族も声を上げ、トンテンカンとボートを組み立てていく。

 嵌めあわせて、金槌で整えているんだな。


 合わせて防腐剤を塗っていく。白ナマズという魔物の油を溶かしたやつだな。


「がんばるぴよ!」

「フレーフレーだぞ!」


 ディアとマルコシアスが踊りながら応援している。

 かわいい。


「わたしは草だんごをこねてますです!」


 ララトマはおやつ係をやってくれるらしい。

 レインボーフィッシュの餌にもなるしな。

 ちょうどいい。


 小一時間後。

 割とノリありきで始めたが、うまく行った。


「できましたにゃん!」

「こっちも出来上がりましたよ!」


 大樹の腕で板を持ち上げたり動かしたり……結構な時間、魔法を使ったな。

 ぐるぐると木材を回すとステラもぐるぐる動いてあっという間に仕上がっていったのだ。

 おかげで作業がはかどって、早く出来た。


 色々な板を繋ぎ合わせて、ボート十台分の横幅を持たせた。結構大きなガレージみたいだな。


「す、すっごい屋根ですにゃん……」

「こんな屋根を作ってもらって……ですにゃ」


 ニャフ族がうるうると感動している。


「「ありがとうございますにゃー!」」

「んふふ……どういたしまして!」

「ウゴウゴ、これで雨も大丈夫!」

「ああ、完璧だな」


 ボートも九台の屋根が取り付けられ、布の上に並んでいる。

 つぶらな瞳と丸っこいフォーム。

 デフォルメされたコカトリスのボートだ。


「にゃーん、よくできてるにゃん!」


 たくさんのニャフ族が頬すりしながら喜んでいる。


「いやー……やっぱり感慨深いですねぇ。こういう形のあるものが手に入るとは」


 アラサー冒険者もうんうんと頷いていた。


 朝から湖に来て組み立てたが、まだお昼にはなっていない。

 ふむ……先にボートを浮かべても良さそうだな。

 その後にお昼ご飯にしようか。


「まだお昼には少し早いか……。どうだろう、湖に浮かべてみるのは」

「やりますにゃん! 早速、試乗ですにゃん!」

「「にゃーん!」」


 というわけで、ボートの試乗会だ。

 皆が見守る中、大樹の腕でボートをゆっくり水面の上に持ってくる。


「ドキドキですにゃん……!」


 黄色いコカトリスボート一号の底が、水面と接した。

 大樹の腕を操作してボートを水面に浮かべる。


 ……ぷかぷか。


「ういてるぴよー!」

「大丈夫そうなんだぞ!」


 ちゃんと浮かんでいる。

 よしよし、うまくいったぞ。


「にゃー!」

「やったぜー!」


 一斉に歓声が上がる。


「ウゴウゴ、良かった」

「ですー!」


 ララトマがぴとっとウッドに寄り添っている。

 うんうん、イベントごとだと盛り上がるよな……。

 俺もそれでステラに告白したんだし。


「にゃ、それじゃ試乗会をしますにゃ。……実はいくつかのボートは共同購入なんですにゃ」

「なるほど、それでボートよりも大分人が多かったんだな」


 今集まっているのは四十人くらいか。

 もちろん次に買おうとしている人もいるだろうし、不思議には思ってなかったが。


「……ナールも一口噛んでいるのか?」

「にゃ、そうですにゃ……。四人で一台にしてるのですにゃ」


 ナールが赤色のコカトリスボートを指差す。

 ニャフ族なら詰めれば四人くらいは大丈夫だな。合理的だ。


「それじゃ、行ってきますにゃんー!」


 ブラウンがいざという時の冒険者を連れて、湖に漕ぎ出していく。

 オールをこぎこぎ、あっという間に進んでいく。


「ふむ、順調なようだな」


 ボートは作って終わりではない。

 水面を進んでいかないと駄目だからな。


 その点、ちゃんと前進しているようだし……問題ないように見える。

 とはいえ、俺には前世のボートやフェリーくらいしか水上の知識がないわけだが。


 しかもこの世界では船に乗ったこともない。海さえ見てないしな……。

 つまりはド素人なのである。


「ウゴウゴ、これ一個だけ屋根ないね」

「ですねー。なんででしょう?」


 次々とボートが漕ぎ出すなか、ウッドが首をひねる。


「ウッド、君を乗せるのにアレだから取り付けてないんだよ」

「ウゴ……!? そうなの?」

「ああ、色々と手伝ってくれたお礼だそうだ」


 そこでアラサー冒険者がぐっとサムズアップする。


「ああ! 水の上に行くのは楽しいんだぜ!」


 釣り竿を背負って、完璧な格好だな。


「……というわけだな。どうだ、ボートに乗ってみるか?」

「ウゴウゴ……わかった、ありがとう!」

「良かったです!」


 そこでウッドはララトマを見る。


「……ウゴ。ララトマも一緒に乗る?」

「えっ、いいんです!?」


 ララトマがびっくりしていた。

 俺も心中、ちょっと驚いた。


 もうひと押し必要だと思っていたが、ウッドから言い出すとは。

 大樹の塔とかで思ったよりも仲良くなっていたのか。


「ウゴウゴ、乗れそうだし……」

「わーいです!」


 ララトマが飛び跳ねて喜んでる。


 ドリアードが飛んで喜ぶのを見るのは初めてかも知れない。

 良かったな。ちょっと俺もうるうるしてきた……。


領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:冒険者ギルド、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿、コカトリス大浴場、コカトリスボート係留所

 総人口:243

 観光レベル:B(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理のレストラン)

 漁業レベル:C(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁)

 牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)

 魔王レベル:D(悪魔マルわんちゃん、赤い超高速)

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