206.全く新しい何か
レイアの目付きが少し鋭くなる。
たまに見る本気モードだ。コカトリス帽子に包まれた頭の中で、そろばんを弾いているんだろう。
「我々には有り難いお話ではありますが……対価は何になるのでしょう?」
「ふむ……ザンザスが発展すれば、この村にも恩恵はあると思ったが」
「それは勿論、関係は深いですから……。しかし今の段階で後押しして頂いても、エルト様にメリットがありますかどうか」
まぁ、そうだろうな。
光明さえも見えないと言っていたし。
俺もザンザスと数カ月付き合って、わかったことがある。
ザンザスは投資を惜しまない。あるいは損を恐れないというべきか。
一番最初の麻痺治しのポーションもそう。
最近だとお祭りで大量の着ぐるみを用意したという。芸術祭に乗るのもそうだ。
それがうまく行かない、ということは相当なモノだろう。単純な金銭やらでは多分、解決出来ないのだ。
だからこそ俺が関与すればメリットも大きい。
ザンザスはそこでケチらないだろう。
もちろんうまく行けばだし、立ち回り方は考えなければならないが。
「例えばうまく行ったら、ザンザスが使う木材を少しこの村から買うとか」
「…………」
「こっそり育てた木ならわからんと思うが……」
「……さすがに即答は出来かねます……!」
むう、仕方ない。やはり木材はそれなりに危険か。
お互いにとって悪くないと思ったんだが。
「エルト様、しかし……どうしてそこまで?」
「……ふむ。前はそれほど、木材をやる気はなかったんだが」
俺は自分で考察する。
「でもニャフ族をはじめとして、船を持ちたい気持ちが想像以上にあるのを感じたんだ。俺はそれに応えたい」
統治者として大切なこと。
それはおそらく、皆に夢を見せることだと思う。
そして俺も、皆の夢を追いかけることだろう。
「なるほど……。わかる気がいたします。私もコカトリスを広めたくて仕方ありませんからね」
「お、おう」
それは皆の夢というか、主にレイアの我欲では?
俺は思ったが、口には出さなかった。
「ともあれ、エルト様のお考えは承知いたしました。どのような方策を取るのかも含めて、一回ザンザスの議員へ内々に問い合わせます」
「そうだな。急ぎはしないが、よろしく頼む」
まずはコカトリスボートか。と、そこで俺はふと思った。
「……そう言えば、ザンザスで船を持つとしてもアレなのか。やっぱりコカトリスデザインの……?」
「ええ……! もちろん海コカトリスの魅力を再現できればいいかな、と!」
一切の迷いなく、レイアは言い切った。
この感じは……船員にコカトリス着ぐるみを着せて、100%コカトリスシップを作るつもりだな。
そこそこ長い付き合いだから、俺にもわかる。
レイアの頭の中には、コカトリスシップの上で手を振るコカトリス船員達がいるに違いない。
……まぁ、そこを深くは問うまい。
俺もディアとウッドをモチーフにした冒険者ギルド作ったし……。
◇
それから一週間、村では色々なことが進んでいった。
日常のことをやりながら、芸術祭への出展物の準備だな。
俺は今、大樹の塔にいる。
今日はアナリアやイスカミナ、ララトマが綿に枝や花を添える練習会だ。
来たら、ちょうどこれから講評らしい。
ちなみにウッドも参加している。この前、たまたま居合わせてから作り始めたらしい。
もちろん、何の問題も無い。
むしろ自立精神を養うのにぴったりだろう。
俺は単なる見学で、特にどうこうという訳ではない。
運良く居合わせたからな。
どんな感じか一回、見ておきたかったのだ。
「はいはーい、どうですかー?」
「ぴよよー」(できましたかー)
講師はテテトカだな。
それぞれの前にテーブルがあり、綿を土台にした作品が出来上がっていた。
というより、俺が来たときにはもう出来上がっていたんだな。
大きさはテテトカが作った生花ドラムセットの半分くらいか。
ちなみにテテトカの背後には、助手ぴよ(草だんごで雇われた勤勉なコカトリス)が控えている。
「はい、できました!」
「どれどれー?」
一番最初に手を上げたのはアナリアだ。
青や赤の花をうまく組み合わせて、華やかに仕立てている。
フラワースタンドに近いが、正統派な生花という気がするな。
「ドキドキ……!」
「おー……。ふーむ……」
テテトカはぐるぐるとアナリアの作品の周りを歩く。
「ふむふむ……」
「ぴよー?」(先生、どうですかねー?)
テテトカがポケットから草だんごを取り出し、もぐもぐと食べ始める。
その姿はまさに大御所の芸術家だ。ちゃぶ台をいきなりぶちまけそうな雰囲気さえある。
「助手ぴよちゃん、上にアップアップ〜」
「ぴよぴよっ!」(らじゃぴよ!)
背後のコカトリスがすっとテテトカの脇に羽を入れて持ち上げる。
作品を見下ろすためか。本格的だな。
しかしあの助手ぴよは、テテトカの言葉がわかるのか……?
まぁ、ずっと一緒に作業してるからな。
不思議はないか。
「ふーむむ……はい、降ろしてー」
「ぴよぴ!」(ほいさっ!)
すちゃっとテテトカが降りてくる。
「ありがとー、はいどぞー」
テテトカが草だんごを助手ぴよに食べさせる。
「ぴよー!」(どういたしましてー!)
ごっくんと一息に飲み込む助手ぴよ。嬉しそうだな……。
「で、この作品ですがー……」
「は、はい……ごくり」
「なかなかいいですねー。上から見ても隙がありません」
「ありがとうございます……!」
合格らしい。
ここから見ても良くできてるもんな。
「あとはー……そうですねー、黄色や紫色の花も添えて、もっとたくさんの色を使ってみましょー」
「はい……!」
おお、真面目なアドバイスだな。
やはり一家言あるか。
「では、イスカミナの作品はー……ほほー」
テテトカが次の作品に歩いていく。
イスカミナの作品は……おお、くっきりとした灰色の石を混ぜて、枝を中心に作ってあるな。
華やかさはなく、どことなく侘び寂びを感じる。
「ふむふむ……」
「どうですもぐ?」
「ちょっとお待ちをー。助手ぴよちゃん、斜めに寄りかかるよー」
「ぴよっ!」(どうぞ!)
斜め……?
と、テテトカが体を後ろに倒し始めた。それを背後の助手ぴよが支える。
テテトカは斜めの体勢のままだ。
……お、おう。斜めだな。見る場所にここまでこだわるとは……。
「ほうほう……ごっくん」
そして斜めのまま、草だんごを食べるのも忘れない。余裕の姿勢だ。
やがて元の体勢に戻ったテテトカが、また草だんごを助手ぴよに食べさせる。
「これはまた攻めたねー……でもいいよ、この方向性」
「ありがとですもぐ!」
「今度はー……そうだね、枝をもっと減らしてみるか、あるいは苔や草を地面に置くとかかなー」
「なるほどですもぐ……!」
枯山水に近くなるな、その路線は……。
それはそれで新しい芸術に足を踏み入れそうだ。
「枝や花を足すのもいいけど、減らすのもいいよねー。重要なのはー……全体の完成度ってやつ?」
「はいもぐ!」
イスカミナもすっかりテテトカの生徒になっている。
そしてテテトカは次の作品――ウッドの作品に向かう。
……うん?
なぜ小さなバットが綿に刺さっているんだ?
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