140.準備、できました!
こういう時に限って、人に見られる……。
人生なんてそんなものだ。
俺はすぐに降ろしてもらうと、騎士達を出迎えた。
リーダーは前にも来たラダン。
それ以外の騎士は兜を外してもらっても、見覚えがない。
「なるほど……。コカトリスとのふれあいコーナーを作るので、そのお試しでしたか……」
「ごほん、そう……そんな感じだ」
咳払いをしつつ、さっきの光景を釈明する。
そう……単に抱っこされてたわけじゃない。
例えば乗馬コーナーみたいなのを作るとして、試してみるだろう。
あれはそんな感じだったのだ……。
……もこもこで気持ちよかったけど。
「話は聞いている。警備の増員はありがたい。まずは宿に案内しよう」
「ありがとうございます。さっ、行くぞ」
一緒に歩きながら、大樹の塔の近くにある宿へ案内する。
警備というより、人の列をさばく人員だが。
ガタイが良くて全身鎧は威圧感があるからな。
「「は、はいっ……!」」
騎士達がおっかなびっくり付いてくる。
「ぴよ……ぴよ」(毛が少ないね……この人達)
「ぴよよ」(寒そうだね)
「ぴよー」(震えてるー)
「ぴよ?」(抱きついて暖めてあげる?)
「ぴよ、ぴよ」(どうしようか、悩む)
コカトリスもドリアードも一緒にぽてぽてと歩いてくる。
「なんだかコカトリス達が騎士をちらちら見てる気がするぞ?」
「確かにそうですね、マルちゃん……。珍しいんだと思いますよ」
「そっかー」
マルコシアスの興味はそこで失われたらしい。ちなみにディアは今、マルコシアスが抱えている。
「……この前に来た騎士より、若い気がするな」
俺は何とはなしに口にする。
兜を外した騎士達は、俺より少し年上くらい。騎士としては新米の部類だろう。
「ええ、ここ数年で騎士になった者達ですね」
「ふむ……? なるほど、度胸試しか」
俺はこそっとラダンに伝える。
騎士にとってコカトリスは天敵と言えるモノ。実際、危険はないのだが……。
精神を鍛えるにはぴったりか。
「ご明察です、エルト様。もちろん、腕前は確かなので……」
「そこは心配してないが……」
ぴよぴよ。
コカトリスが身体を揺らしてぴよぴよするたび、騎士達が反応する。
びくっ、びくっ。
「ま、まぁ……慣れるだろう。コカトリスは温厚で優しいし……」
それとふわもこで気持ちいいし……。
とは言わなかったけど。
◇
広場には大きな舞台が作られ、机と椅子がセットされている。
魔法具の灯りも取り付けられているな。
祭りのメイン会場でもある。
「できあがってるぴよねー!」
「ああ、劇の練習成果を見せるときだぞ!」
この舞台では『英雄ステラ、地獄のマルコシアスを討つ』と草だんご祭りを開催予定だ。
それ以外の時間は生ぴよ握手会だな。
「あの人はギルドマスターの……。一体何を?」
ラダンが目を細めて舞台を見る。
ちょうど舞台の上では、レイアがコカトリスに抱きついて握手をしていた。
というか、右手で握手しながら左手でコカトリスのお腹を揉んでるみたいだが。
「生ぴよ握手会ですね」
「……な、なるほど」
「とっても気持ちいいです! やっていかないのですか!?」
まだコカトリスに抱えられたままのララトマがぐいぐい押してくる。
この辺りは怖いものなしだな。
「ヒールベリーの村にきたら、コカトリスに触っていくべきだぞ。もふもふしないのは、もったいないんだ」
「ウゴウゴ、とくにあぶなくないし……」
「そうだ。コカトリスに触れる機会なんて滅多にないからな」
ラダンはそう言うと、近くにいたコカトリスの羽にふもっと触れる。
おお、さすがだ。率先して行った。
「隊長……俺、婚約者が……!」
「触れ」
「は、はいっ……!」
身体全体をがくがくさせながら、一人がコカトリスの羽にちょんと触れる。
だがラダンは目を細めて、
「もっとだ」
「は、はい……」
「こうですよ、こう」
ステラがコカトリスに背を向けて両手を広げる。
「ぴよ!」
そうするとコカトリスは羽を差し込んで、また抱える体勢になる。
その体勢がお気に入りになったか。
確かに正面から抱きつくだけでは味わえない、高度なふわもこ感があるからな。
「私もまさか、正面と背でこれほど違いがあるとは思っていませんでした……」
「そうです、意外と違うのです!」
「ええ、新しい発見とはいいものです……」
ほわほわとするステラ。
ちゃっかり抱えられる楽しみを謳歌してる。
……俺も騎士を案内したらもう一度、抱えてもらおう。
「まぁ……ステラのやり方は高難度だ。いきなりやるものでもない。まずは……」
そこで俺はぴったりの物を近くの出店で見つけた。俺は店主のニャフ族に断って、ひとつ持ち出す。
コカトリスをいきなり触るのは怖い、という人のために。俺とて無策ではない。
レイアもきっと、同じ事を考えたのだろう。
だからあれだけ力を入れたのだ。
「このコカトリスぬいぐるみから、慣れていこうな」
◇
というわけで騎士団にぬいぐるみをプレゼントして、案内はとりあえず終わった。
荷物くらいは降ろしてもらわないとな。
俺達はそのまま舞台を見て回る。
俺が生み出した机と椅子。
それと舞台にはこれから大型テントを取り付ける。
いよいよ、という所だ。
問題は特になさそうだな。
テテトカも感慨深げに、
「草だんごも揃えましたし、もういつでもこーいって感じですねー」
「頼もしいな……」
テテトカがドラムを叩きながら歩く。
トントントン!
そう言えばテテトカの鳴らすドラムは結構ビートが早い。
テンションが上がっているのだろうか。
ララトマは表情豊かなので、楽しみにしているのがよくわかる。
「テテトカおねーちゃんも、お祭りは久し振りですもんね!」
「そだよー。いやぁ、こんなに大規模にできるなんてねー」
舞台の上に目を向けると、コカトリスが一列に並んでぴよぴよしてる。
あの舞台に上がっていって、コカトリスとふれあうわけだ。
「後は人が来るかどうかか……」
あまり心配はしてないが。
ホールドの方が問題だろうな。
「大丈夫です、その辺りは!」
舞台の上でレイアがぐっと拳を握る。
「なにせ、ここでコカトリスとふれあえるとザンザスで宣伝してますからね。観光客も来ますが、ザンザスの住人も来るのです!」
「おー」
言われればその通りだ。
コカトリス大好きなザンザスの人達も、手が空いたらこちらに来るか。
隙がない。
「というわけで、かなり忙しくなりそうなので……今のうちにもふもふしてます」
レイアはそう言うと、コカトリスに抱きついた。
「エルト様もどうですか? あとは大樹の塔とか地下広場くらいですが……。こちら、安定感抜群で楽しいですよ?」
「楽しいぞ!」
「ウゴウゴ……ういて、あるいてる……」
いつの間にかマルコシアスとウッドも抱えられているな。
本当に目を離した隙に……。
出店の中にはドリアード印の植木鉢とか高級土とか、謎のラインナップもあったが……。
「……コカトリス達は大丈夫なのか?」
「だいじょうぶぴよ。むしろあんしんするぴよ!」
まぁ、ディアもいつ抱えても嫌そうにしないしな。コカトリスはスキンシップが本当に大好きなんだな。
騎士達もいなくなったし、また抱えられるチャンスか。
「よし、それじゃ……お言葉に甘えよう」
お祭りになれば、色々と忙しいのは確かだ。
いまのうちにもふもふしておくか……。
というわけで、俺達はそれぞれコカトリスに抱えられて楽しんだのだった。
コカトリス祭り準備度
100%
草だんご祭り完了
地下広場に宿設置
エルフ料理の歓迎(トマトの辛味炒め、蒸し餃子、杏仁豆腐)
ディアの劇(着ぐるみコカトリスedition&紙バット)
冒険者ギルドの建設
大型設営完了、飾り付け完了
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