136.冒険者ギルド、建設!
――朝か。
もう十二月だと、起き抜けはちょっと寒い。
綿の中で身震いすると、首に感触がある。
「すー……すー……」
「……むぅ」
ステラの片腕が俺の首に乗せられてる。
顔もかなり近い……。
ちょっと手を出せば、髪を撫でられるくらい。
ディアとマルコシアスは俺とステラの間に挟まっている。
「ぴよー……すやー……マルちゃん、およぐのじょうずぴよー……ぴよー……」
「……いぬかきなら、まかせろー……」
この寒いのに泳ぐ夢でも見てるのか。
しかもなんとなくリンクしてるような……。
今度聞いてみるか。
ステラの寝る位置は、この頃さらに近くなっている。
……まぁ、寒いからな。
暖房もあるけど、付けっぱなしというわけにはいかない。朝方は少し冷えるのだ。
なので少しでも暖かさを求めて、ということだろう。
「すー……だめぴよよ、しっかりかわかさないと……ごわごわになっちゃうぴよ……」
「……ぐー……ごわごわはいやだー……」
「むにゃ……」
ステラも幸せそうな寝顔だな。
もう少し寝かせておくか。
まだ起きるには早いからな……。
今日で大規模な設営を一気に片付ける。
ナールの話だと、ぽつぽつ旅行者が通り掛かる頃合いだそうだ。
いよいよ村全体でお祭りだ。
……ホールド一家もやってくる。
エルフ料理も仕上げたとはいえ、前の手紙の件もある。
家督がどうのこうとか……多分、その話も出るだろう。
真意はわからないが、気合いを入れないとな。
◇
身支度を整えて、冒険者ギルドの建設予定地に向かう。
最近はやはり風が冷たい。空気も乾燥している。
でも逆に雨は少なくなっているようだ。
お祭りまでこんな天気なら言うことなしである。
「皆、揃いましたにゃ!」
「ありがとう、ナール」
村にいる人間が勢揃いしている。
その前に俺が立つ。
村人もいまや二百八人か。
隣にはステラと抱えられたディア。
それにウッドとマルコシアス。
俺の家族だな。
思えばほんの数ヶ月前はゼロだったんだよな。
それがあっという間にこれだけの人が住む村になっている。
感慨深い。
俺は息をひとつ吸って吐いて、皆に宣言する。
長い言葉は必要ない。
何をするか、ここにいる全員が知っている。
「これから作るのは、新しい村の象徴となるものだ。コカトリス祭りも間近に迫っている。ぜひとも、有意義なものにしていこう!」
「「「はい!!」」」
俺はありったけの魔力を腕に集中させる。
必要なのは魔力とイメージ。
日頃ウッドと一緒にいて、ディアをもふもふしていれば、造作もない。
【大樹の家】
右腕をかざして魔力を解き放つ。
緑色の魔力がほとばしり、ぐぐっと大地が盛り上がる。
「よし……」
発動成功。
めきめきと大地が割れて、大樹がみるみる育っていく。
「ぴよー……あたしぴよー……」
「ウゴウゴ、おれだ!」
数十秒で建物は姿を現す。
ディアに並んだウッド。ちなみにマルコシアスも子犬姿でちょこんとウッドの肩に載っている……ハズ。
ディアとウッドはよく出来ているように
思うが……。
俺の立ち位置からだと、マルコシアスまでよく見えない。まぁ、それは予想の範疇。
ステラをちらっと見ると、ぐっとサムズアップしている。
良かった。ステラの視力ではちゃんと見えたらしい。
マルコシアスだけ仲間外れはかわいそうだもんな……。本人はどう思っているかだが、もう彼女も家族だし。
「すごい……このレベルの造形で……」
「話題になるでござるな、これは」
ナナとハットリが言い合っている。
他の皆も、驚いているようだな。
……遅れて拍手が鳴り響く。
パチパチパチ!
そう、新しい象徴ができたのだ。
正式オープンは少し先だが、まず建物を作らないと始まらない。
ふぅ、それにしてもこれほど凝った建物は初めてだ。こっそりミニチュアをたくさん作って練習して良かった。
このミニチュアも後でお土産として売りに出す。無駄はないのだ。
「さて、それではザンザスのギルドマスター、レイアより……挨拶を」
ステラが言うと、レイアが前に出てきた。
コカトリス帽子はそのままだな。
もはやコカトリス帽子を風呂以外で脱いでないと言っても、驚かない。
ん……?
なんだかいつもと雰囲気が……目がぱっちりしている?
「いえーい! お祭りだー!!」
「えええ!?」
まだ始まってないんですけど!
建物作っただけなんですけど!
レイアがテンションマックスで声を張り上げる。
「エルト様のご厚意で、あふれだしたザンザスのコカトリス祭りがやれるんだぜ! 盛り上がるんだぜー!」
「「おおおお!!」」
な、なんかザンザスの冒険者達も凄い盛り上がっている。
というか、レイアと合わせてノリノリだ。
「安全と報連相を大切に! 楽しむんだぜー!!」
レイアにあわせて、ディアも叫ぶ。
「ぴよー!」
「お、おー!」
とりあえず俺達も乗っておく。
ばばん!
レイアが拳を突き上げる。
皆もつられて拳を突き上げる。
という感じで挨拶が終わったのだった……。
◇
「申し訳ありません、差し出がましい真似を」
「い、いや……気にしないでくれ」
連発で会場設営はそれなりにキツイ。
大きくて一点物を生み出すのは集中力がいる。
同じような盾をたくさん作る方がはるかに楽なのだ。
家に戻って小休止してると、レイアが訪ねてきたのだ。
「……あれはわざとだったんですか?」
「もちろん、そうですよ!」
「そうだったのか……」
てっきり頭がパーンしたのかと思った。
普段の言動がアレだからな。
いきなり帽子の目が光ったりするし……。
「私はザンザスのコカトリス祭りでも、あのような事をすることが多いので……」
「なるほど、盛り上げ役としてか」
「はい、お祭りは来ている人だけでなく、やっている人も楽しまないと」
「その通りですね……」
ステラも頷く。
レイアの言葉は正論だ。確かにやっている側も楽しまないといけない。
そのためには、さっきのレイアみたいな盛り上げ隊長が必要だろう。
だが……俺もステラも性格的にそういうのには向いていない。
どちらかというと、淡々と仕事をこなす方だ。
「お祭りの期間中、私はずっとこちらにおります。少しでも盛り上げるのに貢献できれば……」
「……いいのか? ザンザスの方でも祭りだと思うが」
むしろあちらの方が本体というか、そんな感じだと思ったが。
「ええ、ザンザスは数十年のノウハウがありますからね。むしろ今年はヒールベリーの村と分散される分、混雑も緩和されるでしょうし」
「問題はこちらの方、ということですか……」
「初めては不安になるものですが、ご心配なく。準備は滞りなく進んでいるように思いますので」
レイアはさっきと違い、ゆったりと静かに語りかけてきている。
……普段と明らかに違う。
俺達の不安を取り除こうとしてるわけだな。
正直、驚いた。
フラワーアーチャーの討伐戦の時は、冷静でキれる指揮官。
今のレイアはお祭りの立派なコーディネーター。
確かにこの若さで大都市の重役になるだけはある。
……見習わないとな。
冷静さだけでなく、時に住民を引っ張るほどの熱さか。
「よし、設営に行こう」
一休みして集中力も戻ってきた。
今日で設営を終わらせよう。
そして迎えるのだ。
祭りの当日を!
コカトリス祭り準備度
90%
草だんご祭り完了
地下広場に宿設置
エルフ料理の歓迎(トマトの辛味炒め、蒸し餃子、杏仁豆腐)
ディアの劇(着ぐるみコカトリスedition&紙バット)
冒険者ギルドの建設
設営&新しい人手
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