植物魔法チートでのんびり領主生活始めます～前世の知識を駆使して農業したら、逆転人生始まった件～

56.拾ってきたのなら世話をしないと

　ステラはマルコシアスのその言葉を聞いて、首を傾げた。

　ディアがステラを見て、羽をぱたぱたさせる。

「あ、かあさまー」

「なんと、この方が……我が主の母上？」

　またマルコシアスは目をこする。

「どうみても骨格が……」

「かあさまはかあさまぴよ」

「……そ、そうか……。我が主が言われるのなら、そうだな……」

「……ちょっと待ってくださいね」

　状況が掴めないステラが俺に近寄ってくる。

　すまん、とりあえず呼ぶだけになってしまった。

　というか、マルちゃん……？

　ずいぶん砕けた呼び方だ。敵同士だったと思ったんだが……。

　もしかして違うのか？

　これも聞くしかないか。

「エルト様、この方は……？　私の知り合いにとても良く似ているのですが……」

「ふむ、かいつまんで言うとだな――」

　俺は推測も交えてステラに説明を始めた。

　その横でマルコシアスは、テテトカとディアと仲良くやっている。

　……マイペースに草だんごを品評してるな。

　とても平和だ。

　記憶喪失の大悪魔がいるとは思えないくらいだ。

「上出来ですねー」

「ぴよ、ありがとぴよ！」

「もちもち加減もいい感じですよー」

「うう、我の体力がないばかりに我が主にだけ……」

「まず重要なのは腰と腕の使い方です。一緒に練習しましょー」

「ぴよ、やるぴよ！」

　わちゃわちゃと向こうは向こうで楽しんでいるな。

　その間にステラとの話し合いをすませてしまうか。

「……ということなんだ」

「なるほど」

　ステラは腕を組んで、少し考えていた。

　うーんうーんと唸っている。

「一番重要なのは、目の前のあの人が本物のマルコシアスかと言うことですが……」

　ゲームの知識がある俺にとっては、そこは確定なんだがな。

　しかしステラが安易に信じない気持ちもわかる。

　おそらくこんな召喚事故は滅多にあることじゃない。

「……そういえば、ずいぶんと親しい呼び方をしていたな」

「ええ……。こちらもかいつまんで言うとですね……」

　ステラは話し始めた。

　そもそもステラとマルコシアスは本当は戦ってなどいなかった……らしい。

「どの劇でも小説でも、マルコシアスとステラの一騎討ちのシーンがあるが」

「……ないんです。実際、ないです」

「うーむ……なるほどなぁ」

　ある意味、弁慶みたいなものか……。

　あれも歴史的にはほとんど無名で、義経との橋での戦いも創作らしいし。

「元々、マルコシアスは魔王に花嫁として召喚されたんです。本人は激怒してましたが」

「……それはそうだろうな」

　劇では戦力増強として召喚されたはず。流れが全く違うな。

　にしても、いきなり花嫁として召喚って……それで了承する奴がいるのか？

　いるわけないよな。

「しかも力をかなり抑えられた状態で呼び出されたんです」

「それは怒るだろうな。武人気質という話だし」

　地雷踏みまくりだな。

「ええ、最初から嫌っていたみたいで……それで出来るだけ魔王の側にいたくなくて、門番をやっていたんです。地獄に帰してもくれないし、自由にもさせてくれないとか……」

「なるほどな。それじゃ魔王に渋々従っていたわけだ」

「はい、そして私が魔王に挑むときにはほとんど支配から抜け出していました」

「……まさか……」

「そうなんです……利害が一致した私とマルちゃんは一緒に魔王を討伐しました。といっても、マルちゃんは契約で魔王自身には手を出せませんでしたが……」

「召喚者が倒れれば契約は終わって、マルコシアスは地獄に戻れるはずだが……。なるほど、うまく行かなかったのか」

　強制的に契約を破ろうとした代償か。

　はたまた魔王の強大な魔力のせいか。

　ゲームでも召喚魔法に従わない奴の話はあったな……。

　イベントの中や設定上の話であって、プレイヤーで起きる現象ではないが。

　いずれにせよ、マルコシアスは地上に縛り付けられてしまったわけだ。

「てっきり目の前で消えていなくなったので、帰れたものと思ったのですけど……」

「うーむ、駄目だったようだな」

　ちらっと見ると、そのマルコシアスは小さな草だんごを必死にこねこねしていた。

　テテトカの指導付きだ。

「そうですよー。腕はこう、リズミカルに！」

「あ、ああ……！」

「腰をちょっときかせてー」

「……眠くなってきたぴよ」

　遅れてこねこねの疲れが出たか、ディアは台の上でうとうとしている。

「ねるぴよ……マルちゃんもほどほどがんばるぴよ……」

「は、はい……！　ん？　マルちゃん……？」

「はい、集中してー。意識の乱れは味の乱れですからねー」

　ディアがすぐ寝始めた横で、マルコシアスは頑張っている。

　こね、こね……。

　うーん、力が足りない。

　あまりこねこねできてない。

　やはり基礎体力が無さすぎるような……。

「マルコシアスの過去と現状は俺の知っている召喚魔法の知識とも合っているな……。多分、間違いない」

「……私には正直わかりません。魔力が弱すぎるのと、威圧感がなさすぎて。そっくりさんと言われた方が納得できます」

　ひどい。

　でも、そうだろうな……。かつてと差がありすぎる、ということだろう。

「あの赤い鎧ももっと厚くて、尖っていましたが……」

　マルコシアスの紅い鎧は魔力に応じて姿形さえも変える……という設定だったはず。

　確かに今はかなり軽装だな。

　本気モードだと狼をイメージした全身鎧になるのだが。

　これも本人の魔力が乏しい証拠か。

「で、今後どうするかだが……」

「出来るなら、私は助けたいです」

　きっぱりとステラは言い切った。

　こういうとき、ステラは躊躇しない。

「ふぇぇ……ご、ごめんなさい。私ったら……」

「いや、そう言ってもらえて助かる。俺も彼女を放り出すのは気が引けていたからな」

「……ですよね」

　なんというか、ほとほとマルコシアスは運がないな……。

　でもステラから裏は取れたし、魔王討伐に協力した功績もあるようだ。

　本人としては遅いかも知れないが、それに報いることはしよう。

「すや……ぴよ……すや……ぴよ」

　寝ているディアとそれを暖かく見ながらこねこねしているマルコシアス。

　悪くはないだろう……。

　ちなみにマルコシアスはこの一連の召喚がほとほと嫌だったらしい。

　なので、ステラには真相を伏せてくれと頼んでいたんだそうな。

　だからこの真実は、ステラと俺以外は誰も知らないことになる。

　隠された歴史の真実というやつか……。

　というわけで、マルコシアスが新しく住民に加わったのだった。

　むしろ保護したと言うべきかもだが。

　◇

　草だんご作りを終えて、俺達は大樹の塔を後にする。

　ディアも昼寝から目覚めたしな。

　お土産に草だんごをそこそこもらったし。

　一応、ドリアード達にはマルコシアスのことは口止めした。

　まぁ、大丈夫だろう。

　そもそも草だんご作りに熱中してて、俺とステラの話を聞いてなかったからな。

　俺とステラ、ディア、マルコシアスで塔を出て――マルコシアスが突然固まる。

　どうかしたのか？

　彼女の視線の先を追うと……あ。

　マルコシアスがちょこちょこ歩いているディアに屈んで話し掛ける。

「我が主、我が主」

「なにぴよ？」

「あの土に埋まった人はなんだろうか？　罰を受けているのだろうか？」

「ちがうぴよ。のろいをといているぴよ」

「呪い……？」

「そうぴよ。けがぬける、とてもおそろしいのろいぴよ」

「な、なんと……恐ろしい！　地獄でもそんな呪いはないはずだ……！」

　マルコシアスが自分の銀髪を大事そうに抱える。

「けがぬけたら、マルちゃんもあそこにいくぴよ。きぼうはすてちゃだめぴよ」

「承知した、我が主は優しいな。てっきり死罪人が埋められているのかと思った。地獄の悪魔もびっくりの惨劇かと」

　マルコシアスは村の入口の看板を見てないからな……。

　ま、まぁ……ディアの説明で良しとしよう。

　ちょっと変だけどディアの言葉は素直に聞くようだし。

　そう言えば、ゲームの中のマルコシアスの真の姿は狼だったな。

　レメゲトンでも炎を吐く狼とされている。

　……早くもディアが犬を拾ってきたみたいな……。いや、それは言い過ぎか。

領地情報

　地名：ヒールベリーの村

　特別施設：大樹の塔(土風呂付き)

　領民＋１(地獄の侯爵マルコシアスＬｖ１)

　総人口：１５３

　観光レベル：Ｄ(土風呂)

　漁業レベル：Ｄ(レインボーフィッシュ飼育)

　牧場レベル：Ｅ(コカトリスクイーン誕生)

　魔王レベル：Ｆ(悪魔を保護)