49.川の字

「あれはウッド、俺の――家族だ」


 魔法で生み出したとかあるが、俺はその辺を飛ばすことにした。

 ディアには大切さだけ伝わればいいからな。

 細かい所は後で教えていけばいい。


 そこでディアは首を傾げた。


「ぴよ、かぞく……きだけど?」

「それは大したことじゃないぞ。姿形の違いは大したことじゃない」

「なるぴよ……!」


 ディアがじっーとウッドを見る。

 ちょっとの間ディアはそうしていたのだが……突然ぴょんと飛び上がる。


「ぴよ! なんか、とうさまとおなじ! ウッドはおにいちゃん!」

「む? なるほど……そうなるのか」

「家族ならそうですね……」

「ウゴウゴ! おれ、おにいちゃん?」

「そうだな、ウッドにとってディアは妹だ」

「ウゴウゴ! いもうと!」

「おにいちゃんー!」


 整理すると。

 とうさま、俺。

 かあさま、ステラ。

 お兄ちゃん、ウッド。


 こうなったわけか。

 変わっているが、まぁこんな形もアリか。


「ぴよ、おにいちゃんもなでてー!」

「ウゴウゴ、わかった!」


 ウッドが慎重にディアを撫でる。


「わーい! うれしいぴよ!」

「ウゴウゴ、どういたしまして!」


 心和む光景だな。

 ……それにしてもさっき、ディアはこう言ったな。


 なんか、とうさまとおなじ。


 俺の魔力で生み出されたウッドは、本質的に俺と同じような魔力を持つ。

 日頃、触れ合っているからよくわかるのだ。

 ウッドの魔力は魔法を使えるほどではなくて、いわゆる一般人レベルではあるが……。


 魔法を使えるくらいの人間は魔力の感知能力もある。

 ぱっと相対したり触れれば、その魔力の多い少ないはわかるのだ。


 だけど、普通わかるのはそこまで。

 ステラとナールが立っていれば、その魔力の量の違いはよくわかる。

 しかしわかるのは、量の違いだけだ。


 俺でも質の違いを判断するには、よほど集中して触れないと駄目なのだ。

 それをディアは、ちょっと見ただけで判断できた。

 これはかなり凄いんだよな……。


 でも卵から生まれた瞬間に、俺とステラを親と認識していた。

 あのときは不思議に思わなかったが、ちゃんと判別していたのか……。


 色々と考えていると、ステラがこっそりと話し掛けてくる。


「エルト様、ディアは魔力がかなりわかっているみたいですね」

「……そうみたいだな。魔法的な素質はあるのかもしれない」

「その方向でも育てられるので?」

「ふむ……ディアの賢さなら、いずれ感じているなんとなくを知りたいと思うだろうな。そのときに説明して、ディアがさらに知りたいと望むなら」

「わかりました……。私もそれでいいかと」


 そんな風に話していると、ディアが小さい羽を広げる。


「とうさま、かあさまもなでてー!」

「はい……撫でます!」

「三人で撫でような」


 それぞれ指を一本ずつ出して、ちょっとずつ撫でる。


 ふさふさ……。


「はぁ……指から伝わるしあわせ……」

「本当だな。どうだ、気持ちいいか?」

「ぴよ、とってもすきー!」


 ひとしきり撫でると、ディアはまた眠りに落ちた。

 赤ん坊だからかよく眠るな。

 寝る子は育つともいうし、すくすくと育って欲しいものだ。


 ◇


 ディアが眠っている間にステラの部屋を用意したり、書類仕事を済ませたりした。


 もうひとつ。

 リビングで寝ているディアには、常に誰か一人はついている態勢にした。

 すやすやとディアは寝ているが、いつ目を覚ますかわからないしな。

 誰か一人がついていれば安心だ。


 そうこうしているうちに、夜になった。

 我が家では夜ご飯の時間が近づいてるのだが……ディアはまだ起きない。


「ふむ……ちゃんと寝てはいるか」

「うーん、起こさない方がいいですよね」

「そうだな、お腹が空けば起きるとは思うが……」


 冒険者から聞いた限りでは、コカトリスの雛はほぼ巣で寝ているらしい。

 そしてたまに起きては、親鳥が置いた餌を食べる。そしてまた寝る。

 そういうサイクルなのだとか。


 コカトリスクイーンのディアも同じなら、たまに目を覚ますくらいのはず。

 とりあえず、そのままにして置こうか……。


 後、今日はステラがいる。


「ところでステラ、夜ご飯はどうする? ここで食べるか?」

「は、はい……そうしたく思います」

「よし、それじゃ待っててくれ。用意するから」

「ウゴウゴ。よるごはん、つくる!」


 ウッドが棚の扉を開けて、生ハムの原木を取り出す。

 これが最近のマイブーム。生ハムをちょっとずつ食べるのだ。

 とりあえず何もなければ、ハムを出してもらうことにしている。


 ウッドも細かい作業が出来るようになってきたからな。

 原木から切り分けるのもうまくなった。

 まだちょっとベーコンくらいの厚さはあるが……。


 俺もキッチンに立つ。

 火を使った料理はまだウッドには早いからな。

 といっても、おいしい野菜があるから軽く煮たり焼いたりする程度だが……。


 と、いつの間にかステラが横に立っていた。

 なんだか驚いているような感じだ。


「まさか、ご自身で作られているのですか?」

「火を使う料理はな。まだウッドには危ないと思って」

「いえ……てっきり誰か来て用意するのかと思いましたが……」

「自分で用意したいんだ、気にしないでくれ」


 これは本当。

 このザンザス地方の料理はかなり味が濃い。

 俺にとっては濃すぎて食べづらいのだ。

 もちろん単純な焼き物やサラダはその限りではないが……。


 しかしそのような理由で俺はシェフを雇っていない。

 味覚が違うことをいちいち突っ込まれたくないからな。


「……私が作ります」

「いや、それなんだが……」

「わかります。ご自身で作られるのは、この辺りの味が濃すぎるからではないですか……? 私も苦労しましたし、私なら調整できます」

「むっ……しかしだな」

「領主様に作って頂くのは……」


 なるほど。

 ステラが強硬なのは俺が貴族だからか……。

 逆に俺の料理は食べられない、そういうことか。


 しかしここでステラに任せていいものか……。

 瞬時に俺が料理する理由に辿り着いたのだ。それなりに自信があるのだろうが。


 俺は背後にいるディアをちらっと見る。

 うーん……俺達は家族なんだよな。

 もちろんステラにとっては俺といる以上、仕事でもあるだろうが……。

 その上で家事までやってもらうのは、公平ではない気がする。


 ウッドはだいたい、日中の掃除が終わったら自由時間。

 家事が仕事代わりなのだ。


 こうして見ると、ステラに家事をしてもらうのは彼女に負担が大きいよな……。

 ウチの領内はホワイトにすると決めたのだ。


 よし、ステラにはディアを見てもらう。

 そのためにしばらく同居するのだし。


 出任せを言って、ステラには座ってもらおう。


「いや、これは俺がやる。ナーガシュ家ではよくあるんだ。腕が落ちると色々言われる」

「え……? そうなのですか?」

「ああ、変な伝統だが……。ステラは気にしないでくれ。ディアの様子を見ていて欲しい」

「う…………はい、わかりました」


 さすがにこう言えば、ステラも引かざるを得ない。

 許せ、ステラ。

 決して数百年前のエルフ料理にびびっているわけじゃないんだ。

 ……本当に。


 俺がスパゲッティを作り始めると背後から声がした。

 ディアだ。


「おはよー! おなかすいたー!」


 ちょうどいい、ご飯の時間だからな。


 ◇


 ご飯を食べ終わり、軽く風呂に入るともう夜も更けてきた。

 ちなみにご飯を食べると、ディアはまたすぐに寝てしまった。


 ふむ、俺も今日は早めに寝るか……。

 一応、ステラにも言っておこう。


「わかっていると思うが、ディアが目を覚ましたときになるべく二人でいるようにだからな……」

「はい……ごくり」

「大きなベッドがある。俺、ウッド、ステラの順番でベッドに寝る。ステラは壁側だな。身じろぎしないウッドを間に挟むから、それなりに寝れるだろう……。負担はかかるだろうが」

「う、うん……?」

「いつも俺はウッドと寝てるから」

「な、なるほど」

「だってまだ生まれて数ヵ月だぞ……」

「は、はい」

「日中寝てもいいから、しばらくはそんな感じで。ディアの入った籠はウッドが寝ているベッドの縁に置いておこう」

「わかりました……はい」

「どうしたんだ?」


 ステラは軽く首を振った。


「……ちょっと驚いただけです」


 言いたいことはなんとなくわかるが。

 俺はその辺、ちゃんと一線は引くからな。

 まさにウッドの体が一線になるのだ。

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