ステージ32 本当の最終回

 私は、なるべく急いで皆の元へと移動した。

 皆と一緒に坂本くんを取り返す方法を考えたかった。


 明菜さん、あの子さん母娘が誇らしげに言った。


「そんなの、やっつけちゃえばいいんです」

「奇遇です。私もそう思ってました!」


 そうか。これは大きな問題だな。

 奴隷化しているということ。

 皆、私が1番だと思い込んでいる。

 私が何をやってもナンバーワンだって。


「仕方ない。ママ、奴隷たちを全員集めて」


 奴隷たちが奴隷のままでは、アイデアは浮かばない。

 だから私は、皆の奴隷化を解く必要があった。

 そうしなければ、坂本くんを取り返せない。


 3000人あまりの奴隷たちの前で、私は言った。


「みんなたちはもう、奴隷じゃないから」


 その証拠に、しおりを差し出すように言った。

 1人残らず言った通りにしてくれた。

 今、私の目の前にいるのは、奴隷ではない。


「私に力を貸してくれる人だけ残ってください」


 そんなことを言って、誰が協力してくれるというのだろう。

 上手に山吹ることのできない私。

 ついてきてくれる人は誰もいないだろう。


 まりなさん、まりこ母娘が1歩前へ出た。


「水臭いな。さくらんは私の友達なんだから」

「友達がピンチのときは助けてあげろってのが親の教えよ」

「2人とも、ありがとう!」


 特にまりなちゃんには丁重にお礼を述べた。

 今まで辛く当たることが多かったから。


 次は、ひじり84のみんな。


「活動時間1日3分限定でも、さくらは最高のアイドルよ」

「しっ、しいちゃん。ひじりのみんなも」


 思わず、泣きそうになった。

 けど、まだ早いわ。


「この国には女帝が必要です!」

「しっ、しんぞうくんも!」


「お部屋を片付けてくださって、助かってるんですよ」

「ホテルの皆さん!」


「私、あと少しでフルコンプなのよ!」

「まぁ、エステのお姉さんまで!」


 私の予想に反して、皆が協力を申し出てくれた。

 泣いたらダメって思うほど、目頭が熱くなった。




 本格的な作戦会議がはじまった。

 名付けて『超絶人気アイドルは実は坂本くん』大作戦だ。

 なんやかんや、みんな私より坂本くんが好きみたい。

 ちょっと不愉快だけど、文句は言うまい。


 みんなの意見に大きな対立はなかった。


「あの2人と確実に接触できるのは、ライブ当日ってことね」

「そのときは、坂本くんも一緒の可能性が高いですよね」

「だったら、ライブはやっぱり映像中心ってことになるわね」

「どのみち坂本くんがいないんじゃ、そうせざるを得ないわ」


 要は、坂本くんを取り戻すチャンスは1度きり。

 ライブ当日のみってこと。

 私たちは、静かにその日を待った。




 ライブ当日。日本晴れとなった。長い1日になりそう。

 私たちは、ホテルにいた。

 会場にいて不測の事態に巻き込まれないため。

 代わりにひじり84のみんなに会場に行ってもらった。

 出演する方が興行的にも自然だから。


 無数のカメラが群衆の中に坂本くんを捉えた。

 あの2人も一緒だ。坂本くんが奴隷化されてる。

 ここまでは予想通り。


「みんな、気を抜かないで。動き出したら速いわよ!」


 ママがみんなに檄を飛ばした。

 互いに顔を合わせ、意思を確認し合った。


 ママの言った通りになった。

 あの2人が動いた。坂本くんも一緒。

 私たちの作戦通り、楽屋へ入ってきた。


 私たちは思い思いに坂本くんに向けてメッセージを送った。

 楽屋の天井にはスピーカーが取り付けてある。

 私たちの声は、スピーカーを通して坂本くんの耳に届いた。


「坂本くん! こっちへ来て」

「お願い。また焼肉に連れてって!」

「おっぱいもんでほしい」

「一緒にフランクゲームしよう」

「ロールケーキ、食べさせて」


 みんなの声は、坂本くんの心まではとどかない。

 私は、大声で叫んだ。坂本くんに届けっ!


「坂本くん。テークにじゅうシックス!」

「菜花! 菜花じゃないか」

「坂本、血迷うたか!」

「聞いちゃダメ、坂本!」


「菜花、どこだ! 俺の菜花!」

「坂本くん! 逃げて。直ぐにホテルに来て」

「ええい。こしゃくな!」

「こうなったら、ライブを乗っとるわよ」


 このあと、坂本くんはひじり84のみんなと合流。

 私のいるホテルへと来てくれた。




「坂本くん、よく無事だったわね」

「1度は奴隷化されたけど、菜花の声で覚醒したんだ」


 坂本くん、もっとみんなにアピって。救ったのは私だって!

 その坂本くんが言うから、私はどきっとしてしまった。


「プレゼントしてもらったものを、焼却・消去しちゃった」

「もしかして、2人とエッチしちゃったの?」


 私がプレゼントしたものといえば、パンツ。

 それを焼却したってことは……。

 そういう関係になってても不思議じゃない。


「しっ、してないよっ!」

「どうしてしなかったの?」


「パンツを脱ぎたくなかったんだ」

「パンツって!」


 どういうこと。パンツ、まだあるの?


「あぁ、これのことだよ」


 坂本くんはズボンを脱いだ。臭い。臭くて堪らない。


「汚ったない! ずっとはいてたの」

「あぁ。なんだか脱ぎたくなかったんだ、これだけは」


「章、ありがとう!」

「どっ、どうしたんだよ、菜花!」


「パンツ、ずっとはいているつもり?」

「大事なものだから。トイレと、そのときだけ脱ぐ」


「そのときって?」

「みんなの前で菜花に告白するとき、かな」


「やっぱり章は章ね。私には必要な人!」

「超絶人気アイドルが俺を必要とするのには理由があるんだろう」


「ぷっふふふ。もちのろん。それはね……。」


 いつか全国民の前で告ってもらうため。


「……みなまで言うなっ!」


 坂本くんが言うなり私にキスをした。

 不思議と勇気が湧いてくる。

 それは、坂本くんも同じなのかも。


 今の私にとって、3000人が精一杯の人口。

 その3000人が見守る中、坂本くんは私の前に立った。


「枝1本、掴めない俺だけど」

「うん」


 大丈夫。傷だらけの坂本くんはかっこいい。


「さくらの写真も画像も、失くした俺だけど」

「うん」


 そんなの、いくらでもなんとでもなること。


「5年も待たせた、俺だけど」

「……うん」


 っ、それは気にしないで。私もつい最近思い出したばかり。


「菜花がいい」

「うん」


 さくらって呼ばれるより、数倍うれしい。


「菜花とキスがしたい」

「うっ、うん……。」


 結局それかよっ、バーカっ!


「菜花のおっぱいがもみたい」

「あん」


 3000人の前でよくぞ言った。


「いや。だから、もみたい」

「うっ、うん」


 2度も言うなや! そんなに大事じゃないだろう。


「だから、付き合ってほしい。結婚してほしい」

「…………。」


 3000人が息を飲んでいるのが分かる。

 今度は、私が言う番。

 坂本くんも神妙に待っているみたい。


「……。」


「やっぱなし!」

「えっ?」


 坂本くん、驚いてる。

 もちろん、全部なしってわけじゃないの。


「おっぱいもむの、なし」

「えーっ!」


「なしだからね、おっぱい」

「えっ!」


 ぷっふふふ。2回も言ってやったわ。


「キスも、なし!」

「えっ!」


 それにしても坂本くん、驚きっぱなしね。

 もっと驚かせた方がいいのかしら。


「けど、ずっとそばにいてあげる!」

「うん」


 坂本くんの返事が変わった。力強く頷きながらに。

 驚かそうと思ったのに、空振りしたみたい。


 うれしいけど、恥ずかしい。

 恥ずかしいからお願いをきいて。


「だから、ずっとそばにいてほしい」

「うん。菜花!」


 坂本くんが1歩前に出た。近いっつーの。


 バカね私って。なしと言ったばかりなのに。




 章とキスしちゃった。幸せだった。




======== キ リ ト リ ========


キスはおまけ。食玩と同じです。


これにて、

『超絶人気アイドルが俺を必要とするのには理由がある』

お開きとなります。


長きにわたる連載に

最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございます。


世界三大◯◯の次回作にも

是非ご期待ください。

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