ステージ31 超絶人気アイドルのもう1つの恋の物語①

 ワンマンライブまであと20日。

 ばあじとして、連日ライブに出演することになった。

 渋谷という好立地にもかかわらず、客足は鈍い。

 どういうことよっ!


「世界を滅ぼしてやろうかって思うわ」

「そんなこと言うもんじゃないよ」


「けど、特典会の参加者が7人って、しょぼすぎる」

「だったらその7人のために全力を出そう」


「……分かったわよ。その代わり……。」

「なんだい。遠慮せずに言ってごらん」


「……今夜も、フランクゲームがしたい……。」


 坂本くんが断るはずもない。

 泥のようにとろけるのが好きなんだから。


 坂本くんに花を持たせるために、私は洗濯当番を買って出た。

 といっても、実際に洗濯するのは奴隷化したまりこだけどね。



 洗濯当番の最終日、まりこから報告があった。

 坂本くんは、パンツを変えていない。

 なんて不潔なの!


「坂本くん、こっちをはきなよ!」


 私はそう言って、真新しいブリーフを差し出した。

 以前、パンツをプレゼントしたけど、坂本くんは忘れてる。

 っていうか、私が忘れさせた。


「プレゼントだよっ!」

「うれしいけど、やっぱ俺、こっちがいい」


 坂本くんはそう言って、ズボンを脱いだ。

 私の感想は、臭いのひとこと。


「まっ、まだそんなのはいてんの!」


 コクリとうなずく坂本くん。


「こっちの方が、300円も高かったのにぃ!」


 プレゼントは値段じゃない。

 けど、グレードアップさせたってことを理解してほしい。

 そんな私の努力は虚しく、空回りした。

 坂本くんは、元のパンツを脱がなかった。

 臭い。




 ステージの袖からみんなで客室を覗いた。


「わぁっ。またあの2人が来てくれたわ」

「本当だ! これでもう5日連続じゃない」

「どれどれ……。」


 私は、そう言ったきり固まった。

 2人は、痩せすぎかよってくらい細い。

 その分、私よりおっぱいは小さい。

 見た目で2人に負けてるとは思えない。

 少なくとも坂本くんの好みを網羅しているのは私。

 けど、あの2人から今までにない何かを感じた。

 それは、私と同じ何かだ。

 だから、怖かった。




 しばらくして私は動き出した。

 そして、坂本くんがあの2人に声をかけに行ったことを知った。

 マズい。坂本くんが危ない。あの2人は危険過ぎる。

 私は、駆け出していた。


 遠くに、坂本くんを見つけた。

 既にあの2人に接触している。

 私はとっさに山吹った。これは失敗だった。


「毎日いらしてるので、もしアイドルに興味あるならと……。」

「……ダメ! その子たちは危険!」


 きょとん顔の坂本くん。

 警戒を強めるあの2人。


「坂本くん、近付いたら絶対にダメ!」


 坂本くんが素直にその場から離れようとしてくれた。

 お願い。2人とも退がって。



 ところが……。




「貴方が坂本くん!」

「ずっと会いたかったわ!」

「えっ?」


「こっちへ来てちょうだい」

「大丈夫。痛くしないから」


 2人は言うなり坂本くんを捕まえて駆け出した。

 坂本くんは、引き摺られるようにしてついて行った。

 っていうか、拉致られた。


 3人が建物の外に出た。

 私は追った。

 ほどなく私も外へ出た。左右を確認していると、声。


「さくら、こっちだ!」


 坂本くん、ナイス!


「坂本くん! 2人とも待ちなさい」




 私は全速力で追った。

 ところが、一向に追いつけない。

 2人の足がそれほど速いってこと。

 坂本くんを引き摺っていてあの速さ。


「さっ、坂本くん! 待って……。」


 ダメ。もう3分経ったみたい。急に力が抜けていった。

 どんどん差が開き、やがて坂本くんは見えなくなった。




 私は、坂本くんを失った。

 まだ5年前の約束を果たしてもらっていないのに。

 



 5年前……。


 小学5年生の夏。




 私は坂本くんに出会っていた。


======== キ リ ト リ ========


5年前に繰り広げられたもう1つの恋の物語。

この物語の鍵を握ります。


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