スタジオ28 超絶人気アイドルが俺を奴隷化できなかったのには理由がある

 突如俺を奴隷化しようとしたさくら。

 実際俺は、1度は奴隷化されていた。


 それなのに奴隷とならなかったのには理由がある。

 それは、あの子さんのことだ。


 あの子さんは、ただのビジネスパートナー。

 愛人とか恋人とかってわけじゃない。

 友達かどうかでさえ怪しい。


 でも、袖触れ合うも他生の縁。

 あの子さんの念願である母親探し、力になりたい。




 これは、俺がしたいこと。




 できっかどうかなんて分かんないけど。


 『超絶人気アイドルが俺を奴隷化できなかったのには理由がある』

 それは、俺に強い意志があったから。

 ある意味では俺、TUEEEEってことだ。




 パチパチパチという、乾いた拍手。

 その主は、まりこちゃん。

 俺とさくらの一連の動きに対する反応。

 キスからはじまり、奴隷化を拒否するまでの。


「一通り、茶番は済んだみたいね」

「ちょっと、見苦しかったかしら」


「ブラボー。なかなかの見応えだったわ」

「あっ。ありがとう」


「どういたしまして」


 小学生のブラボーなんて、なかなか聞けない。

 ていうか、ブラボー聴いたの自体、これが2回目。

 まりこちゃんは褒め上手なのかもしれない。

 俺なんか、ブラホック外すだけで四苦八苦だというのに。


「あの。そろそろお腹ペコペコなんだけど」


 一転して、焼肉の催促。同時にお腹がグゥー。

 しかも、みんなで輪唱。グゥー、グゥー、グゥー……。


「あっ。私も食べる!」


 あの子さんも謎の復活。だったら、行こう。

 行きたいじゃん。みんなで行きたいじゃん。


「よしっ。じゃあ早速あの子さんの母親探しに出発だっ!」

「はぁっ。何で私まで一緒に探さなきゃなんないのよ」


「お腹すいたろ。手始めに焼肉行くけど、来ない?」

「何で私が奴隷でもない章なんかと焼肉食べなきゃいけないのよ」


 なぬ。奴隷になると食事を共にできるシステムなのか。

 じゃあ、昨日の夕食は? 俺はあのとき既に奴隷だったのか?


 奴隷になればよかった。素直に奴隷でよかったじゃん。

 さくらと楽しい食事ができんなら。

 いや、違う違う違ーう。


「さくら、グズグズしてっと置いてくぞ!」

「そうね。さくらんなら1人でも生きていけそうだし」

「奇遇です。私もそう思ってました」

「私たちとあの子さんがいれば、成立するものね」

「何よみんな。年長者の私を置いていくの。連れてってよ」


 俺の後ろをゾロゾロと歩くアイドルやアイドル予備軍や芸能事務所社長。

 談笑しながら向かうは、焼肉会館。


「えっ。ちょっと待ってよ。私も!」


 最後にさくらも付いてきた。




 途中、最も積極的だったのがあの子さん。

 なりふり構わずという感じ。


 何をかっていうと、母親探しだ。

 ちょっとかわいらしいおば様がいると、必ず声をかけていた。


「あの。貴女は、私の母親ですか?」

「いいえ、違います。私は貴女の母親ではありません」


 あの子さんは、何度もこれを繰り返していた。

 所有格の例文かよって思うような会話だった。


 俺はというと、ときどきあの子さんを励ますのだった。


「あの子さん、こんなところで落ち込んでどうする!」

「坂本くん、厳しいのね」


「厳しい? 違うよ、俺はあの子さんに母親と再会してほしいだけ」

「そうね! 坂本くんの言う通りね。ありがとう」


「こっちこそ。俺のしたいこと、させてくれてありがとう」

「どういたしまして。私、坂本くんのために頑張る」


 あの子さんのしたいこと。母親を探すこと。

 それはいつしか俺のしたいことへと変わった。


 そこまでならいい。


 ついにはあの子さんのしたいことが変化した。

 あの子さんは、俺にしたいことをさせたいんだって。


 それが今のあの子さんのしたいこと。

 だったら遠慮なく、あの子さんのお母さんをさがす!




 まりなさんとまりこちゃんの母娘の会話はほっこり。

 ずっと聴いていられる。


「あの子ちゃん、必死ね! いいことよ!」

「母上は甘いわ。あんなの、痛いだけじゃない」


「でもね、今までのあの子ちゃんだったら、3人目くらいで心折れてた」

「私には同じ失敗を7回繰り返しているようにしか思えないわ」


「それがいいんじゃない。選択肢をどんどん絞り込んでる」

「はぁっ。今、9回目の選択ミスが発覚したわよ」


 まりなさんは本当に優しい人だな。

 まさに母親そのもの。

 包み込むような母性を感じるよ。


 まりこちゃんも、口は悪いけど本質はいい子。

 バカな母親の相手もあほなあの子さんの観察も嫌がらない。

 おっぱいを中心に、すくすくと育ってほしい。




 珍しくと言うべきか、さくら母娘が他人の心配をしていた。


「あの子さんの母親って、どんな人かしら」

「私の古い友人なんだけど、今は音信不通なの」


「じゃあ、綺麗な方ってのは間違いないの」

「それも分からないわ」


「どうして? 坂本くんといいまりこといい、ママは面食いじゃない」

「最後に見かけてから大分経つから」


 あの子さんのお母さんと、社長は知り合いなんだ。

 社長が友人と言ったのが気になる。

 ビジネスパートナーとは意味合いが違うのだろうから。


 もしかしたら、社長が1番心配しているのかも。

 あの子さんの母親が、今、どんな境遇にあるのかを。




 そうこうしているうちに、俺たちは焼肉会館の前に来た。



======== キ リ ト リ ========


ついに焼肉。お腹を満たしたあと、何を為すかです。


この作品・登場人物・作者を応援してやんよって方は、

♡や☆、コメントやレビューをお願いします。

励みになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る