ステージ19 超絶売れないアイドル

 不意に、あゆまりさんが歌い出した。

 聞いたことのない曲。

 けどとっても聞きやすい。


 私はつられて踊り出してしまった。

 つい、勝手に身体が反応したの。

 『夏だーっ! 海だーっ! 水着だーっ!』って感じ。


「あゆまりさん、菜花ちゃん、私の曲ですよっ!」

「ごめんごめん。つい口遊んでしまったのよ」

「うん。とっても乗りやすい。ちょっと地味だけど! ところで?」


 今、あの子さん、私の曲って言った。

 それが気になって聞いてみた。


「私が描いた曲で間違いないわ」

「山吹さくらには地味過ぎよね」

「論外。絶対ダメなやつよ。それでもヒットするだろうけど!」


 私は思った。バカな詩にあほなメロディ。

 そして地味な振付。

 ヒットの要素は何もない。


 けど、私たちにはぴったりフィットしている。


「ねぇ、さくらん。私たち、この曲で勝負しない?」

「勝負?」


 勝負するって感覚、山吹さくらにはなかった。

 勝利しかないから。


「奇遇です。あの子も、私もそう思っていました!」

「そうね。そうしましょう!」


 そうだ。これは勝負だ。勝利を前提としない勝負。


「作詞は、元歌うお姉さん。バカ過ぎてクビになった鮎川まりな!」

「作曲は、元トップアイドル。1夜にして逆転された水森あの子!」

「振付は、無名の新人。直向き地味の代表取締役社長、佐倉菜花!」


 3つ揃えれば圧巻! とはならない……。


「売れない。絶対売れないわ!」

「そうね。要素は何もないわ!」


 2人とも笑顔。だから面白い。最悪からのスタート、リスタート!


「そんなことより、会いたくない?」

「! そうくるの、さくらん」

「今日は菜花ちゃんが1番バカであほね!」


 私が会いたかったのは坂本くん。

 2人にもそれは伝わった。


 私たち3人の活動を、活躍を坂本くんには見届けてほしい!


 だから、坂本くんの元へと向かった。

 その部屋の手前には、甘い香りが漂っていた。


 私は、バンッとドアを開けて、開口一番。


「坂本くん。話し合いましょう!」

「俺もそうしたいって思ってたところさ」


 さすが坂本くん。話が早い。

 いいえ、これは以心伝心。




 添えられたのは、何故かロールケーキとブラックコーヒー。

 社長のだけは、ホワイトになったあまあまコーヒー。


「坂本くん。朝の1時間だけ、キスしてほしい」


 坂本くん、驚いてる。


「山吹さくらは、活動時間1日1時間限定アイドルになる」

「そのために俺とキスをしたいってこと?」


 佐倉は頷きながら続けた。


「残りの時間、私は佐倉菜花としてトップアイドルを目指す!」

「そんなの、無理に決まってるじゃんか!」


「てっ、手厳しいのね。私じゃトップには立てない?」

「山吹さくらがいる限り、無理だよ!」


「でも、私は佐倉菜花としてデビューしたいのっ」


 そうそう。3人でデビューして、天辺を目指す!

 坂本くんには、それを1番近くで見届けてもらいたい。


======== キ リ ト リ ========


1番近いところに坂本くん。佐倉さん、贅沢じゃないですか?


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