スタジオ21 重要イベント

 キス。たったそれだけのこと。

 いやぁ、そうでもない。


 恋愛における重要イベント。



 だけど俺たちは、出会ったその場でキスをした。

 それからも幾度となくビジネスキスを重ねてきた。



「さくら」



 俺は愛する人の名を呼んだ。

 その人は、こくりと頷き、俺に笑顔を返した。さくらスマイルだ。



 俺はさくらとキスがしたい。

 そのためには佐倉とキスしないといけない。

 それには大きな疑問、抵抗があった。

 でも、今の佐倉はさくらスマイルをしている。



「さくら、キスしよう」


 ビジネスキスと恋愛キスは違う。

 だから俺は、それなりに覚悟を決めてそう言った。

 そして、さくらをぐっと引き寄せた。



 何もかも違った。

 肌の感触といい、匂いといい。


 佐倉は、紛れもなくさくらだった。

 さくらリップは目の前……。



「……待って!」



 えーっ! また、待って?



「やっぱ、ダメ!」

「なっ、なんでーっ!」


「こんなの、普通じゃないでしょう」

「なんで、なんで。なんでーっ! 普通って何? 抱き寄せちゃダメのな!」


 俺は、かなり動揺していた。右と左で違う体操をしていた。

 さくらは、はっきりと冷静。凛としていた。


「違うの。順番の問題」

「順番?」


 さくらは目を数秒閉じたあと、かっと開いて俺を真っ直ぐに見た。

 少し涙目で、深く黒く輝いた瞳、あのときと同じ一級品。



「ちゃんと告られたい!」



 そっ、そうそうそう。俺、告ってないんだよな。

 それは良くない。告んなきゃ!


 この告白、まず断られることはない。

 ヌルゲーだ。よゆう、よゆう!

 俺は、改めてさくらと向き合った。


「さくら!」

「ん!」


 短い相槌。俺は間髪入れずに、言う。



「……。」

「……。」



 って、言えるわけ、なーいっ。

 こんな無理ゲー、はじめてっ。鬼畜すぎる!



「……。」

「んーっ!」


 さっきより、やや長い相槌。早くしろの、催促。

 これ以上待たせても仕方ない。俺は意を決した。



「さくらっ!」

「うん!」


 短くも、期待たっぷり特盛りの相槌。

 もう躊躇ったらダメ。



「さくらっ、好きです! 大好きです! 結婚してくださいっ!」

「はぁーっ。なにそれ……ぷっふふふ。坂本くんって、大胆!」


 フローラルなさくらスメルに包まれた、さくらスマイルだ。

 刹那、さくらリップが動き出した。そして、たちまち坂本リップを占領した。



 あっ、これがキスなんだなって思った。



 さくらのキスは、全てが違う。


 人類史上最高のキスだ。これは、他の誰にも味合わせたくない。

 だから細かな形容はしないけど、いいものだ。



 1分経った。さくらリップがゆっくり離れた。

 俺がそれを追いかけて、捕まえた。


 それは、変わらぬさくらリップだった。

 幸せ!



 俺の中でのことだけど、佐倉菜花は山吹さくらになった。

 24時間365日、年中無休、未来永劫、永久不滅に!

 活動時間1日24時間限定、山吹さくらだ。



 1分のキスが終わってから、確かめた。



 またさくらを抱き寄せてキス。今度は2分。

 これまでとなんら変わらない。さくらリップだ。興奮しかしない。


 イッちゃうとか、そういうのじゃない。

 幸せの臨界点を突破している。つまり、幸せなのが幸せという状態。



「こっ、これが、最後だよっ!」


 また離れた唇が、そう言ったかと思うと、俺の唇にくっ付いた。

 幸せは歩いて来ないかもだけど、吸い付いてくる。


======== キ リ ト リ ========


坂本くん、大胆ですね。告白っていうより、プロポーズしちゃいました。


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