ステージ11 サイコー、桜庭先輩投げ飛ばし競技②

 桜庭先輩も売り言葉に買い言葉で、直ぐに決闘することになった。


 私は、決闘に際して幾つもの注文をつけた。


 桜庭先輩はそれを全て飲んだ。ま、計算通りね。


「柔道3本勝負。それぞれ朝、夕、夜の坂本くんを賭けましょう」


 桜庭先輩は短く頷いた。


 坂本くんが独り落ち着きなくあたふたとしていた。


 でもまだ中途半端。もっと絶望を表現してもらわないと。


「昼は、私に需要がないから桜庭先輩が好きにしてもらっていいわ……。」


 坂本くん、許して。本心じゃないから。




「それに、先輩じゃ4本も保たないでしょうからっ!」

「ふーん。佐倉ちゃん言ってくれるわね! お友達ぐらいにはなってもいいわっ!」


「冗談。それより2つばかり、お願いがあるんだけど!」

「良いわ。言ってごらんなさい」


「1つ目は、代理人を認めて欲しいの。女子だけど」

「そうね。佐倉ちゃんじゃ勝てないでしょうからね。それで良いわ!」


「ありがとう。2つ目は、決闘前にそれぞれ5分だけ、坂本くんとキスをすること」

「今生の別れを告げるということね。良いわ。それも良いわよ」


「じゃあ、私はこれから仲間を呼んでくるから。先に5分間、2人きりでどうぞ」

「佐倉ちゃん、本当にいい子ね。グチャグチャにしたくなるわっ!」


 こうして、私の思惑通りことが運んだ。坂本くん、許して。




 私は5分間で柔道着とペットボトル入りのお茶2本をゲット。


「これでよく口を雪いでちょうだい! 間接キスなんて、気持ち悪いから!」


 坂本くん、許して。全部、桜庭先輩へのあおりだから。


 って、ムリかぁ。坂本くん、心配そう。




 やっと坂本くんと2人きりになった。


 けど、細かなことを説明している時間はない。


 私はささっと着替えた。


「佐倉、柔道なんかやったことあるの?」

「ないわ。あるわけないでしょう。でも、山吹ったら、大丈夫だから!」


「佐倉、やっぱり……。」

「……いいから、キスしてっ!」


 キスの催促。というよりは、キスの脅迫だった。坂本くん、本当にごめんね。




 あっという間に5分が過ぎた。私は単純にもっと長くキスしていたかった。


「おいっ、もう約束の時間を過ぎているぞ!」

「……。」

「……。」


 ガン無視! あと1分はそのまま続けるつもり。


「おいっ、いい加減にしなさいよっ! キーッ!」

「……。」

「……。」


 さすがに限界かな。


 これ以上キスしてて、坂本くんに危害が加わるのは避けなきゃ。




「もうっ、直ぐに離れなさいよっ!」

「待たせてごめんねっ、桜庭くん!」


「まぁ、いいわよ。少しぐらいなら、仕方ないわ!」


 あれ? 桜庭先輩、意外に優しい。しかも万民に対して。


 さくらスマイルにあてられたって感じじゃないわ。


 そうなると、やはり決闘は避けられない。




「貴女、佐倉さんじゃないわね。助っ人? 強いのかしら?」

「当たり前でしょう、最強だよっ! じゃあ、やろっか!」


「いいわよ。たっぷりかわいがってあげるから」


 その言葉、そっくりそのままお返しするわっ!




 最初の1本は、1秒かからなかった。


 開始とほぼ同時。


 私は桜庭先輩を思いっきり叩きつけた。


 そして桜庭先輩は、そのままのびていた。




 これはよくないわ。


 桜庭先輩にはもっと恐怖を味わってもらいたいのに。


 痛いだけじゃ物足りないはず。




「じゃあ、2本目、やろっ!」


 私ははそう言いながら、先輩の胸ぐらを掴んで振りまわした。


 それで桜庭先輩も気付いたみたい。


「えっ? えーっ?」

「ほらっ、次、はじめる、よっ!」


 言い終わるより早く、私は桜庭先輩を放っていた。


 今度は、かなり遠くへ投げ飛ばした。


 桜庭先輩は直線的な軌道で角の壁に激突し、またも気を失った。


 どう? 今度は怖かった?




「たっのしーっ!」


 私って柔道に向いているのかも。

 ま、山吹った私に向いてないことなんかないけど。


 桜庭先輩投げ飛ばし競技、サイコー!


 私は、のびている桜庭先輩を起こすとその場からまた投げ飛ばした。


 柔道場の対角線上を、巨体が飛翔した。


 桜庭先輩って便利。鍛えているから少々のことじゃ怪我しないもの。


 私も飛んでみたいな。誰か私を投げてくれないかしら。


 なーんて。無理よね。




 誰も私を止められない!


 私はすかさずぐたーっとしてる桜庭先輩に近付いていった。


 そして、起こすや否や投げ飛ばした。


 今度は少し上を狙った。巨体がきれいな放物線を描いた。芸術的!


 私は、無我夢中だった。




「さくら。もう辞めにしよう。これ以上は無意味だからっ!」


 震えた声。坂本くん!


 いっけない。私、決闘のこと忘れてた。坂本くんが見てることも。


「あっ! えへへっ。つい夢中になっちゃった。坂本くんも、どう?」


 坂本くん、全力で否定していた。冗談なのに真に受けられた。




 佐倉に戻ったあと、素早く着替えた。桜庭先輩を介抱した。


「先輩、お怪我はありませんか? ありませんよね!」


 起きて直ぐの桜庭先輩は、私を見てびびりまくっていた。


 そのあとさくらと私が他人だと思ったのか、安堵のため息を吐いていた。




「……。」

「ということで、先輩の負け、ですねっ!」

「そうね。あんな強い子がいたんじゃ、勝ち目ないわ」


「……。」

「先輩もなかなかのものですよ。怪我ひとつないんですから」

「違うのよ。あの子、怪我のないように投げていたわ……。」


「……。」

「そうなんですか。山吹さくらって、すごいのね!」




 こうして私たちは、無事に入部を断ることができた。


 昼練もなし。私が4回も投げちゃったから。


======== キ リ ト リ ========


もし山吹さくらが現実にいたら、服従するしかなさそうです。


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