スタジオ04 高校生生活の色①
佐倉との楽しい食事の時間になった。
部屋に運ばれてきたのは豪華なディナー。
こんな豪華な食事にありついたのっていつ以来だろう。
俺の両親は自営業で世帯年収はそんなに高くなかった。
けど、2人は俺のことを第1に考えてくれた。
俺のことで数年前からは出費がかさむようになった。
だから最近は、豪華な食事とは無縁の生活を送っていた。
お父さんとお母さん今頃何してんだろう。
いつか2人をこんな豪華な食事に招待したいものだよ。
何年先かは分からないけど。
俺は、思わず涙目になっていた。
佐倉が気遣って声をかけてくれた。
俺は正直に食事の豪華さについて思ったことをはなした。
あのことについては触れないように。
佐倉は、地味に感心していた。
「坂本くんって、親孝行なんだね! 私はそういう風に考えたことなかったわ」
「いやね、俺はできが悪いからそれだけ苦労をかけているってことなんだ」
「そんな、坂本くんのできが悪いだなんて思わないよ。(むしろコスパ高いよ!)」
「ありがとう。そう言ってくれるのは、佐倉だけだよ」
「ねぇ、坂本くん。温泉、好き?」
それは唐突ではあった。
けど俺は無類の温泉好き。
だから佐倉の言ったことに、二つ返事で答えた。
「好きだよ、とっても!」
「じゃあさ、あとで一緒に入ろっか!」
えっ? 一緒にってどういうことだ?
まさか混浴ってわけじゃないだろう。
このホテルにはたしかに天然温泉がある。
それはちょうどこのフロアの1つ下、32階にあるはず。
ちゃんと男女別湯になっていたはず。
そんなどうでもいい知識から俺は混浴という可能性を完全に消去してしまった。
営業時間を知らないまま。
「うん。一緒に入れるなんて、俺、超うれしいよっ!」
「やったぁーっ! でね、その代わり、お願いがあるんだけど……。」
「あぁ。部屋の片付けなら任せてよ!」
「それは今日じゃなくってもいいわ。何ならしばらく通ってくれた方がうれしいし」
「大丈夫。この部屋だけならあと1時間くらいで終わるから」
「いやね、その。部屋は他にもあるから、それはそれでお願いしたいんだ……。」
「まっかせなさいっ! 俺、片付けるのは得意だから!」
「わぁい。頼もしいわ。でも、お願いは別にあるの……。」
佐倉はよろこんでくれた。そして、恥ずかしそうにしていた。
そんなに言いにくいお願いなんだろうか。
俺は一抹の不安を覚えながらも、気安く応じた。
「大丈夫。言ってみて!」
「あのね、写真撮ってもらいたいの……。」
「えっ……。」
「ほらさっき写真撮るのが趣味って言ってたから。キスのあとお願いしようかなって!」
「お安い御用だよ! むしろ、うれしい!」
写真が撮れるのもうれしかった。
けど、それ以上に佐倉に必要とされていると思うと、そのことがうれしかった。
「で、その衣装っていうのが……。」
なっ、何だ。急に雲行きが怪しくなった。とんでもない衣装なのか?
まっ、まさか、水着姿……。
これは相当刺激的だ。
さくらすうぃむすぅーつはやばい。
でも、それはさっき撮影したばかり。可能性は低かろう。
だとすると……。
まさかとは思うが、おおお、おパンティー&ブラジャー!
からの、フルヌードゥ!
けど、佐倉はファンからの贈り物に対して恩返しのつもりで撮影している。
だから、フルヌードはありえない。けど、おパンティーの線は消えてない。
これは、断った方がいいのだろうか。
そう思っていると、佐倉が思い切ったのかハッキリと言った。
「……浴衣なんだけど!」
「えっ! 浴衣。それ、いいじゃん!」
よかった。あぁ、よかったよかった。
おパンティーじゃなくって、本当によかった。
このときの俺は、この撮影がそんなにも大変なものとは思わなかった。
このあとの俺の予定。部屋の片付け、温泉、キス、撮影。
そして家に帰って寝る。
何か忘れていないかな。そうそう、テレビだ!
このうち最も過激なのは言うまでもなくキスだろう。
そして、最も楽勝なのは温泉かな。
ゆっくり浸かって身体の疲れを取ろう。
そんな甘い認識の俺だった。
「押し付けちゃって本当にごめんなさい。私、エステなの……。」
「いいんだよ。何度も言うけど俺、片付けるの得意だから!」
俺は佐倉を見送り、2時間弱は1人きりでこの部屋で過ごすことになった。
この日、片付けるのは撮影のときに使っていた部屋。
佐倉のベッドがあるし、1番清潔にしておかないといけない部屋だ。
今日使った衣装が散乱しているし、壊れたカメラの残骸もある。
どちらから手をつけるかだけど、あまり迷わずにカメラにした。
壊れたままのカメラを何度も見るのは忍びないから。
実際、食事のときにも気になる瞬間があった。
だからカメラ1択。
そのことが、俺の波乱のスタートだった。
カメラの片付けの90%以上は、ほぼ一瞬で終わった。
手で拾えるものは目立つし、それほど大変でもないんだ。
でも、よく見ないと細かな破片を掃除し忘れてしまう。
それは致命傷。
踏ん付ければ怪我をするし、残っていると次なる汚れを誘発してしまう。
だから、最後の破片を拾い集めるまでは、慎重にならざるをえない。
さくらがカメラを放った位置は部屋の真ん中より西側の北寄り。
その東側にはベッドがある。
破片のほとんどは、放った位置よりも北側に分布していた。
だけど、こうしてベッドの下に手を伸ばしてみると……。
「あった!」
俺は独りなのも忘れて、思わず声を上げた。
こういう風にときどき違う方向に行ってしまう破片まできれいに片付けないと。
俺は3片の欠片を拾い上機嫌になっていた。
そして、さらに拾おうと手を伸ばした。
すると、何やら柔らかなものに手が触れた。
カメラの破片とは考え難い。
だが、ゴミであることは間違いなかろう。
「よしっ!」
俺はわざわざ気合いを入れてそれを握った。
程よい弾力があった。
布製品のようだ。
ハンカチにしては形が不規則だし、紐のようなものも付いている。
それにちょっと小さい。
2枚重なってるようにも思える。
違うかもしれないけど。
それは片手で簡単につかみ出せた。
俺は手を広げ、中のものを確かめた。
ひらひらしていて、汗を拭うには不都合な形状をしていた。
そして、くしゃくしゃだった。
なんだろう。
======== キ リ ト リ ========
普通、分かりますよね。坂本くんとぼけてるんでしょうか。
いつもありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます