第21話説得
後日、早々に荷物をまとめたエルウィンは不思議がる妹二人を連れてそそくさと国を出て行った。
その顔は、確かに恐怖に染まっていた。
「はあ、疲れましたねえ……」
安堵したような表情で、シェレネがぽふんと寝台に座る。
「クリスティンとジャンは今から修羅場かなあ……」
他人事のようにウィルフルがつぶやいた。
その場の勢いで婚約者の存在を明かすことになってしまったクリスティン。
しかもその相手が敵対するセルヴィール家の次男ということもあり、説得は困難である。
「まあ、私の目には我が妃しか映らぬ。そのことで心を痛めないでくれ」
「浮気はいけませんよ~、まあいいんですけど……」
「そんなこと言うな。私の妃はシェレネ一人でいい」
「ほんとに?」
勝手に惚気展開にするのはやめていただきたい。
「お父様、なんでいけないのですか!」
「ティーナ、お前は何もわかっていない!」
「父上、落ち着いて!」
レスト公爵家では、本格的に修羅場になっていた。
結婚を認めろというクリスティン、認めないというレスト前公爵、止めようと必死なアランドル、そしてそれを眺める神王兄妹。
自分のために言い合っているので、ジャンには何かしてほしいところである。
「なんでだめなの?国王陛下もご存じなのに!」
「対立しているんだ。政敵なんだよ?」
やれやれといったように、前公爵が首を振る。
クリスティンが、ぎゅっと手を握り締める。
「もういい!お父様なんて大っ嫌い!!」
そういうと彼女は、パタパタと廊下の奥に消えて行ってしまった。
ジャンとルールーリアも後を追う。
なんとなくアランドルも走り去った。
「ティーナ!どこに行くんだ!ティーナ!」
前公爵の叫びは、前公爵の私邸の廊下に響き渡るだけだった。
「お父様のバカ…… なんでだめなの?大人同士の争いに子供までに巻き込むのはひどいわ」
「家出しましょ~ 溺愛なさってるんでしょ?いなくなったらいい薬です!」
「なら私の屋敷にいるということで」
なぜかみんなノリノリである。
一方そのころ、レスト前公爵はいつになく沈んでいた。
「お父様なんて大っ嫌い……大っ嫌い……」
大っ嫌いといわれたことが相当ショックだったようである。
「大方アランドルの屋敷にでもいるんだろう……大っ嫌い……」
「父上ー?何やってるんですか?」
前公爵のところに、四男セシルがやってきた。
不思議そうに父親の顔を覗き込む。
「ティーナに……ティーナにお父様なんて大っ嫌いと……」
「それはもう吐き捨てるように言われてお屋敷を出ていかれたのですよ」
一連の流れを見ていた侍女が、セシルに告げる。
「なにか嫌われることしたんですか?」
不審そうにセシルが問う。
「いや…… お前には関係ない……」
この家の人たちは、彼女のことを溺愛しすぎである。
「あーあ、なんかクリスティンの怒りの声が聞こえた気がするなあ……」
「なんかお父様なんて大っ嫌いって言ってましたねえ……」
なんできこえてるの!?
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