第1317話 再びケイノトへ

「い、いつ見てもすげぇ! ほ、ほらほら、お前らこれが私が言っていた『魔法』って奴だよ! ばしゅーって飛んで行くんだよ! な? ミスズ様もあのクソガキも一瞬で消えただろう!?」


「ほ、本当に、消え、ましたね……!」


 興奮気味にヒノエ組長が騒ぎ始めたかと思えば『一組』の自分の隊士達に凄いだろうと自慢を始める。

 これまでヒノエ組長から話だけは聞かされていた彼らだったが、今こうして目の前で自分の目で『魔法』を確かめた事で、彼女があれだけ何度も同じ話をしたのも無理はないと考えるのであった。


「な、なんだよこりゃ……」


 『煌鴟梟こうしきょう』の幹部であったサノスケもこの場で非現実的な光景を目の当たりにして、驚きの声をあげる。


 ソフィはこれまでこの世界で一緒であった『ヌー』が、最後にセルバスに見せた友想いの言葉を思い出して満足そうな表情を浮かべていた。


(クックック! あの『死神』のテアに食事をさせようとしたり、色々と世話を焼いているのを見た時から考えていたことだが、あやつはやはり根は真っすぐでいい奴だったのだろうな。これまであの特殊な環境ともいえる『アレルバレル』の世界にある『魔界』で、戦争や戦闘に明け暮れて、裏切りや騙し打ちの連続の中に身を置いてきたことで、自分以外は信用出来ないと思うようになってしまってああいう性格になったのだろう。あやつにテアという理解者が出来たことは、奴にとっては何物にも代えがたい貴重な体験になったのだろうな)


 元々ヌーは『第一次魔界全土戦争』の時から、ああいう性格で『魔界』だからとかいう理由ではなく、単に闘争心と自尊心しかないような魔族であったが、ソフィの言う通りにこの世界にきてからは彼も変わったとみて良いだろう。


 ――そこには確かに、少なからず『死神テア』の影響があることも否定は出来なかった。


「さて、それではこちらも『ケイノト』の町へ向かうが、準備はいいかな?」


 ソフィが最初にシゲンの顔を見ると小さく頷くのが見えた。


「あ、ああ! ソフィ殿、いつでも飛ばしてくれて構わないぜ!? やば、緊張してきた……! 空を飛ぶ時に景色とか見れるのかな? そ、空を移動するときに、まるで泳ぐように手を伸ばした方が良いかな?」


「いや何もせずとも構わぬよ。空から地上を見下ろすことは出来るが、一瞬ではあるからそこまで景色を眺める余裕はないとは思うが……。あとは飛ぶ時に我の近くに居て貰えた方が助かる。理由は先程ヌーが言っていたように、飛ばす人数が多ければ多い程に気を付けていても魔力の余波が出るのは仕方のないことだからな」


「そ、そうか! とりあえず空から落ちるのを想像するとこえぇから、アンタにしがみついてていいか?」


 どうやら余程に緊張しているのだろう。ヒノエは自分の胸を押さえながら、震えるような声でソフィに訊ねるのであった。


「うむ……。それは別に構わぬが、行き先の『ケイノト』の町の事だが、裏路地が我の『ケイノト』のイメージなのだが、そこに飛んでも構わぬだろうか?」


「ああ! ケイノトに飛んでくれるならどこでも構わねぇよ! あ、そうだ。ちょっと待ってくれ」


 ヒノエは何やら思い出したとばかりに、自分の隊士達の居る方を向く。

 そこにはじっとヒノエに視線を送りながら、付き従うように立っていた女性が居た。


「ヒナギク。最初に申していた通りだが、お前に本部付けの妖魔退魔師衆達の担当を任せる。それと分かっているな?」


「はい、分かっています。しかし今回も私は貴方のお傍につかせてもらえないのですね」


 いつものようにヒノエが『一組』の副組長である『ヒナギク』に、本部付けの妖魔退魔師衆と予備群の管理を任せようとすると、ヒノエを責めるような鋭い言葉が投げかけられるのだった。


「いつも悪いと思ってるよ。けど今回は仕方ないだろう? あのクソガキも当たり前のように『サシャ』を連れて行きやがったし、総長は色々とやることも多くて忙しいだろうし、お前しか頼めるやつがいねぇんだ」


「私を頼りにしてくれているんですね……?」


「当たり前だろ! お前だから頼んでるんじゃねぇか!」


 ヒナギクはヒノエにそう言われて嬉しそうな表情を浮かべるのだった。


「分かりました。それでは後の事は私にお任せください。しっかりと見張っておきます」


「頼んだぜ?」


 そう言ってヒノエはヒナギクの頭を撫でるのだった。


「お戯れを……!」


 頭を撫でられたヒナギクだが、言葉ではやめるようなことを口にしたが、払いのけるような真似をせずにされるがまま顔を赤くしていた。


「よし! じゃあソフィ殿、よろしく頼むよ!」


「うむ。では此処に居る者達を連れて『ケイノト』へ向かうが、もうやり残したことや忘れ物はないな?」


 ソフィの言葉に『ヒノエ』を含む『一組』の隊士達は全員が頷くのだった。


「では、行くぞ」


 ――「『高等移動呪文アポイント』」。


 ヌーの時と同様にソフィの詠唱によって、魔法陣が高速回転を始めたかと思うと、効力を発揮してその場に居た『ケイノト』へ向かう予定の者達を飛ばすのであった。


 ……

 ……

 ……

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