第1286話 恐怖の追跡者、妖魔退魔師三組組長

 ジンゼンはキョウカが遠くから放ってきた衝撃波にようやく気付いたようだが、その時にはもう対応するには遅すぎた。遠くに居たキョウカは自身の放った衝撃波でジンゼンを仕留めたと確信を持ったが、しかしそこにまたもやあの天狗が邪魔をするのだった。


 ジンゼンに向けて逆方向から突風が吹いたかと思うと、そのジンゼンが乗っていた『鳥類』の妖魔ごと吹き飛ばされていった。


「う、うわああっ……!」


 情けない声を上げながらもジンゼンは、キョウカの衝撃波の射線上から外れて命拾いをするのだった。


「なっ、なっ!? い、今のは一体……!?」


「それよりお主、まだ『魔力枯渇』の心配は無いか?」


「な、何? ま、魔力枯渇だと?」


「ええい! まだ儂を使役していられる時間はあるのかと問うておるのだ人間!」


「残っているわけがないだろう! お前が勝手に飛び去っていってから私がどれだけお前のことを探したと……!」


 突然に怒鳴りながら聞いてくる王連に理不尽さを感じたのか、ジンゼンも大声で言葉を返しながら不満を愚痴ろうとしたが、最後まで言い終わる前に自分に向かって飛んでくる刀の存在に気づいて、慌てて口を閉ざすのだった。


「――」


 その唐突に投擲されてきた刀に驚いたジンゼンは、両手で顔の前を覆いながら必死に目を瞑るが、どうやらまたもや王連が何かを呟いてキョウカの投擲した刀を地面に落とすことに成功したようだった。


「人間……。まだ儂と契約を続けるつもりならば、此処は一旦引くのだ! 儂と契約を続けるにしても破棄をするにしてもこの場に残ればお主、あの迫ってきておる女子に殺されるぞ?」


「い、一体さっきから何が……って!? お、おい、あれは『隻眼』じゃないか!?」


 こちらに向かって迫って来ている存在が誰なのかをようやく認識したジンゼンは、驚いた様子で王連にそう告げるのだった。


「うむ。あの妖魔退魔師とこれ以上戦い続けるとなると、流石にお主を守りながら戦うには無理があると儂は思っておる。お主と契約を続けている以上、儂は何度やられても再び『式札』から呼び出すことは出来るだろうが、儂が一度でもやられてしまえばお主は、もう二度と儂を呼ぶことは出来ぬだろうよ」


 妖魔召士『ジンゼン』と式の契約を交わしている『王連』は、やられる寸前に『式札』に戻すことで『王連』が死ぬという心配はなくなるが、この状況では『王連』を少しの間でも式札に戻している余裕はないだろう。


 ――王連という存在がこの場から少しの間でも居なくなれば、即座に妖魔退魔師『キョウカ』に『ジンゼン』はその命を奪われてしまうだろうという事が明白だからである。


 しかしこのままであっても『ジンゼン』の既に残り少ない魔力では『式』を維持出来ずに『王連』は『契約紙帳』に戻ってしまうだろう。どちらにせよ、このままここに残ればジンゼンは死ぬだけである。


「お、王連!! 早く私を加護の森へ連れ……って、ひ、ひぃ!!」


 信じられないことにあれだけ離れていた『隻眼』は、もう目と鼻の先というところまで移動してきていた。


「分かっておる! 全力で儂が空を飛ぶから、払い落とされぬようにしっかりと捕まっておれよ!」


「わ、分かった!!」


 王連はランク『4』の『鳥』の妖魔に跨っていたジンゼンを空の上から手を伸ばして強引に担いだかと思うと、その場から一気に大空へ飛翔するのだった。


 そしてコンマ数秒後、信じられない程の数の連続で放たれた衝撃波によって、僅か前まで乗っていた『鳥』の妖魔は細切れになるほど小さく切り刻まれた後、ボンッという音と共にその場に『札』だけが残るのだった。


 キョウカがそのヒラヒラと宙で舞っている式札の傍を通り過ぎて行くと、あっさりとその式札が真っ二つにされて完全に消滅した。


 彼女は一瞥もくれずにその式札の傍を通りすぎる一瞬の間に、切り裂いたのであった。


 ――もう二度とその『妖魔』を使役することは出来ないであろう。


「なっ……!? な、ななっ、なんという……! ば、化け物だ……」


 ジンゼンはあれだけ離れていた場所を走っていた『隻眼』が、たった数秒で一気に先程までジンゼンが居た場所に辿り着き、そしてさっきまで乗っていた『鳥』が、一瞬で切り裂かれたところをみたことでジンゼンは『隻眼』に対して怖気が走るのだった。


「どうやらまだ、安心は出来ぬようだぞ?」


「え?」


 先程の空の上より遥か高い大空へと跳躍してきたことで『ジンゼン』は『隻眼』から逃れられたとばかりにほっと一息吐いていたが、その瞬間に王連に気になる言葉を掛けられて下を見ると、何とそこには――。


 次々と木々の間を跳躍しながら『キョウカ』は、少しずつ高い木に移動してきたかと思えば、そこから自分達の居る空に向けて、次々と三日月型の衝撃波を飛ばしてくるのだった。


 バシュッという音と共に、空の上に居るジンゼンの近くを次々と衝撃波が追い抜いていく。


「わあああっっ!!」


「ええいっ、うるさっ……!」


「わああああっっ!!!」


 ――何と空の上だというのに、空を飛べない筈の人間によってジンゼンは命を奪われそうになるのであった。


 何とか王連はジンゼンを担ぎ上げながら器用に、下から次々と放たれてくる衝撃波を必死に躱し続けるが、その間にもずっとジンゼンは大声で叫び続けていた。


「う、うわわあああっっ! は、はやくぅ、こ、この場から離れろぉ! お、王連!! こ、殺されるぞぉ!!」


「ええいっ! いい加減耳傍で喚くなぁっ、役立たずの人間がぁ! 耳がキンキンするじゃろうが! ここから放り投げられたくなかったら、いい加減に黙っておれ!」


「……」


 王連に叱られてしまったジンゼンは、両手で自分の口元を押さえながらコクコクと何度も頷くのだった。


 ……

 ……

 ……

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