第1253話 はがゆさと時間稼ぎ
「うむ、実に面白いぞ? いつの世もお主ら人間というものは儂らを飽きさせぬ。それでこそお主らと契約を交わした意味があるというものだ」
「楽しそうにするのはいいが、しっかりと働いてもらうぞ『王連』。その為に私はお前に膨大な魔力を費やしてまでこの場に使役しているのだからな!」
契約を交わしている妖魔だが、魔力の供給がなくなれば『式』はその役割を果たせなくなり、再び『式札』へと戻されてしまうのである。
一度契約を交わした以上は『大天狗』である『王連』といえども契約の破棄を一方的に行う事は出来ず、こうしてジンゼンの命令に従わなければ、自分の力だけでは現世にも出て来る事はかなわないのであった。
「ふむ。本物の妖魔退魔師と戦う事など久方ぶりなのでな。儂とて存分にやり合いたいと思っておるところだ、安心なされよジンゼン殿」
「それならばよいが、相手は妖魔退魔師の中でも相当上位に来る者達だ。決して油断はせぬように頼むぞ? お前には『禁術』を用いる事が出来ぬのだからな……!」
――そうなのである。
元々この『大天狗』の『王連』を使役しているだけでも相当に魔力の消費が著しく、その上に他のランク『4』や『5』の妖魔に対して強引に『術』でランクを押し上げるような事を『王連』にすれば、モノの僅か数秒でジンゼン程の『上位妖魔召士』であっても魔力は枯渇してそのまま生命力を注ぎこんでも直ぐに死んでしまうだろう。
つまり『王連』に対しては『ジンゼン』であっても里のゲンロク派の妖魔召士や、前時代までの妖魔召士と同じような『式』の扱いしか出来ないのであった。
もしこの目の前に居るランク『7』の『王連』程の妖魔を自由自在に何時間でも使役し続けられるだけの『魔力』を有する妖魔召士が居るとするならば、前時代の妖魔召士の長であった『シギン』やその『シギン』に認められていた『サイヨウ』の両名くらいであろう。
しかし『シギン』や『サイヨウ』がたとえこの世界にまだ居たとしても、決して『禁術』を使うような真似はしなかったであろう。つまり『王連』に対してランクをさらに押し上げるような芸当が出来る妖魔召士はもうこの世には存在しないという事と同義であり、元々ランク『7』程の力を有する『大天狗』自身にこの場を任せる他、契約主の『ジンゼン』にはやることがないのであった。
「カッカッカ! 儂の目から見ればこの場に居る『人間』は誰一人として脅威を感じてはおらぬが……。どれ現代の妖魔退魔師とやらの腕前を見てやるとするかの」
そう言って『王連』は妖魔召士のように、魔力を開放をし始めるのだった。
(私達を含めて脅威を感じてはいない……か。まぁそりゃあそうだろうな、そもそも『王連』が私と契約を行っているのもコイツが面白そうだからと感じたから契約に応じただけであって、私が力で屈服させたわけでも他の妖魔のように『術式』で強引に契約をさせたわけでもなし……)
少し悔しそうにしながらもジンゼンは、仕方が無いとばかりにそう胸中で呟くと、今やるべき事は妖魔退魔師達を潰す事だと頭を切り替えるのだった。
…………
「ヒサト副組長……」
「ああ。どうやらコイツが倒されたのを見て、あの妖魔召士も切り札を出さざるを得なくなったんだろうな」
床に転がっているランク『6』の『野槌』を一瞥するが、彼はそのままトドメを刺すような真似をせずに『野槌』が勝手に消えるのを待つ様子であった。
ヒサトがそうする理由には、少しでも『野槌』を使役している『ジンゼン』の魔力を減らそうという考えからであった。
妖魔召士では無いヒサトであっても『式』と『妖魔召士』の関係性は『妖魔退魔師』組織の中でもある程度は情報として教えられる。
あの『大天狗』を使役した以上、この転がっている妖魔は直ぐに戻されるだろうが、今はあの妖魔召士にも余裕が無いのか、それとも『野槌』と『天狗』の両方を使役していてもそこまで魔力に関して問題は無いのか、そこまではヒサトにも分からない事だが、それでも彼の今の役目は『キョウカ』組長の元に部下を報告に向かわせる事であり、それまでの時間を稼ぐ事を目的としている為、わざわざここで『野槌』にトドメを刺して相手の選択肢を減らしてやるような手助けをするつもりはないヒサトであった。
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