第1250話 生と死の瀬戸際

 先程仲間を助けに行こうとした同志に忠告を行った妖魔退魔師は、迫りくる妖魔を何とか倒し凌ぎながら、大きく距離取るために跳躍をして見せたが、その時に仲間が首を捻り潰されて絶命してしまうところを見てしまうのだった。


「て、てめぇ……! 許さねぇ!」


 結局忠告を無視して同志を助けに行ってしまったが故に殺されたのだから自業自得とはいえ、悪いのは救出に向かった男ではなく、ましてや直接手に掛けた妖魔でもなく、全てはヒュウガ一派の『妖魔召士』が全ての原因である。


 それを理解している妖魔退魔師の男は、同志を手に掛けた妖魔ではなく、先程まで目を青くしながら、魔瞳を使って動きを止めていたであろう『ジンゼン』を睨みつけながらそう言葉を吐き捨てるのだった。


「ふふっ、今更何を仰っているのやら。我々に刀を向けた時点で我々と貴方がたはもう戦争をしていたのですよ? それだというのに仲間の命を奪われてそこまで怒るとは驚きですねぇ? 妖魔退魔師ともあろう方々が少しばかり覚悟が足りていないのではないですか?」


「な、何だと……!?」


 周囲に居た『幽鬼』をようやく片付けたその妖魔退魔師の男は、勝手な事を宣っているジンゼンに更に激昂するのだった。


 しかしそんな男を嘲笑うかの如く、上位の妖魔召士達は更に続々と『式』を出しながら、数少なくなった妖魔退魔師の『三組』の幹部達を取り囲み始める。


 十数名居た妖魔退魔師『三組』の組員達は、もはやその半数以下まで数を減らしていた。


 更に副組長である『ヒサト』はランク『6』の妖魔である『野槌のづち』の体内に仲間を助けに入ったきり出て来ておらず、この『三組』の組長『キョウカ』の姿もこの場には居ない。


 流石の達人揃いの妖魔退魔師の幹部達とはいっても、指揮官も居ない状況下で『上位妖魔召士』を同時にこれだけ相手をしながら戦うのは無理があったようである。


 覚悟が足りていなかったのではないかと煽られるように告げられた妖魔退魔師の男だったが、乗せられるままに怒るのではなく、現状を冷静に省みて確かに自分達は『妖魔召士』という者達に対して驕りのようなモノがあったのだろうと自覚するのであった。


(妖魔召士達は『魔瞳』さえ気をつければ、後は『式』を頼りに戦うだけしか出来ない者達だと思っていた……。しかし実際に戦ってみて気づいたが、魔瞳に捉術、それに『式』に術式を織り交ぜて集団で襲い掛かって来たならば、これ程に脅威的なのだと思い知らされた……。彼ら妖魔召士は『禁術』と『妖魔』だけに頼った戦い方しか出来ないと思っていたが、決してそんな事はなかったわけだ)


 妖魔と戦ってきた歴史を持つ人間は、彼ら『妖魔退魔師』だけではなく『妖魔召士』も同じなのだという事を仲間を半数以下まで減らされた事で、彼はようやく『妖魔召士』の強さというモノを自覚したのだった。


「だが、まだ負けたわけじゃない!」


 妖魔退魔師の男はそう口にした後に『青』のオーラを刀に纏わせて、妖魔召士を強敵だと認めた上で覚悟を決めるのだった。


「もう勝敗は決したと思いますが、まだ諦めてはいないようですね? いやはや結構な事ですよ、存分に最後まで足掻いて下さい。そうなさって頂ければ新たなヒュウガ様の『妖魔召士』組織の名が上がり評価されるのですから」


 そう言ってジンゼンは残り僅かとなっている妖魔退魔師『三組』の幹部の男に告げるのであった。


「せめてヒサト様達を呑み込んだその『蛇』の化け物だけは……! 必ず斬ってやる!」


 その言葉を放って男が『野槌』に向かって突っ切っていくと、周りに居た妖魔退魔師達も『幽鬼』や他の妖魔を無視して男に続いた。


「『野槌』! 残りの連中も呑み干してやれ!」


 ジンゼンの命令を聞いた『野槌』は、オーラを纏いながら迫って来る妖魔退魔師達の方に体を向け始める。


 ――しかしそこで『野槌』に異変が生じた。


「しゅ、しゅるるるっ!!」


 突然『野槌』が慌てるような声を上げだしたかと思うと、その場でグルグルとまわり出したのである。


 更に『野槌』は苦しみ始めたかと思うと、奇妙な声をあげながらジンゼン達の居る方へ向けて移動してくるのであった。


「な、何を!?」


「しゅるるるっっ!!」


 突然の異変に奇行な動きを見せた『野槌』は助けを求めるようにジンゼンの方へ向かってくるが、そのジンゼンに辿り着く前に動きを止めたかと思うと、次の瞬間には身体が体内から引き裂かれながら血を噴き出し始めた。


「な、なな!?」


「くっ! ジンゼン殿、離れなされよ!」


 ジンゼンは驚きに目を丸くしていたが、直ぐに危険を察知した他の『妖魔召士』達が、一斉に『野槌』と『ジンゼン』の居る方へと移動を開始してそう告げるのだった。


 そしてのたうち回っていた『野槌』の体内から二人の男が抜け出て来たかと思うと、恐ろしい形相を見せる


 彼は最初に野槌に呑み込まれた男の手を自身の肩にかけながら、周囲の妖魔召士に殺気立った視線を向ける。


「うっ……!」


 その『ヒサト』から視線を向けられた妖魔召士達は、ジンゼンを守り立ったままで、ヒサトの視線に怯みながら後退った。


「ひ、ヒサト副組長!! ご無事で!」


 玉砕覚悟で『野槌』に向かっていった隊士は、嬉しそうな表情を見せながら『野槌』を体内から突き破って出て来たヒサトに駆け寄って声を掛けるのだった。

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