第1190話 客観的な目線
「まさかソフィ殿とミスズ殿が共に里にこられるとは思わなんだ」
ソフィ達の顔を見たゲンロクは、椅子から立ち上がってそう告げてくる。
「久しぶりだなゲンロク殿」
ソフィの挨拶にゲンロクは笑みを浮かべて応えたが、その横に居たミスズの色の無い表情を見て嫌な予感を抱いたゲンロクだった。
「ど、どうかなされたかな、ミスズ殿」
「単刀直入にゲンロク殿に訊ねたい事があります。前回の我々の会合で貴方が我々『
そのミスズの言葉は質疑を行うというよりも『決まっている判決を愚直に告げる』ような言葉のように感じられた。
「ま、待ってくれ! どういう事かしっかりと説明をしてくれミスズ殿! 急に訪ねてきておいて、一方的にこう責められてはワシも困ってしまうぞ」
「……」
ミスズはゲンロクの言葉と態度をしっかりとその眼に映して観察を行う。
ゲンロクの方も言葉を投げかけた後に、そのミスズの視線に怯む事なく見つめ返す。
互いに数秒間視線を交差させていたが、やがて彼女の方からそのゲンロクへの視線を切って、ずれていた眼鏡をくいっとあげるミスズであった。
「どうやら本当に何も知らないようですね」
「どういう事なのだ? 前回の会合の後に何かあったというのか? まだこちらは何も情報が入ってきてはいないが」
そう告げるゲンロクの言葉も偽りはなさそうだと判断したミスズは、ようやくここで本題を切り出し始めていくのだった。
「前回うちとそちらで会合が行われるキッカケとなった、こちらの組織の予備群を襲撃した妖魔召士二名を捕縛している旅籠町の屯所に、
ミスズの言葉を聞いたゲンロクは、どうみても演技には見えない驚きの表情を浮かべる。
「襲撃に抵抗した予備群の一人が首を切断されて死亡させられ、そのまま襲撃を起こした妖魔召士数名は、屯所に捕縛していた例の妖魔召士二名を脱獄させて逃亡したのですよ」
「なっ……!」
驚きを通り越して信じられないといった表情に変貌するゲンロクの代わりに、同じく事情を聞いていたエイジが横から口を挟んでくる。
「此処に居るゲンロクや、現在里に居る妖魔召士達……。当然小生もだが、前回の会合に参加した里の者達は誰も旅籠町の屯所を襲撃等行ってはおらぬし、誰も指示などを出してはおらぬ。その紅い狩衣を着た者達をこの里の者達だと疑ってここに来られたというのであれば最初に言っておくが、小生達ではないと断言しておく」
「え、エイジ……」
狼狽える様子を見せていたゲンロクは、自分が行うべき弁解をエイジが代わりに行ってくれた事で、驚きながらエイジの名前を呼ぶのであった。
「では紅い狩衣を着た複数の妖魔召士をどう説明致しますか?」
「ミスズ殿。そのように白々しく責め立てないで貰えないだろうか? 貴方も旅籠町の予備群達を襲った連中の事は、我々ではなく『ヒュウガ』一派達なのだとアタリはついているのだろう?」
もうそんな腹の探り合いのような事を詰問せずに、本音で語り合おうじゃないかと、エイジはミスズの問いかけの言葉をばっさりと切り捨てるのだった。
ミスズはエイジと視線の交換をほんの少しの間ではあるが行っていたが、やがてミスズから視線を切って首を縦に振って頷いた。
「これは失礼。大事な部下を失ってしまったので、万が一にもと思いまして個人的な事実確認を行ったつもりでした」
ゲンロクはその言葉を聞いて内心で『本当に失礼な奴だ』と考えて視線をエイジに向けたが、そのエイジはゲンロクの視線をちらりと一瞥して受け取った後、ゆっくりと首をあげていきながら天井の方へと視線を向けて溜息を吐いた。
(やれやれ。当代の妖魔退魔師の副総長であるミスズ殿は、相当に面倒な相手のようだ。これではやはり今の『妖魔召士』達は、ゲンロク達だけではどうにも出来ぬだろうな)
ゲンロクよりも遥かに若いエイジではあったが、彼は『シギン』や『サイヨウ』が居た前時代の『妖魔召士』組織の中で密度の濃い時間を過ごしてきた生粋の『妖魔召士』であり、そんな彼が客観的に見た現状の組織間の人材の差を目の当たりにしてそう胸中で呟くのであった。
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