第1134話 第三形態・大魔王ソフィVS妖魔退魔師・副総長ミスズ

(いつも意地でも眼鏡を外す事をしなかった副総長が、ソフィ殿との戦いの時は外しますか……。どうやらソフィ殿はミスズ様に強敵と認められたようだね)


 普段の時は言うに及ばず、ここ最近では副総長ミスズは、妖魔討伐時でも眼鏡を外す事はしていない。一般的に『妖魔召士ようましょうし』や『妖魔退魔師衆ようまたいまししゅう』が高ランクと呼んでいる、ランク『5.5』や『6』クラスの妖魔が相手であってもミスズはその煩わしくズレる眼鏡を外す事なくそのまま戦いを続ける程である。


 そんなミスズが眼鏡を外す時は、相手を強敵と認めた時や、妖魔に拘わらず、人間に対しても完膚無きまで徹底的に潰すと決めた時、本気になったときに彼女は眼鏡を外して相手と相対している。


 ――そして、そもそも副総長ミスズの視力はそこまで悪くはない。


 それが証拠に『妖魔退魔師ようまたいまし』組織の総長が、シゲンに代わり現体制になる前までは、ミスズは眼鏡を掛けていなかったのを古参の組員であるスオウは知っている。


 いつからミスズが眼鏡を掛けるようになったかというと、明確な時まではスオウも覚えておらず、定かではないが彼女と同時期にこの『妖魔退魔師ようまたいまし』組織に入隊したミスズのライバルであった『キョウカ』が、妖魔との戦闘でからだっただろうか。


 先代から指名されて当代の総長に選ばれた者が、当代の副総長を決めるというのが、古くからのこの組織の習わしである為、候補に挙がったミスズとキョウカの両名が、シゲンの片腕として副総長になる為、何度も競い合っていた時の事をスオウは思い出す。


(眼鏡を掛けていなかった、副総長の昔の姿も今思えば懐かしいな)


 過去を思い耽っていたスオウだったが、はっと我に返ると慌ててソフィ達を見る。どうやらまだ互いに牽制をしあっているようで、先程までと場は全く動いていなかった。しかし眼鏡を外した今のミスズは眼鏡を掛けてきている時と性格が随分と変わる。


 ――いや性格が変わるというよりも、本性を露にすると言った方が正しいだろうか。


 普段の聡明で礼儀正しく慈しみを持っている女性というのが、眼鏡を掛けている時のミスズの姿ではあるが、この眼鏡を外した彼女はその普段の抑制された姿とは、少しばかりかけ離れている。


「貴方は強い、ここからは決して油断はしない」


 ミスズの周囲を覆っている『瑠璃るり』の色の濃い青のオーラが、一層輝きを増した辺りでミスズがそう言葉を吐き出した後、右足を前に出して中段の構えで武器を構えていたミスズは、身体を右に捻りながらゆっくりと擦るように右足を動かし始める。


 そして左足が前に出た状態で、ゆっくりと刀を目線の高さまで持っていき、刀の先端その切先を相手に向けた、所謂『霞の構え』と呼ばれる類の形を取る。


 彼女が本来の戦闘態勢を取ると同時、その身体周囲を覆っていた『瑠璃』のオーラを手に持つ得の刀に纏わせ始める。


(お、おいおい、まさかミスズ副総長は、本気でソフィ殿をなのか!? そ、そんな事はさせないぞ!)


 ミスズはソフィと戦う前に、口にはしていた。


 その言葉を聞いたからこそスオウは、渋々と引き下がったのだが、今の眼鏡を外したミスズがとっている構えは、ランク『7』以上の妖魔を討伐する時にとる、所謂であり、先程の不敵な笑いを見せた事からもスオウは、ミスズがソフィに対して先程の言葉通りに本気で殺すつもりではないのかと本気で不安になり、スオウはいつでもソフィの盾になれるように腰鞘の刀に右手を置きながら、密かに彼もまた微弱の『天色』を纏い始めるのだった。


「さて、行きますか」


 認めた強敵との戦闘を再開させる準備を整えたミスズは、ふーっと大きく息を吐いた後に目を細めながら、その眼光鋭い両の目で漆黒の四翼を生やした、を睨みつけるのだった。


「……ククッ! いくらこの形態を取っていてもあれはもう『紅』だけではどうにもならなそうだな」


 戦闘準備を整えた『霞みの構え』と呼ばれる態勢を取って、こちらを睨みつけているミスズを見たソフィは、静かに自身の『青』のオーラ『天色』の鮮やかさを増し、練度を最高潮まで高めているオーラを纏い始める。


 ソフィの形態変化は『第三形態』。更に魔王形態は『真なる大魔王』。それに加えて『三色併用』を纏う為のルートとなる『天色』を纏ったソフィは『アレルバレル』の世界では、紛う事無き最強クラスの『魔神級』であった。


 ソフィはあまりの愉悦に堪えきれないとばかりに笑みを浮かべると――、


「さぁ、存分に殺り合おうではないか! ミスズ殿!!」


 厳かな雰囲気を纏いながら最強の大魔王は『ノックス』の世界にある『妖魔退魔師ようまたいまし』組織副総長『ミスズ』を前にそう告げるのであった。


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