第1018話 消極的な作戦

 ソフィ達がまだチアキの『式』である『英鬼えいき』と戦う前、キネツグとエイジもまた戦闘態勢に入っていた。


 当初はエイジに対してキネツグが煽るような口ぶりをしていたが、エイジが『青い目ブルー・アイ』を発動させた辺りからキネツグも余所見を止めて、真剣に戦闘に集中し始めていた。


 キネツグは相当前に組織を抜けたエイジに対して、現役の頃よりに比べれば如何にエイジであっても、衰えを見せている筈だと思っていたのだが、実際にこうして対峙してみるとなんら現役の頃と変わってはいなかった。


 アテが外れたキネツグは二つ用意していた作戦の内、自分一人で勝負に勝つという作戦の方は早々に諦めるのであった。


 そしてもう一つの用意していた作戦、ランク『3.5』相当の妖魔二体と、切り札であるランク『4.5』相当の妖魔一体、これらの『式』を利用して時間を稼ぎながらチアキ達を待つ作戦を決行する事にしたキネツグであった。


 しかし時間を稼ぐ作戦を決めたはいいモノの『式』を使役するにあたり『縛呪ばくじゅぎょう』を使う事が前提となる。


 既に戦闘態勢に入り『青い目ブルー・アイ』を常時使って様子を見ているエイジでは、ランク『4.5』の鬼人は別にしてもランク『3.5』の妖魔達では、使役した瞬間にあっさりとやられ兼ねないのである。


 それ程までに『エイジ』という『妖魔召士ようましょうし』は恐ろしい力を有している。

 『魔瞳まどう』である『青い目ブルー・アイ』一つとってもキネツグは、エイジの『魔瞳まどう』を自身に対して掛けられて何とか相殺するのがやっとであるが、エイジにとっては、こちらが使役した『式』とキネツグ自身、両方に対して『魔瞳まどう』で動きを封じる事も容易くやってのけるだろう。


 キネツグ自身はエイジの『魔瞳まどう』を相殺出来るだろうが、自分自身を守っている内に他の者達はやられてしまうだろう。


 同じ『妖魔召士ようましょうし』であっても、キネツグとエイジの間には現状、それだけの埋められない差があるのである。


 その上エイジはあの『サイヨウ』様仕込みの『捉術そくじゅつ』があり、そちらでも間違い無くキネツグを上回るであろう。真っ向勝負で挑めばキネツグの勝率は、二割以下であるといえる。


 つまりキネツグがエイジに勝利する条件は、上手く相手のタイミングを外す立ち回りを行い、頭を使って『式』の順番や相手の裏を掻く戦術を用いて、チアキがあちら側の者達を片付けるのを待つしかない。


 キネツグはこの消極的な作戦を考えた時、天下の『妖魔召士ようましょうし』である筈の自分が何と情けない作戦を画策しているのだろうかと自分に対しての自己嫌悪から、意気消沈をしてしまうのであった。


(よし、まずは俺が単身で戦う素振りを見せながら上手く結界を張って、相手が対策をとる間に一体目の『式』を展開する。そしてその一体目に術を施しながら戦力値を高めさせて更にその一体目を囮にしている間に、もう二枚の式札をエイジ殿の視界に入れて、切り札となる鬼人『卓鬼たくき』を先に出す。そうする事でエイジ殿にと思わせておき『卓鬼たくき』にも『縛呪ばくじゅぎょう』を施して一気に襲わせる。そしてあと一枚の式札はあえて使わない。そうする事でエイジ殿には、考えさせるだけ考えさせて精神的に楽をさせずに疲弊させてやる!)


 あくまでキネツグにしてはだが、普段の戦闘時では、考えられない程に戦略を練っている。

 それ程までにキネツグは前時代の『妖魔召士ようましょうし』の組織の中で、天才と呼ばれた妖魔召士エイジを高く評価しているという事だろう。


 対するエイジだが、キネツグに対しては作戦というものはほとんど考えておらず、相手の行動を見てから動こうと考えていた。これまでエイジを含めて、前時代で生きてきた『妖魔召士ようましょうし』達は、同じ『妖魔召士ようましょうし』同士で戦う経験はほぼ無いに等しいといえた。


 ケイノトの町でイバキ達を相手に起こしたような、小競り合いを組織内で起こす事はあってもはご法度とされてきたからである。


 しかしそれでもエイジは『妖魔召士ようましょうし』として長く生きてきて、これまで数えきれない程にあらゆる種族、あらゆるタイプの妖魔と戦い続けて来た。


 そんなエイジはキネツグを『妖魔召士ようましょうし』として認めている上で、そのキネツグと対峙していても毛ほども焦りや不安を感じていないのであった。


「どうした? 牽制けんせいの『魔瞳まどう』を封じたくらいでいい気になっているだけでは、小生には一生勝てぬぞ?」


 何かしらの企みを考えているであろうキネツグだが、エイジは彼に色々と行動をさせてその企みを明るみに出させようと口に出して煽り始めるのであった。

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