第1017話 告げられた真実

、こ、これ程までに本気の奴は強かったのかっ!」


 ソフィを殴り続けている妖魔という者達の強さをいまいち理解をしていないセルバスであったが、この場に倒れているコウゾウや、シグレをあっさりと倒して見せたあの『英鬼えいき』とかいう妖魔が、尋常ではない強さだという事はセルバスは理解を示していた。


 しかしそんな妖魔があれだけ殴り続けているというのに、ソフィには全くダメージという物が、セルバスには通っていないように思えてしまい、咄嗟にではあるが思わず考えていた事を声に出してしまうのであった。


「お前、もしかして『の魔族なのか?」


 ヌーは集中してソフィ達の戦闘を見ていたが、隣から聞こえてきた『』という『世界』の名前と『』という言葉に意識を奪われてしまい、セルバスの方を見ながら半ば確信しながらも、セルバスに向けてそう言葉を出すのであった。


「えっ!? あっ! し、しまっ……!!」


 セルバスはヌーの顔を見ながら自分のミスに気づいて、慌てて手で口を押さえるが、もう時すでに遅しであった。


 ……

 ……

 ……


 ランク『5.5』から『6』の下位相当の強さを誇る鬼人の妖魔『英鬼えいき】』は不気味に笑い続けるソフィを殴り続けていたが、本能で自分の攻撃が全く通用していないのに気づき、徐々に殴る手を緩め始めていく。


(※ランク『5.5』相当=戦力値4600から5500億前後 ランク『6』の下限相当=戦力値5600億)


 しかしそこで自分を使役した『妖魔召士ようましょうし』である『チアキ』の声が聞こえてくる。自我を失い正気ではない『英鬼えいき』にはチアキの言葉を理解はしていないが、術式によって『英鬼えいき』は、突き動かされてしまうのであった。


「グォアアアッッ!」


 ソフィに通用していないと分かっていてもチアキの術式の所為で、再び攻撃に激しさが増していったが、殴られていたソフィの方にも変化が生じていた。


 先程まで見せていた笑みが消えていったかと思うと、好きなように殴らせていた『英鬼えいき』の拳をソフィは左手で掴んで止めた。


「グォアアアッ……!?」


「もう少しお主と戦っていたいところではあるが、どうやら先にあのをしている奴を優先しなければいけないようだ」


「ググッッ……!!」


 いくら力を込めようとも『英鬼えいき』の拳は、ソフィに止められて微動だにしない。


「さて、それではお主には少し寝てもらっておこうか」


 ソフィはそう告げた後、自身に纏われている『三色の鮮やかなオーラ』を右手に集約し始めると、反動もつけずにそのまま押すように右手を目の前に居る『英鬼えいき』の腹に突き入れた。


 拳を振り切ったわけでもなく、その場から反動もつけずに拳を前に突き出しただけである。


「グォアッ……! グォオエッ!」


 『英鬼えいき』はソフィの右拳が刺さったかと思うと、そのまま苦しそうな声をあげながら、白目を剥いて前のめりに倒れそうになる。


「おっと……。うむ、少し寝ておるがよいぞ?」


 『英鬼えいき』は右手をソフィに掴まれていた状態で意識を完全に遮断されて、そのままソフィにもたれかかっていたが、その後にソフィに優しくその場で寝かされる『英鬼えいき』であった。


「!?」


 『妖魔召士ようましょうし』の『チアキ』は、先程までは苛立ちの怒号を『英鬼えいき』に発していたが、その『英鬼えいき』が何も出来ぬままに倒れたのを見て、咄嗟の事に言葉が出て来なくなり、絶句しながらソフィを見るのであった。


「おい、見てみろよ。が、鬼の奴をあっさりと片付けたぞ」


 ヌーは呆れた声を出しながらしまったという表情を浮かべていたセルバスに、ソフィを見るようにと顎を前に出して促して見せながら告げた。


「本当だな。


 ヌーが聡い魔族だという事を知っているセルバスは、もうかけらも隠すつもりが無くなった様子で『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥であった『ミラ』の名前を出しながら『ソフィ』の事を化け物と呼ぶのであった。


「ちっ! お前『煌聖の教団こうせいきょうだん』に属する魔族だったのか。道理で『隠幕ハイド・カーテン』を使える筈だよな『煌聖の教団こうせいきょうだん』なら、そりゃ説明がつくってもんだ」


 『隠幕ハイド・カーテン』という魔法は『レパート』の世界の『ことわり』を用いて使われていた魔法で、あの大魔王フルーフが編み出した魔法なのである。


 それが『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥にして、大賢者のミラによって改良が加えられて『アレルバレル』の世界の『ことわり』で『発動羅列』が組まれるようになり『煌聖の教団こうせいきょうだん』に属しているならば『アレルバレル』の世界の魔族であっても使えるように施されているのであった。


「ふんっ……」


 ――セルバスは、開き直った様子で鼻を鳴らした。


 『アレルバレル』の世界の『魔界』の大半の魔族は『煌聖の教団こうせいきょうだん』側についていたのだ。たとえ『煌聖の教団こうせいきょうだん』の一員だとバレたところで『セルバス』だとまでは分からない。


「それで? その『煌聖の教団こうせいきょうだん』の残党が、この世界で何をしている? お前達の総帥であったによる報復の為ってのが、一番ありそうな話だが」


 開き直ったセルバスであったが、そんな彼であっても流石に今のヌーの言葉は寝耳に水であり、聞き流すことは出来ずに慌ててヌーに顔を向けて口を開いた。


「はっ……? み、ミラ様が、あ、あの化け物に、しょ、消滅させられた……だと!?」


「どこまでも白々しい野郎だな。ミラの野郎はソフィの『終焉エンド』でこの世を去っただろうが。捕らわれていた俺でさえも知っている事をお前ら『煌聖の教団こうせいきょうだん』の連中が、知らねぇ筈がないだろうが」


 そんな風に告げられたところで『セルバス』が知る筈が無かった。何故ならセルバスは、ミラが『ダール』の世界から戻って来る前に『九大魔王』であるリーシャという魔族に、切り刻まれて絶命してしまい、気が付けばこの世界で『代替身体だいたいしんたい』の身で蘇ったのである。


 その後の事は彼の『矜持』が邪魔をして『アレルバレル』の世界へ戻らず、この世界である程度の魔力の回復の為に待っていたのである。


 つまりセルバスにとっては、今のヌーの言葉で組織の総帥であるミラの死を知ったのであった。


「ば、馬鹿な……っ!! し、死の概念が無いミラ様が、しょ、消滅させられただと!? ふ、ふざけた事を言うなよ『』!! き、貴様、気心の知れた仲であっても冗談では済ませられない言葉ってのは、存在しやがるんだぞ!!」


 セルバスは激昂して顔を真っ赤にしながらヌーの胸倉を掴みあげるが、ヌーはそんなセルバスに舌打ちをした後に逆にセルバスの首を右手で掴みあげた。


「ぐっ……! は、離しやがれ!!」


「てめぇはどうやら組織の下っ端じゃねぇな。気心の知れた仲だとか抜かしやがったな? あの組織内で俺様に寄ってこられた連中は全員幹部だった筈だ」


 そこまで言われた『セルバス』は首を掴まれながら、またもや『しまった』と言わんばかりの表情を浮かべる。


「『』『』『』。あいつらは俺とは接する機会も少なく、必要最低限の会話しかしない奴らだったなぁ」


 呼吸をしようと必死に口を開きながらヌーの言葉を聞いていたセルバスだったが、徐々に絞られていき、正体がばれそうになった為に口を真一文字に閉じ始める。


「……」


 そして必死に隠そうと『セルバス』は口を閉ざしたまま目を瞑り始めた。しかし次の瞬間、決定的な言葉をヌーの口から聞かされるのであった。


「ああ……。そういえばこの世界の事を俺に教えた野郎は『』。お前だったなぁ?」


 ――次の瞬間。

 セルバスの全身を衝撃が駆け巡り、閉じていた目が見開かれるのであった。


 そしてその反応でヌーは首を掴んでいるこの男こそが『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大幹部であった『』だとのであった。

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