第971話 似て非なる神聖魔法

 ソフィ達が空から降りて来るとヌーが口を開いた。


「金色を纏ってやがった割には、耐魔力は大した事ねぇな」


 『禍々崩オミナス・コラップス』は即効性という意味では、大変効果に優れた魔法ではあるが、相手に致命的なダメージを与える極大魔法などと比べれば、そこまでは効果に期待は出来ない魔法である。


 この魔法を単体で使用するのではなく、あくまで次の手に繋げる一手と呼べるような魔法である為『禍々崩オミナス・コラップス』をその身に受けて目の前で苦しみながら蹲り、息も絶え絶えにしている魔族を見たヌーは確かに大魔王領域クラスだが、下限近くから良くて下位くらいの程度の大魔王だと判断するのであった。


「このままでは死んでしまうな」


 ソフィがそう言うと倒れ伏してそのまま意識を失おうとしている魔族に、神聖魔法の『救済ヒルフェ』を使用するソフィであった。


 柔らかい光がセルバスを包み込んだ後、みるみる内に彼の顔に生気が宿り始める。どうやら汚染された空気を肺に吸い込んでそのまま意識を失い昏倒しかけていたセルバスは、正常に肺の働きを取り戻していったようである。


「まぁ回復させるのは構わないんだがよ、そいつは大魔王だという事を忘れるなよ?」


 そう言うと周囲一帯にヌーは『結界』を施し始める。


 再び意識を取り戻した魔族が『隠幕ハイド・カーテン』を使ったり、何かしようと魔力を発動させるのを未然に防ぐ為に、結界内であれば魔力の感知を行えるようにしながらソフィに忠告をするヌーであった。


「ふーむ。ではひとまずは足だけでも縛っておくか」


 そう言うとソフィは右手を男の前に出して、無詠唱で一つの魔法を発動させる。


 ――神聖魔法『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』。


「!?」


 セルバスは意識を取り戻したが、自身に向けられて発動された魔法の種類に目を丸くする。


(こ、これは……、神聖魔法!?)


 魔族に対する特効の力が働く神聖魔法は、元々は大賢者エルシスが編み出した『ことわり』の魔法である。


 しかしセルバス達はこの神聖魔法はエルシスから知ったのではなく、彼の崇める組織の総帥大賢者ミラから伝わった。


 『煌聖の教団こうせいきょうだん』内では、多くの者達が神聖魔法を使えるが、どれもこれも効力はエルシスの神聖魔法に近いが、その実は全く別物と言っても過言では無い。


 それもその筈で彼らが使っている神聖魔法は、エルシスが作った神聖魔法の『ことわり』と『発動羅列』を基に新しく作り替えられた神聖魔法なのである。


 大魔王フルーフもまた『ダール』の世界の牢獄に捕らわれている時に、ミラの神聖魔法の聖動捕縛を解除する為に、魔法の解析を行って新たに基の神聖魔法から『発動羅列』を組み替えた神聖魔法を作り出した。


 現在ではこの神聖魔法という魔法は、同じ名前ではあるが、エルシスとミラそしてフルーフの三者が祖となる『三者の神聖魔法』が存在する。


 その三者の内の一人、大賢者ミラの神聖魔法を扱っているのが、この現在ソフィに捕縛された魔族『セルバス』であった。


 そしてそのセルバスに用いたソフィが扱う神聖魔法こそは、彼の友人にしてこの神聖魔法を最初に編み出した大賢者エルシスである。


 セルバスはソフィが神聖魔法を使った事に驚いたが、それ以上に驚いたのは、自身がこの神聖魔法を解除しようと試みた瞬間に全く解除できる道筋が見えなかった事であった。


 ミラの神聖魔法であれば、魔力の差によっては解除出来るのが『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大幹部達である。


 しかし『ことわり』が違うこのソフィの使った神聖魔法は、魔力の差異は関係無く、全く違う魔法と同一と言える為に、いくらセルバスが本体の魔力を用いてこのソフィの神聖魔法を解除しようとしたとしても解除する事は適わなかったであろう。


 完全に魔族を捕らえる事に適したこの魔法は、セルバスの動きを完全に封じてしまうのであった。

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