第961話 疑問と別々行動

 長々と話をし過ぎたせいでかなり距離が出来てしまっていたが、ソフィとヌーの両者が魔力探知で魔族の居場所を探ったところ、直ぐに彼らが歩いている場所を把握する事が出来た。 


 どうやら男を連れ去った魔族は『隠幕ハイド・カーテン』を使ってはいなかったようで、そのおかげで無事に居場所は突きとめられたのであった。二人は直ぐに旅籠町を出て彼らを追う事にした。


 ソフィは最初こそエイジ達に事情を説明する為に合流しようと考えていたが、先程のヌーの言葉を受けて、今はそちらよりも男たちを優先した方がいいと判断したようである。


 後は単純に追う相手の男が、大魔王階級の魔族であった事が関係している。

 『金色の目ゴールド・アイ』を扱えるという事は、他者を操る事が可能だという事である。


 あの魔族がどれ程の強さを持っているかは分からないが、耐魔力に乏しい者達であれば、あっさりと操られてしまうだろう。現に捕らえられていた『煌鴟梟こうしきょう』の男は魔族に操られてしまい、そのまま彼に従って歩いていた。


 これ以上あの魔族を放置をしておくと更に被害が増える可能性がある。先程の様子から省みるに、あの魔族は他者を操る事に、そこまで抵抗を感じていない様子だった。


 魔族らしいといえば魔族らしい性格だが、それでもあそこまで何食わぬ顔で他者を操る事が出来る以上は警戒をせざるを得ないだろう。


「おいソフィ。アイツラ移動する速度が上がったぞ。どうするんだ? 尾行を続けるっていうんならある程度離れる必要があるし、そのままアイツと戦う事前提で操るなら、直ぐに追わねぇと追いつけねぇぞ」


 あの魔族が隠幕を使えなければいくら離れても関係がないが、もし使える場合は余り離れすぎると見失う可能性がある。そう考えたヌーは、戦うか尾行をするかの選択をソフィに委ねるのであった。


「このまま奴らを追うとしよう。コウゾウ殿にはエイジ殿もついておるし、ここで離れても後で合流出来るだろう」


 コウゾウは魔力がほとんど無い人間だが『妖魔召士ようましょうし』であるエイジは、この世界の人間でも相当に魔力は高い。ソフィ達が魔族を追っていくのを察して彼らもまた空気を読んでやるべき事をやってくれるだろう。


 ソフィはエイジを信頼してこのまま何も言わずに、このままアジトに向かっている筈の魔族尾行を続ける事にするのであった。



 ……

 ……

 ……


 その頃コウゾウ達も違う場所から男を見張っていた。当初の作戦通り、男を喧嘩沙汰で捕らえたと思わせて、こうして釈放して見せた事で狙い通りに男に接触してきた奴が現れた。


 あの男が接触をしてきた時に捕らえた男は、何やら様子が少しおかしかったが、素直にあの男について行っているところを見ると『煌鴟梟こうしきょう』の男で間違いがないだろう。しかし当初の予定では、ここからはソフィ殿達と合流して一緒にあの男を尾行してアジトへ向かう筈だったのだが、ソフィ殿達は何やら話し合っていた様子を見せた後にこちらには何も言わずに、男たちに単独で尾行を始めたようだ。


「どう言う事だ? 何故俺達を放って先に行ったのだ?」


 ひとたび分析を始める時の癖でコウゾウは、独り言を漏らしてそう言うと、その場に一緒に居た護衛隊の男やエイジも考え始める。


「コウゾウ殿、小生達も少人数でソフィ殿達とは別に尾行をしよう」


 ブツブツと独り言を言って分析を続けていたコウゾウは、隣に居たエイジの言葉に意識を戻した。


「この場で捕らえるのではなく、ひとまずは尾行を続けるという事でいいのか?」


「うむ。小生達と一緒に行かなかったという事は、あの長身の男はどうやら相当の手練れで、大人数で行けば不都合だとソフィ殿達は考えたのだろう、ここは腕に自信のある者達を編成して、少人数でソフィ殿達の更に後を追いかけよう」


「分かった、そうしよう」


 『隠幕ハイド・カーテン』という『姿を魔力ごと隠す魔法』の存在を知らないエイジ達だったが、ソフィやヌーの強さを知っている彼は、そうぜざるを得ない状況だったのだろうとアタリをつけて、無理に合流をせずに別々に行動をとって、後を追いかけようと提案をするのであった。

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