第793話 鬼女からの助言の言葉

 ラルフと朱火の対戦が終わる頃、中庭の奥側で戦っていたリディア達の戦いも決着を迎えようとしていた。リディアは金色を纏ってその金色を使って具現化させている刀を使い、鬼女の紅羽の持つ『翠虎明保能すいこあけぼの』の刀を捌こうとする。


 しかしやはり力では鬼女の紅羽には敵わず、正面からぶつかると打ち負けてしまう。だが、一番最初に戦った頃のような恐怖感を抱いてはおらず、リディアは技を用いてなんとか打ち合いを続ける。何度目かの仕合の後、リディアの『柄の無い二刀の輝く刀』を掻い潜り『紅羽くれは』の『翠虎明保能すいこあけぼの』が、リディアの首の前でピタリと止まった。


「俺の負けのようだな」


 リディアの敗北宣言を聞いた紅羽は『翠虎明保能すいこあけぼの』をゆっくりと、手前に引きながら見事に腰鞘に戻す。


「お前、その光ってる奴で戦う時に最初の刀を振っている時と同じくらいの速度を保てないか?」


 紅羽は金色のオーラで出来たリディアの刀を見ながらそう告げる。


「速度だと? 通常の刀を持っているときと、あまり俺の動きなどは変わってはいないと思うが」


「いや、移動そのものの速度の話じゃなくてだな。その刀を振っているときは、俺の刀を曲がりなりにも受けきれる程に力は増しているようだが、その分が落ちてるんだよ。俺達みたいな鬼と戦う時に力で勝負したところで人間の力じゃ話にならねぇ。お前が普通の刀を振ってた時の、剣速と技のキレは悪くなかった。その勢いを持ったままでその光ってる奴を振り切れるなら少しはマシになるだろうぜ」


 どうやら一度はリディアに敗北をした『紅羽くれは』は、リディアを気に入り始めたのだろう。突然にリディアにアドバイスを送り始めるのだった。


「これで戦う時、俺は速度が落ちているのか?」


 自分では全く気付かなかった事を指摘されて、リディアは自分の柄の無い二刀の輝く刀と、紅羽を交互に見ながらそう口に出すのだった。


「ああ、単純な力は上がっているがな。俺相手に中途半端に力を上げても仕方が無いだろう? それなら連続で振っていた最初の刀の時の方が俺はやっていて戦いずらいと思ったがな。まあ別にお前が今のままでもいいというなら、俺はどっちだっていいがな」


 それだけを告げた紅羽はもう満足したのか、長い髪の毛を後ろでゴムに束ね始め、そのままリディアが反論をする前にサイヨウの元へと帰り札に戻されていった。


「自分では全く同じだと感じていたが、オーラを維持しようとする余り、無駄に力んでいたか」


 どうやら何か思い当たる事があったのか、リディアは紅羽の言葉を真に受けて、その場で具現化したオーラの刀を二度、三度と素振りを始めるのだった。その様子を見ていたサイヨウは頷きを見せる。


(どうやら一回負けた事で紅羽は、リディア殿を意識し始めたのようだな。まさかあの紅羽が、人間にアドバイスをするとは驚いた)


 サイヨウはそれが嬉しかったのか、また紅羽が一歩への行いの為に働いた事を良き事だと感じて喜ぶのだった。素振りを始めたリディアの元へ、再びレアがトコトコと歩いていく。


「リディアちゃんは、金色を体現しているようだけどぉ。ラクスちゃんみたいに『』は使わないのかしらぁ?」


 刀を振っていたリディアは、レアの言葉に眉を寄せる。


「俺はレキの野郎に『支配の目ドミネーション・アイ』を教えられた時に『スクアード』のやり方を教わったのだが、あくまで魔瞳を使う時に限りその力を使う事は出来るんだがな。俺自身に纏って戦うというやり方は出来ないんだ」


 リディアはラクスという魔人の先祖を持ってはいるが、両親も生粋の人間であり、これまで人間として育てられてきた。生まれた時には既に魔人が居なくなったリラリオの世界。何も魔人の情報が無い以上、魔人と戦った経験を持ち、リディアの先祖を鍛え上げたというレアの存在は、リディアにとってはとても貴重で重要な存在になるのであった。


 だがしかし、魔人と戦いラクスという魔人に修行をつけたレアだが、それはもう数千年前の出来事であり『がどういったものか、直ぐに思い出す事が出来ないレアであった。

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