第749話 次元の狭間の攻防

 フルーフの『概念跳躍アルム・ノーティア』の魔法の光に包まれながら、ソフィの身体はアレルバレルの世界からリラリオの世界へと向かって『』が行われている。


 ――あと数秒程で『リラリオ』の世界へ辿り着くだろう。


 本来であれば身体が世界間移動しているこの状態に意識が向かう事は無く、というのがこれまでの常であった。


 しかしこのアレルバレルの世界からリラリオの世界へと移動する、この次元の狭間というべき場所でソフィは、何者かに自身の身体が操作されているような、妙な感覚を知覚する事でこの次元の狭間での移動中に意識を持つ事となった。


(何者かが我の身体に干渉しようとしているな……!)


 ソフィは微睡に近い意識の中で自身に干渉しようとするという対象に向けて、強引に金色のオーラで包みこませようとした。


「!?」


 その瞬間、ソフィは自身の身体から何かが急速に離れていくのを感知する。


(……逃すと思うか?)


 実際に呟いたわけでは無いが、ソフィがそう思念を抱いた瞬間に、ソフィはその不可解な何者かにを持つ、を全力でぶつけた。


 その、ソフィの放った魔力圧の衝撃波をまともに食らって吹き飛んで行く。


 しかし何者かはそのまま実体の無い姿のままで、恐ろしく遠くからソフィに対して何かを発動させる。


 次の瞬間ソフィは、次元の狭間が歪んだような感覚を味わい、見ている風景がぐちゃぐちゃに廻り出す。


 慌ててソフィは精神を統一して強引にその歪む視界の先のを睨みつけようとするが、そのまま何者かの気配は完全に消えてしまう。


 廻る景色の中でソフィは、その何者かの居た場所を見ていたが、意識がしっかりする頃には逃したのだと悟る。


 そしてその何者かが居なくなった瞬間に、次元の狭間は

 次の瞬間にはソフィは、次元の亀裂の間からリラリオの世界へと投げ出されるのだった。

 地面に着地するとソフィは空を見上げる。


 その場所は『アレルバレル』の世界の次に見慣れた世界。

 漆黒の闇では無く、青い空に太陽が眩く光っているその場所は、間違いなく彼が長く過ごしたリラリオの世界だった。


「どうやら無事に世界間移動は成功してリラリオの世界に来たようだが、さっきのは一体何だったのだ?」


 アレルバレルの世界からリラリオの世界へ向かう、その間の世界というべき次元の狭間で、ソフィは何者かの手によって、自身の身体に何やら影響を与えられそうになっていた。


 そしてソフィには、その感覚がまだ残っていた。


「『漏出サーチ』」


 ソフィは次の瞬間には、この大陸全土に向けて漏出を放ち、先程の存在が居ないかを確認する。


「やはり居ないか……」


 それもその筈。先程の何者かは、このリラリオの世界では感知した事の無い魔力であった。しかしそれでも確かにその何者かは居たのである。


 世界間移動を行っていた、ほんの僅かな時間。

 その本当にだった為、相手の明確な情報は得られなかった。


 あの僅かな時間で理解出来た事は、あの『代替身体だいたいしんたい』のレキよりも、いや、、まさに神の領域の存在。神格持ちのよりも、威圧感を持つ相手だったという事であった。


 しかしこれまでとは違い、明確に何かをされているという意識を持てたソフィは、先程の味わった感覚を二度と忘れないだろう。


 ソフィは、確実にその何者かを捉える事が可能だと言いきれる。


 無意識の中で、でさえ、ある程度の対応は出来たのだ。


 次に何者かが自分に対して干渉してくれば、分かるだろう。次こそは確実に仕留められるという自信がソフィにはあった。


 大魔王ソフィは久々の興奮と、いいようのない多幸感に包まれていた。


「クックック! この世界に来るたびに我はいつも何かに驚かされる。退屈をさせぬ素晴らしい世界だ」


 口元から鋭利な歯を見せながら誰も居ないその場所で、ソフィは一人大笑いを始めるのだった。


 やがて上機嫌になったソフィはこの場所が『リラリオ』の世界の何処なのかを探るが、どうやら人間も魔族も居ない大陸のようであった。


「ふむふむ? 中々にこの世界は広い。我はヴェルマーとミールガルドの大陸しか、よくは知らぬからなぁ?」


 高揚感に包まれている今のソフィは、何か嬉しいのかニコニコと笑いながら呟く。

 ソフィの事をよく知らない者が、今のニコニコ笑いながら独り言を言っているソフィを見れば、不気味に思うかもしれない。


 たまらないと言った様子でソフィは笑みを浮かべたまま、そのまま空へと飛び上がったかと思うと、そのままの勢いでヴェルマー大陸の方角を見つめて、飛び立っていくのだった。


 ソフィが飛び立っていき、誰も居なくなったその大陸で、ソフィの時と同じく何も無い空間に亀裂が入り、その亀裂から何者かが外へと出てくるのだった。


「――」

(やれやれ信じられぬ奴よな。たかが地上の存在がこの儂の行う干渉を察知し、あの須臾しゅゆの時間で、まさか対応までしようとするとは……)


「――」

(今回は成功したが、次は上手くはいかぬだろう。次があれば実力行使で強制的に世界から排除せねばなるまい)


 この世界では言語化されない言葉でそう告げると、その何者かはかつて精霊族が治めていた大陸『トーリエ』から音も無く消え去るのだった。


 ……

 ……

 ……

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