第691話 最強の大魔王の願う終焉

 ミラは凍り付いた表情を浮かべながらもようやく、頭でものを考えられるようになった。


(……な、何故無傷で生き永らえる事が出来る!? 私の魔力を全て込めた今の一撃は、確かに魔神の技と遜色が無かった筈だ!)


 あの力は戦力値がどうとか、魔族がどうとかという話ではない。

 生きとし生けるものは、全て消滅させる事の出来る、謂わば神の一撃なのである。


 『ダール』の世界で多くのの者達をを発動されると、一瞬で全ての者達が消滅された。


 間違いなくこの魔法は『』をである筈なのである。


 いくら最強と呼ばれたであっても、神の一撃を受けて、無傷はあり得ない。


 最早大賢者であるミラでさえ、現状を理解することは出来なかった。


「な……ぜ、浄化されない? どうやって防いだというのだ……!?」


 なんとかミラは声を絞り出して化け物に問う。


「あまり我を舐めるなよ『今代の大賢者』。で我を滅する事は出来ぬ」


 そして次の瞬間ミラは、今まで見たことのない『大魔王ソフィ』の力を見せつけられる事となった。


「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ。悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ、我が名はソフィ』」。


 ソフィの詠唱と共に空間に亀裂が入ったかと思うと『』はその姿を現世に体現させる。


「ま、魔神……!」


 絶世の美女と呼べるほどの見目麗しい女神は、ソフィを見て微笑みかける。


「……『』に預けている力を我に返すがよい」


 普段のソフィは力の魔神の事をと呼ぶが、今回はと呼び方を変える。

 その言葉を受けた魔神は、これまで見せた事の無い驚いた表情になったかと思うと、素直に主であるソフィの言葉に頷き、自身の預かっている力を全てソフィへと返還する。


 ソフィがこの呼び名を使う時、普段から忠誠を誓っている魔神は、完全に主従の契約状態へと変わるのである。そこに一切の私情を挟むことは許されない。


 ――大魔王ソフィの望むがままに、魔神は全ての力を返還する。


 アレルバレルの世界では、ソフィは本来の青年の身体なのだが、何故かこの世界では十歳くらいの子供の身体だった。今もミラと戦っている時のソフィもまた子供の姿であったのだが、魔神を召喚し預けている力を手にした瞬間にソフィの身体が変貌していく。


 その姿は『アレルバレル』の世界で見せた青年の姿であった。


 そして本来の姿に戻ったソフィの目がギロリと動き、大賢者ミラの姿を捉えた。


「ば、化け物がぁっ!!」


 再び円状に光が伸びていき、またもや浄化の光がソフィを中心に展開される。

 しかし今度は先程とは違いその円状の光の中で次々と高密度エネルギーのレーザーが発射され続けた。

 恐ろしい爆音と、眩い光が周囲を包み込んでいく。


 ――どれだけの時間が経っただろうか。


 永遠に止む事が無いと思わせる程のレーザーの速射砲が、浄化の光の中で暴れまわっていた。

 『ダール』の世界の魔神が使っていた『技』と遜色のない威力。


「ハァッハァッハァッ……!」


 ミラの魔力が枯渇して生命力も僅かとなった頃にその攻撃は止んだ。

 もう最上位領域の大魔王が相手であっても生きてられる筈がないといえる程の攻撃であった。


「こ、これならどうだ……?」


 今のミラが出来る渾身の一撃を放った。流石にこれ以上の奥の手などは無い。

 これでだめなら、もう彼には手は残されてはいない。


 一秒……、二秒……、三秒……。


 そして十秒程経った頃。不安そうな顔でソフィの居た場所を見つめていたミラの顔が泣き笑いの顔になり、やがて満面の笑みへと変わっていく。


 そして砂塵が晴れていき、ソフィの死体が見えるだろうと、そう思っていたミラだったが、見通しのよくなったその場所を見た時、その顔は再び絶望に包まれていた。


 なんとその場所から一歩も動かずに、ソフィは『』のままで冷酷な視線をミラに向けていたのである。


「……ひっ! ヒィッ……!? ば、化け、物……っ!」


 そしてソフィは静かに口を開き呟いた。


 ―――


 その瞬間『魔神』に預けていた本来のソフィの『魔力』が費やされて『スタック』が行われていく。


 『煌聖の教団』の総帥にして、大賢者と呼ばれるミラの目から見ても信じられないほどの膨大な『魔力』。


 目を覆い隠したくなるほどのその『魔力』の余波をぶつけられている『ミラ』は吐き気を催していた。


 ソフィが処刑に選んだ魔法は、彼の代名詞と呼ばれる魔法――。


 ――『終焉エンド』であった。


 最強の大魔王の手によって今、大賢者ミラに裁きが下される。


 ……

 ……

 ……

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