第649話 エアル王との謁見

 エイネはレドラーに案内されて、魔人の王エアルが居る城まで辿り着いた。

 スベイキア大国の城とは違い、城門の周りは塀で覆われていた。そして塀も門もエイネの身長の何倍もあり、魔人の城は非常に高さを窺わせた。


「ここで少しお待ちを。今トマス司令官に連絡を取りますので」


「ええ、お願いするわ」


 魔人の王の居る本拠地の城門の前で魔族が堂々としているのを見て、この場に居る門番兵達は『エイネ』と『レドラー』の顔を不思議そうに見つめるのだった。


 どうやら『念話テレパシー』を使っているレドラーの後ろ姿を見て、エイネは魔族以外にも『念話テレパシー』が使えるのだなと感銘を受けていた。


 少しして城の城門が開けられて中から『トマス』が姿を見せた。


「待っていたよ魔族『エイネ』。ささ、エアル王がお待ちだ。入りたまえ」


 トマスが中へ入るようにと手を城に向けて促す。


「ええ。それで魔族達は無事なんでしょうね?」


「この城の近くの基地に移送してある。常に見張ってはいるが、当然手荒な真似はしていない」


 エイネと話すトマスは普段通りに見える。


「私がエアル王と話をした後に全員を龍族の元へと送るわ。貴方も手伝いなさい」


「よかろう」


 エイネの魔瞳である『金色の目ゴールド・アイ』が掛かっているトマスだが、傍目からはその魔瞳で操られているようには思えない。普段通りに振る舞う彼をおかしいと気付けた『レドラー』が特別優秀だといえた。


 やがてエアル王の居る城の中央の部屋に辿り着いたエイネ達。


「失礼致します、魔族エイネをお連れしました」


「ああ。入れ」


 …………


 天井の高い部屋に一際豪華な椅子に座り、こちらを見据える長い髭を拵えている男が居た。

 どうやら飾りの王というわけではないようで、カストロ基地に居た『一流戦士』とやらと同じような力を有するのを感じられた。


「話があるそうだが……。我々魔人族は現在この大陸に戦争を仕掛けてきた『龍族』と戦争中なのだ。この忙しい時に軍の司令官と副司令官を現場から引き離すだけの事情があるそうだが、一体どのような話なのかな?」


 バルザーの時のような魔族を見下すような視線ではなく、表面上は一般的な扱いをするエアル王だったが、言葉に偽りなく忙しい最中に何の用だとばかりに軽い敵意のようなものを持ち、それをエイネに放っていた。


「初めまして魔人の王。私は魔族エイネよ。早速だけど貴方達魔人族に隷属させられている魔族達を今すぐに解放して欲しい。そして龍族達に引き渡しをする事を要求するわ」


 エアル王は何と形容してよいか分からないといった表情を浮かべたまま、彼女の隣に並び立っていた『トマス』と『レドラー』に視線を送る。


 トマスはエイネの言葉を肯定するように深く頷き、レドラーは苦笑いを浮かべながら『仕方ありませんよ』と言う意味の仕草を交えながら首を横に振るのだった。


「魔族エイネ。先程も言ったが今は龍族と戦争中なのだ。魔族達は我々魔人族の大事な軍の戦力だ。引き渡しなど認めるわけにはいかぬよ」


「戦争の心配はないわ。龍族の王とはもう話はつけてある。貴方が魔族達を龍族に引き渡すと約束してくれたら全てが解決するわ」


 エアル王はそのエイネの言葉に声高に笑い始めるのだった。


「冗談はその辺にしなさい。龍族の王と話をつけた? どうやってつけたのかね? この世界の大半の種族を傘下に収めた我々でさえ、空の支配者たる『龍族』を相手に手を焼いている状況だというのに、我々魔人族に隷属する一介の魔族が、一体どうやって?」


 小馬鹿にするように笑いながらエアル王は、煽るようにそうエイネに告げた。


 ――次の瞬間。


 エイネの目が金色に輝いたかと思うと横に立っていた『トマス』が何の前触れもなく右手に『スクアード』を集約させたかと思うと、自らの顎を横から思いきり手の平で


 首が本来曲がってはいけない方向へと捻じれたかと思うと、そのままトマスは絶命した。


「な!?」


「え!?」


 エアル王やレドラーは心底驚いた表情で何の前触れもなく、この場で自害を行った『トマス』を見る。

 自らの首を自分の手で曲げる事は、。しかし今確かに、目の前であっさりとやり遂げた『トマス』を見てこの場に居る者達は、皆一様に驚愕の色に染まる。


 そしてエイネの身体の周囲に『』と『』の色が交ざり始めた。


「他人の力を測る魔法や技術はなくとも今の私がどれ程の強さを持っているかは、貴方達程の戦力値があれば理解出来るでしょう? スベイキアとかいう国の王『イーサ』龍王はすでに私がこの手で始末して、次の新たに龍族達を束ねるイルベキアの王『ヴァルーザ』龍王を『全龍族の王』にさせる予定よ。当然『ヴァルーザ』はこの件を了承しており、私の一声でいつでも魔人族との戦争を撤回させられる筈よ」


 軍の最高司令官であるトマスは『一流戦士』の中でも最高戦力を持つ魔人だった。

 そのトマスをあっさりと操り自害させてみせた『エイネ』と名乗った魔族は、冗談でも何でもなく自分がどう足掻いても勝てない存在なのだと今更ながらに理解したエアル王であった。


「理解出来たかしら? これが最後通告」


 そう言うとエイネの目が、再び金色へと変わっていく。


「この場で私の要求を呑まなければ、お前をそこで倒れている奴と同じように操って新たな龍族達の支配者の居るイルベキア大国の『ヴァルーザ』龍王に対して、お前から魔人族側の全面的な『』を言い渡させる」


「……くっ!」


 呻き声をあげながらもエアル王はまだ悩んでいた。それを見たエイネの目がすっと細められた。

 そのエイネの視線は、駆け引き上手なエアル王からみても脅しの類では無いと判断出来た。


「ま、待ってくれ!! 分かった! お前の言う通りにする! だ、だから、操らないでくれ!」


 エアル王はもう冷静ではいられずにその場で立ち上がり、必死の形相を浮かべながら『エイネ』に懇願するのだった。


 ……

 ……

 ……

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