第631話 龍族同士の軋轢

 アサの勢力の一旦を担う龍族が、遂に魔人族の大陸に向けて行動を開始しようとしていた。

 そんな龍族達の総本山ともいうべき大国『スベイキア』では『コープパルス・ドラゴン』が、空で待機して『イーサ』龍王の出撃命令を待っている。


 『スベイキア』と同盟を結んでいる『イルベキア』と『ハイウルキア』の両国の上空でも『ブルードラゴン』達が、空を覆い尽くす程の大群で空を旋回していた。


 この三国の龍達は『イーサ』龍王が命令を発する事で全軍が一斉に、魔人族の大陸へと襲撃に向かう事だろう。これ程の規模の戦争準備は、過去の『アサ』の戦争の歴史でも数える程だった。


 作戦の手筈としてまず『イーサ』龍王から『イルベキア』の『ヴァルーザ』龍王に指示が入り次第先頭に立って『イルベキア』国の龍族が進撃を開始する。


 そして『イルベキア』軍の背後から次に『ハイウルキア』国の龍王『ガウル』が『ハイウルキア』軍を伴って『イルベキア』軍の後を進軍する形である。


 『イルベキア』と『ハイウルキア』は龍族の国である為、当然ながら軍の兵『ブルードラゴン』は龍族であり、一体一体が相当なる戦力を持つ。


 カストロL・K前線基地を襲撃したイルベキアの龍族達は、エイネによって撃ち落とされる事となったが、もしあの時にエイネが居なければ、今頃は基地を制圧していた事だろう。

 当然ながらカストロL・Kの基地に居た種族は魔族であった為、あの時程容易には攻められないだろうが、それでもまともにやりあえば龍族達が有利であるといえる。


 この二国だけであっても魔人族との戦争は、龍族側に軍配が上がりそうなものだが、更にこの二国の背後には、大国『スベイキア』が待ち受けている。


 スベイキアは龍族達の総本山であり、他国の龍族達とは比にもならない程の強さを持つ龍の種族『コープパルス・ドラゴン』が多く居る龍の国である。


 スベイキア国は数こそ他国のブルードラゴンに劣るが、国力の高さでは圧倒的な存在感を示す国である。イルベキアとハイウルキアが前線に立ち魔人族と交戦を始めた後に、スベイキアが一気にコープパルス・ドラゴン達を放ち、魔人族の大陸を掃討するという作戦である。


 魔人族はその数々の野蛮な侵略によって、多種族を軍に加えて数こそ膨らませているが、龍族の国三国と全面戦争ともなれば、圧倒的に不利な立場へと変えてしまう事だろう。それ程までに龍族と他の種族では力の差が歴然なのである。


 イルベキア国のヴァルーザ龍王は、そろそろイーサ龍王からの連絡が来る頃だと判断し、自国の領土の空を旋回している龍達に整列を促し始める。


 ヴァルーザ龍王はブルードラゴンでありながら戦力値は3億を上回る。

 更に一部の龍族が纏う事が出来る戦闘形態である『』を纏う事ができるために、戦闘時になれば『ヴァルーザ』龍王は、戦力値が15億まで跳ね上がる。


 ――まさに一国の王と呼ぶに相応しい、力を持つ龍族なのであった。


 そしてハイウルキア国のガウル龍王もまた、軍の龍族達の整列を行っていた。

 ガウル龍王は、今回の戦争に少しばかりの野心を募らせていた。当然のように、イーサ龍王から一番に知らせられたのが、イルベキアのだったからである。


 大国スベイキアの国力には、どう足掻いたところでハイウルキアでは勝ち目はないが、同じ同盟国であるイルベキアとは、そこまで国力に差はないのである。


 そしてイルベキアのヴァルーザ龍王と、ハイウルキアのガウル龍王はほぼ互角であり、昔から仲も良くはなかったが、同じスベイキアに連なる同盟国として行動を共にしていた。


 しかしガウル龍王は常に何かある毎に自分ではなく、ヴァルーザを優先するイーサ龍王に不満を募らせており、今回の戦争では先陣を切る事になったヴァルーザ率いるイルベキアよりも活躍して自国の序列を高めておきたいと考えていたのである。


(今に見ておれよヴァルーザ。我が国の方が上だという事を思い知らせてやる)


 ひとたび戦争となれば後続であろうが関係はない。少しでも多く魔人共を屠る活躍を見せて、自国の優良さをイーサ龍王にお見せしたいと意欲を見せるガウル龍王であった。


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