第598話 脱獄する魔王

 イザベラ城の地下牢に『神聖魔法』の枷をつけられた状態で幽閉されていたフルーフだったが、ついに動きがみられた。


「これでどうだ?」


 対象者を縛り付ける効果がある『神聖魔法』。

 その上に更に魔族に対して『特効力』がある『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』によって、身動きを取れなくしていた両手両足の枷にフルーフは、この状況下で築き上げた『新魔法』の『発動羅列』を展開するのだった。


 この枷に掛けられている魔法は、僅かな間であれば魔法発動を可能とする為に、その遮断されるまでの時間を計算されて、新たなをフルーフは発動するのだった。


 この『新魔法』の『もと』になった魔法は、相手の言質に対して契約を持たせる『呪縛の血カース・サングゥエ』の『発動羅列』である。


 本来この魔法は相手が契約に背いた瞬間に『死神』が現世に降臨し、契約執行と共に相手の魂を奪い去るという『魔法』であったが、その後半となる部分の『発動羅列』を組み替えてこの枷を解くために優位な設定を選び抜いたのだった。


 フルーフのこの魔法は三度の『神聖魔法』の魔族に対する特効効果に干渉してみせたが、エルシスの魔法の位としての『』が、フルーフの『新魔法』を上回り打ち負けてしまった。


 しかし初見ではフルーフがエルシスの魔法に『』で敗れたが、何度も改ざんを繰り返し行えばエルシスの神聖魔法に対して打ち勝つ事はそこまで難しくはない。


 ――フルーフもまたエルシスになのである。


 フルーフの魔法によって手足に嵌められていた枷は、青い光が数秒程瞬いたかと思うと、ピシッという亀裂が入る音が鳴り響き、次の瞬間には嵌められていた枷は崩れ去った。


「はぁ。やれやれ。時間を掛けられたわい」


 フルーフは次に両足の枷も外して、これによって『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』の効力をするのに成功した。


 要した時間はフルーフにとっては長い時間だったが、大賢者エルシスが用いた魔法をたったこれだけの時間で解いて見せたのである。


 『魔』に携わる者であればこれは目を引ん剥く程の驚きがある。

 更にこれを解いたのが『エルシス』の魔法の前では、とても相性の悪い『』だというのだから信じられない程の偉業をフルーフは行ってみせたのである。


 フルーフが神聖魔法を解く為に目を向けた箇所は二つ。

 まず一つ目に『魔族』に対する『特効効果とっこうこうか』の無効化であり、そして二つ目に神聖魔法『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』に対するアンロックであった。


 フルーフは枷自体を外す事よりもやはり魔族に特効を及ぼす『だった。


 その証拠に魔族特効に対する為に用いた効力失効の契約消失に、過去の『呪縛の血カース・サングゥエ』の『発動羅列』から組み替えて『新魔法』に応用させたのだ。


 勿論この枷に掛けられた『神聖魔法』の解析をして見せた事も凄いが、魔力を遮断されるこの状況下であまり失敗をせずに、脳内で羅列を組み上げた事が凄いのである。


 更にいえば脳内で完成させた新魔法をたった三度の干渉で微調整を整えて、この絶望的な状況で、大賢者の魔法を打ち破って見せたのである。


 ――彼をと呼ばずに誰をと呼ぼうか。


 レアの『親』でありソフィの友人は疑いようのない稀代の『』である事の証明をしてみせたのだった。


 そしてこれで最早彼を縛るものは何もなくなった。

 如何に大賢者の後継を名乗るミラであっても洗脳と捕縛の解けたこの大魔王を幽閉する事は出来ない。


 長きに渡って彼を縛り付ける事で自分の方が優れていると、確信していたミラは後悔する事だろう。


 ――これより『レパート』の世界の支配者。大魔王『フルーフ』の復活劇が行われる。


 フルーフは地下牢の扉に手を掛けるとあっさりと扉は開いていく。

 扉にも『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』の効力が掛けられていたが、最早いまのフルーフの前では『神聖魔法』の『『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』など、に成り下がる。


 外には一体の魔族が『フルーフ』の地下牢の外側で椅子に座って見張っていた。


 まさか扉が目の前で開くと思っていなかった見張りは慌てて立ち上がろうとするが、次の瞬間フルーフの魔瞳である『金色の目ゴールド・アイ』の効力によって、表情から色を失くしていく。


 見張りを棒立ちにさせたフルーフだが、牢の外には出ようとせずにそのまま立ち止まる。


 そして発動した『金色の目ゴールド・アイ』で何かを探るような視線を周囲に向けて、扉が閉まっていた頃は探れなかった外側の風景を見渡す。


「ふむ。成程。牢の外は城を覆う程の結界が施されておるな。この牢の中に、結界の効力を施さなかったのは『させないようにする為だったか」


 『魔』の道に精通する達眼の士であってもこれだけの罠の前に、早々気づける者は居ないだろう。ましてやフルーフは先程まで枷や扉に掛けられていた、神聖魔法に苦戦していたのである。


 ようやく枷を解く事に成功し、見張りの存在を無効化して外に出る事が出来たというのに、まるで慌てる事なく、他に罠が無いか結界の有無やその効力を冷静に読み解いて見せたのであった。


「まだワシが牢の捕縛を解いた事はバレてはいないようだ。そういう事ならばここで『概念跳躍アルム・ノーティア』を使うのは得策ではないな」


 フルーフはそう言うと自身に『結界』の効力さえ通さない程の精密的な『隠幕ハイド・カーテン』を使って牢の外側へと遂に足を踏み入れるのだった。


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