第575話 突然の裏切り行動

 ミラが邪悪な笑みを浮かべる前で、ヌーは魔力を封じられて行動を縛られた。

 その場にいるラテールや、ルビリスも驚愕の表情を浮かべてミラの顔を窺う。


 ――そして遂に『魔神』がこの場に到着するのだった。


 この場にはまだ先程の『概念跳躍アルム・ノーティア』を発動させた瞬間の魔力が、周囲に満ちており、途中まで『発動羅列』が空に刻まれている。

 あと数文字で『概念跳躍アルム・ノーティア』の魔法がその効力を発揮するであろうというギリギリのラインである。


 すでにヌーは『概念跳躍アルム・ノーティア』の『発動羅列』を九割程完成させて『スタック』させていた魔力も使っている為に、この場に魔法陣が消えずに出現し続けている。


 ――だが、羅列が少し足りていない為に、魔法陣は存在していても『魔法』を発動できる状況になく、この状態で魔力を乗せたところで回転することなく未発動のまま残るだろう。


 このまま時間が経てば『』となって自動的にヌーの魔法は消えてしまうだろう。


「――?」(これは……。世界に干渉しようとしているようだが、これは『時魔法タイム・マジック』か?)


 流石は『魔』を司る神である魔神である。

 初めて見る魔法に対して直ぐに『時魔法タイム・マジック』なのだと看破し、そしてその効果が何かを考え始めたが、直ぐに『』だと推測するのだった。


「――」(大方この私から逃げようとしていたのだろうが、逃すわけがないだろう)


 魔神の前では『時魔法タイム・マジック』は無意味となる。


 それは『時魔法タイム・マジック』を普段の戦闘で活用しない階級クラスではその恐ろしさを想像出来ず、戦闘には関係が無いと判断するだろう。

 しかし『』や『階級クラスともなると、これが如何に恐ろしいかが理解出来る。


 世界を支配する事を見据えた存在達。その一定の強さ誇る者達であるならば『次元防壁ディメンション・アンミナ』という唯一無二の魔法をを封じられるという事が、どれほど厳しい事かに気付けるからである。


 『賢者』クラスの人間や『大魔王』と呼ばれる程の魔族達が、一定の格上と戦っていても戦闘になるのは、相手の極大魔法を無効化する事の出来る『時魔法タイム・マジック』を扱う事が出来るからである。


 相手の攻撃に対して防衛手段があるのとないのとでは、埋められない差が出来てしまう。

 特に大魔王や、大賢者の下限に居る者達は、この『次元防壁ディメンション・アンミナ』がなければ、格上とはまともに戦えない。


 魔法の発動羅列を最後まで完成は出来なかったが、それでも途中まで完成していた事で『ヌー』の『ストック』させていた魔力が周囲に満ち溢れており魔神はそれを感知した。


 『魔神』はこの『時魔法タイム・マジック』の効力を発動させないように『』。


 『魔神』の周囲を神々しい『オーラ』が包んだかと思えば、世界に干渉しようとしていた『概念跳躍アルム・ノーティア』の為のヌーの『スタック』されていた『魔力』が消失して、完全に消え去ってしまった。


 しかしそれと同時に、まさに瞬間を待っていたとばかりに『ミラ』は口角を吊り上げながら『フルーフ』を操る。そして『金色の目ゴールド・アイ』によって、フルーフはミラの指示に従って、ヌーの『概念跳躍アルム・ノーティア』の魔法を消し去ったその『力』を『発動羅列』へと置き換えるのだった。


 どうやら魔神に対して放たれた『時魔法タイム・マジック』は自動で消されるようだが、魔神が『時魔法タイム・マジック』に対して効力を消そうとすれば、その力は『発動羅列化』を可能とするようだった。


 ミラはこの可能性を信じてヌーに『概念跳躍アルム・ノーティア』を使わせた状態で動きを縛ったのである。そしてそこからのミラの行動は『』であった。


 無表情になったミラは、一気に魔力を費やしながら魔法を放つ。


 ――神聖魔法、『妖精の施翼フェイサー』。


 無詠唱で魔法を用いて自身の強化を図る。


 ――神聖魔法、『聖者達の行軍マーチオブ・セイント』。


 そしてミラは自身最大の『神聖魔法』である『聖者達の行軍マーチオブ・セイント』を発動させると、白い装束に白い鎧を纏い、そして白い兜に包まれた、長い槍や大きな剣を持った騎士の軍勢が魔法によって、魔法陣を媒介に次々と出現し始めていく。


 その様子を見た後に『ミラ』は、直ぐにルビリスに視線を送りながらヌーの縛りを解き、そしてフルーフの肩に手を乗せる。


 たったそれだけの仕草でルビリスは、ミラがフルーフを連れてどこかへ移動するという事を察した。そして即座にルビリスは頷きを返して、その場に居るヌーにミラと同じように手を置いた。


 ミラはそのルビリスの行動に笑みを浮かべた後に、フルーフを掴んだまま『高等移動呪文アポイント』を使ってどこかへと飛んで行く。


 そして一歩遅れてルビリスは『ヌー』と『ラテール』。そしてリベイルを掴んで同じく『高等移動呪文アポイント』を発動する。


 そしてミラとは反対方向の空へと飛び去って行った。


 ――これはまさに一瞬の行動である。


 取り残された魔神の周囲には、ミラが召喚した百を越える軍勢が、魔神に次々と襲い掛かっていった。


「――!」(私を舐めるのもいい加減にしろ!)


 この世界の言語ではない言葉で怒号を発しながら魔神は、迫って来る軍勢を睨む。


 白い装束に白い鎧を纏い、そして白い兜に包まれて、長い槍や大きな剣を持った騎士の軍勢が、

 魔神の間合いに入った瞬間に『魔神』は、ミラの本隊達の大魔王の多くを一瞬で葬った『技』を使う。


 魔神の周囲を『白』のオーラが纏われた瞬間に『魔神』の身体が『銀色』に発光し始めた。


 そして『光のエネルギー』が、円状に魔神を軸として出現する。更に円状に広がったソレは、徐々に広がっていく。


 ここまでは『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大魔王達を浄化させた『力』と変わらなかったが、更に魔神は迸る程の膨大な魔力を暴走させる。


 ――空に次々と亀裂が入ったかと思うと、その穴から高密度のエネルギーが次々に一斉に発射された。


 円状の波が一斉に広がって白装束の騎士達は、一斉に飲み込まれた後に『エネルギー波』が視界全てを覆い尽くす程に、次から次に発動され発射され続ける。


 数百を越えていた軍勢は、その体を粉々になるまで一向に止まない『エネルギー波』によって貫かれ続けた。この軍勢はミラの魔法によって、生み出された騎士達である為に、やられてもやられても再生するが、再生されたとほぼ同時に魔神によって消され続ける。


 無制限に再生し続ける騎士達だが、お構いなしに魔神は軍勢に攻撃をし続ける。何度蘇ろうとも発射され続けるエネルギー波によって、魔法で生み出された騎士達は動く事が出来ずに、縦横無尽に放たれる魔神の一斉掃射にやられ続けるのだった。


 ――やがて騎士達の再生が少しずつ遅くなっていき、再生できる個体が一体ずつだが確実に消えていく。


 どうやら一気に再生と消滅を繰り返す騎士達に、ミラの魔力が持たなくなったのだろう。僅か数秒程で膨大な魔力を持つ、大賢者ミラの魔力は枯渇して、最後は魔神の周囲から騎士達は全て消えてしまった。


 『魔神』は騎士の軍勢が完全に消えた事を確認した後、すぐにこの場から去った者達の魔力を感知して、即座に移動を開始し始めるのだった。


 ……

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