第574話 裏をかく大賢者

 ミラの『念話テレパシー』に応じたヌーが、再び彼らと合流するためにイザベラ城の前へと向かってきていた。


 現在この場にはルビリスと、を引き起こすように仕向けられたラテールと実験体と称されるフルーフ。そして魔神に記憶を失わされた組織の幹部のリベイルが居た。


 『魔神』を呼び出す前まではこの世界にも多くの信徒の魔族達が居たが、あの殺傷力の凄まじい『魔神』の『浄化の一撃』によって大半が葬られてしまった。


 この世界に連れてきていた信徒達は『アレルバレル』の世界に多く残してきた分隊とは違い、それぞれが『大魔王中位』以上の本隊の者達であった。


 『煌聖の教団こうせいきょうだん』の中では目立つ事は出来ないが、それでも別世界では、十分に世界征服を行える程の力量の持ち主たちなのである。


 しかしそんな大魔王達であっても『魔神』の前ではこの扱いなのである。如何に魔神が埒外な存在であり、ミラが危険な賭けをしているかという事が理解出来るであろう。


 だがそれでも犠牲を払いながら少しずつミラは、計画を着実に進めて行っている。

 現在の時点でも完璧にとは言い難いが、八割方は計画の成功が出来ているといっていいだろう。


 本来であればここで作戦を打ち切り、計画は上々だったと妥協するべきなのだが、ミラはまだ『欲』を抱えていた。その欲が裏目に出るかはまだ分からないが、ミラ自身賭ける価値は十分にあると判断している。


「待たせたな……」


 装備類や必要なアイテムなどを回収して、再びイザベラ城前に居たミラ達の前に姿を見せたヌーは『アレルバレル』の世界へ向かう準備を整え終えていた。


「ああ。だがお前がモタついたおかげで、一つ面白い事を思いついた」


「さっきも何か言っていたが、どうするつもりだ?」


 会話をしつつもヌーは『概念跳躍アルム・ノーティア』の為の『スタック』を展開させる。

 こうしている間にも『魔神』が、恐ろしい速度でこちらに向かって迫ってきているのを感知しているからである。


 ヌー達にとって『魔神』の脅威は『ミラ』の比ではない。

 何故ならミラには『生命ストック』があるために、一度の油断からやられる事があっても、直ぐに再生ができるが『ヌー』達はそうはいかない。たった一度の死で全てが終わりになってしまう以上は、悠長に会話を楽しんでいる訳には行かないのである。


「ふふ、よく聞け。上手く行けば今回の計画は、更に素晴らしい結果を生むことになるぞ!」


 ミラはヌーの考えている事を理解しながらも自分のペースで話を続ける。

 どうやら先程考え付いた作戦とは、余程ミラにとっては魅力的なものであったらしい。


 まさか魔神が迫ってきているこのタイミングで『神聖魔法』の説明の時のような長い話をしないとは思うが、万が一馬鹿みたいにこれから長い解説が始まったのならば、ヌーはフルーフを連れてさっさと『アレルバレル』の世界へと向かうつもりである。


「それでどうするつもりだ?」


 ヌーは『概念跳躍アルム・ノーティア』を使う決意を固めて同じ言葉を告げた。


「まぁそう慌てるなよ。ヌーよ『魔神』なんて滅多に見る機会がないんだぞ? もう少し緊張感を味わおうじゃあないか」


 ミラが一体何を考えているか分からず、ヌーはもう付き合っていられないとばかりに『概念跳躍アルム・ノーティア】』を発動させて『魔法陣』を出現させる。


 ――そして『スタック』させていた魔力を魔法陣にのせようとする。


 しかしその瞬間であった。


 ――神聖魔法、『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』。


 何とミラは


「なっ……! 何しやがる貴様ぁっ!?」


 大魔王ヌーは、ミラに殺意がこもった視線を向けながら怒鳴りつける。


「み、ミラ様!?」


 流石のルビリスでさえも突然の『ミラ』の行動に驚きふためく。聡明な彼であっても、今この場でヌーにこんな真似をする必要性があるのかさっぱり分からない。


 そして戦力値では『九大魔王』達よりも高く、に位置するヌーだが、ミラの『神聖魔法』は魔族に対して効果が増幅する為に、ヌーの魔力をもってしても抜け出す事は出来ない。


 今この場に居るヌーの頭の中では、ミラがどういうつもりでこんな真似をしているかを冷静に考えているが、表面上では焦りから怒っているという演技をしながらミラの真意を計る。


 しかしヌーがミラの考えを理解する前に、この場に『』が到着してしまうのだった。

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