第438話 金色の甲冑に身を包む騎士

 少しだけ時は遡り『ソフィ』と『リーネ』がクッケの街に入った頃の事である。

 森の中でソフィの帰りを待ちながら、ユファの過去の話を続けていたレア達だったが、そこに平穏な森にはそぐわないモノが現れた。


 全身を金色の甲冑で纏った。いわば中世の時代の騎士のような男が山からゆっくり下りてきて『レア』達の前で立ち止まったのである。


「グルルル……」


 突然の来訪者に寝そべっていた『ベイル・タイガー』達が立ち上がって、騎士の男に唸り声をあげる。


 しかし騎士の男は全くそちらには意識を割かず、何故かレアの方ばかりを見ていた。


「どなたでしょう? ベイル達の討伐に来た冒険者のようには見えませんが……」


「……」


 ラルフが声を掛けるが騎士の男は全く反応を見せず、頑なに『』の方ばかりを見ている。


「じっと私を見て何かご用かしらぁ? なら他をあたって欲しいのだけどぉ」


 レアが煽るようにそう言うが、意に介さずにレアに向かってゆっくりと歩いていく。


「グルルル……!」


「グルルァッ!」


 唸り声をあげていたベイルの同胞達が、レアを守るように周囲に集まってくる。


「……邪魔だ」


 ベイル・タイガー達が騎士の男に飛び掛かった瞬間、騎士の男は背中から剣を引き抜く。


 剣は紅く光を放った後、切先を飛び掛かってくる『ベイル・タイガー』達に向けて振り下ろす。


「まずい! 『ベイル・タイガー』達よ、今すぐに下がりなさい!」


 ラルフがそう叫ぶが騎士の剣が『ベイル・タイガー』達に届く方が早い。


 ガキィンッ!という音が周囲に響き渡り、飛び掛かっていったベイル・タイガー達は、その風圧で吹き飛ばされていった。


「ほう。お前は魔法主体で戦う魔族と聞いていたが剣も扱うのか」


 レアは『ベイル・タイガー』達と騎士の男の間に割り込み『淡い紅』を用いて具現化された剣で、騎士の剣を防いで見せた。


「私の事を知っているのかしらぁ?」


「もちろんだとも。私はに、ここに遣わされたのだからな」


「!!」


「!?」


 その言葉を聞いてラルフは『淡い青』を纏い、更にレアは『金色のオーラ』を纏い始める。


「私とユファをですってぇ? まさか……っ!」


 そこでレアは何かに気づき、この騎士が何を目的としているかを瞬時に理解する。


「ラルフ! 貴方はソフィ様にこの事を伝えてきて! そして、ユファにも警護を!」


「なっ……!?」


 レアと一緒に戦おうとしていたラルフは、突然のレアの言葉に驚きを見せる。


「そう簡単に逃すわけがなかろう?」


 そう言って騎士の男はレアと少し離れた場所に居るラルフを同時に攻撃するかの如く、炎のように紅く光っている剣を振り切った。


 ――すると剣を中心に炎が舞い上がるかの如く体現して、その炎は魔法のようにラルフとレアを襲うのだった。


「あ、危ない!!」


 ――超越魔法、『炎帝の爆炎フレイマー・エクスプロージョン』。


 レアは自身を守るためではなくラルフを守るために『炎帝』を遣わして、騎士の炎を相殺させるように次々と火球を放ち始める。


 しかしそんなものは何の障害にもならぬとばかりに、騎士の炎に『炎帝』の火球は弾き返されていく。仕方なくレアは自身に飛んでくる炎を『転移』で躱した後に、ラルフの前に姿を見せて自分が盾になって再び無詠唱で魔法を発動させる。


 ――神域『時』魔法、『次元防壁ディメンション・アンミナ』。


 『魔王』レアの時魔法によって、騎士が放った炎は別次元へと消されていく。


 何とか敵の攻撃を防ぎ切ったと安心するレアを余所に、いつの間にか騎士の男は目の前まで迫ってきていた。


「……余り戦闘が得意ではないようだな? たかが炎一発にそんな大技を使えば、距離を詰められるのは当然だろう? これで終わりだ!」


 騎士の男はそうレアに告げると、レアの頭を目掛けて剣を振り下ろした。


「くっ……!」


 レアは『高速転移』を使って強引にその場から脱出して、騎士風の男の反対側へと移動する。


「クククク、逃げるのは得意なようだな? しかし、今度はこっちの男が危ないぞ?」


 そう言うと騎士の男は先程と同じように剣に炎を纏わせ始めて、ラルフに向けて剣を振る。


 炎はラルフに直撃していき、剣圧で皮膚を切り裂いていく。


「ぐっ! うぐっ……」


 『青』を纏う事によって通常とは比べ物にならない程の防御力になっているラルフだったが、それでもあっさりと騎士の男にやられてしまう。


「ラルフ!」


 レアは再び『転移』を使ってラルフの元へかけよって、怪我の具合を確かめ始める。


 どうやらラルフは『障壁』を使っていたおかげで、炎での被害は大した事は無さそうだったが、騎士の男の剣圧で切られた所からの出血の方がひどかった。


「だ、大丈夫です。た、大した事はありませんよ……」


 数秒間意識を失っていたようだったが、レアが近くに来る頃には意識を取り戻したのだろう。そしてレアに向けてそんな事を口にする。


「な、何を言っているのよぉ……。かなり出血が酷いわ。もう戦闘は無理よ、今すぐにこの場から離れてソフィ様にこの事を伝えにいきなさい!」


 レアがそう言うと、ラルフは悔しそうな表情を浮かべ始める。


「ククク、そのガキの云う通りにした方がいいぞ? 私はそこのガキとユファという女を葬りさえできれば、後はどうでもいい。お前のことは見逃してやるから、さっさと逃げろ逃げろ」


「くぅ……!!」


 ラルフは悔しそうに顔を歪めると、レアに支えられながら立ち上がる。


「す、すみません、レアさん! この場に私が居ても足手まといにしかならなそうです。しかし直ぐに、直ぐにソフィ様に伝えて戻ってきますのでそれまで耐えて下さい!」


「ええ、分かったわぁ! 貴方が戻ってくる頃にはあんな奴倒して、ヒモでふん縛っておいてあげるわよぉ! だから慌てないでゆっくりでいいからねぇ?」


 悔しそうにしているラルフに優しく笑いかけて、ラルフの怪我を考慮して安心させるように、レアはゆっくりでいいからと告げる。


 ラルフはその言葉を聞いて、唇を噛みながら踵を返して森の出口に向かって一直線に走っていく。


「さて実際問題……、どうしようかしらね。こいつは私の『代替身体だいたいしんたい』ではかなりきつい相手ね」


 レアは『金色』を纏った今の状態でも戦力値は4億程度しかなく、この騎士風の男はどうやらその戦力値では手も足も出なさそうであった。


 ……

 ……

 ……

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