第437話 指名依頼の達成と、勲章ランクの昇格

 クッケのギルド長『カダル』は、受付嬢に『破壊神』が『ベイル・タイガー』の討伐の報告に来たと告げられた時に諸手を上げて喜びそうになった。


 『ギルド指定A』の魔物を討伐してくれた事も嬉しかったが、報告を『リルバーグ』といった他の街のギルドではなく、自分達の街を選んでくれた事が嬉しかったのだ。


 ソフィ達にとっては偶然この街のギルドを選んだのかもしれないが、あの『破壊神』がわざわざ足を運んだ場所が『クッケ』の街のギルドというただそれだけの事であっても、いい宣伝になるからである。


 それ程までに『破壊神』の異名を持つソフィは、このミールガルド大陸では、天下雷鳴の如く冒険者ギルド界隈では有名なのである。


 現在はグランの町のギルド所属ではなくなったそうだが、それでも片田舎の一ギルドでしかなかった『グラン』の冒険者ギルドは、今やケビン王国だけではなく、ルードリヒ王国の冒険者たちが多く移籍して恐ろしく大きな冒険者ギルドとなっている。


 ――その功績は間違いなく『破壊神』ソフィのおかげである。


 クッケのギルドの奥の部屋。ギルド長の部屋に通されたソフィ達は『』の依頼を無事に果たしたことを『クッケ』のギルド長に伝えた。


「成程『ベイル・タイガー』を仕留めたというわけではなく『トータル』山脈からソフィ殿の治める国へと移動させてもらえたという事ですか」


「つまりはそう言うことなのだ。この場合討伐というワケではないのだが、クエストの達成扱いになるのだろうか?」


 ルードリヒの国王からの依頼のためにソフィは、是が非でも確認をしておきたかったのである。懸念を抱くソフィを余所に、クッケのギルド長カダルは満足そうに頷いている。


「ええ当然問題はありませんよ。どんな形であっても『トータル』山脈を通る時に『ベイル・タイガー』に襲われる可能性を失くしてもらえたのであれば、ギルドとしてはクエスト達成に出来ますからね」


 カダルの言葉を聞いた『ソフィ』と『リーネ』は、安心したといわんばかりの表情を浮かべた。


「いやはや、それにしても国王から直々に指名依頼されるとは、流石は『破壊神』ソフィ殿ですな」


 ふかふかの高そうなソファーの背もたれに、深々と座りながらカダルは何度も頷く。


「その事なのだがな。今のこちらの大陸では、冒険者の層が薄くなっておるのではないか?」


 わざわざ別の大陸の国王が、遠く離れた自分を指名しに来る程なのだから、この大陸の防衛力に懸念を覚えたソフィだった。


 先程までソフィが自分のギルドに報告に来た事で浮かれていたカダルだったが、その言葉を受けて真面目な顔に戻す。


「……ええ。確かに今その事は、ミールガルド大陸中の冒険者ギルドの間で問題視されているのです。ここ最近平和だったことに加えて『リディア』や『スイレン』のような実力者である『ランクA』の冒険者が次いで居なくなったことにより、慌てた各ギルドは『勲章ランクB』から『Aランク』へ強引な推薦を行い、層の強化を図ってはいるのですが、そのせいで実力が伴わない者達が『Aランク』帯に増えてきておりましてな」


 カダルは溜息をついて冒険者ギルドの実情を語るのだった。


 どうやらギルドのポイントだけを細かく稼ぎながら、勲章ランクを上げている者達が『Bランク』には多く居て、ギルドとしても『Aランク』が少なくなってきている事に懸念を抱いて、そういったBランクの者達を仕方なくAランクと押し上げているようだった。


「やはりそういう事だったのか」


 ソフィはもうミールガルド大陸ではなく、ラルグ魔国の魔族であり、下手に口を出すべきではないと理解はしている。


 しかしこのまま冒険者が育たずに再び力がある魔物が、町や人間を襲うような事件が起これば、再びソフィに指名依頼が来る可能性もある。


 別にソフィは、困っている者達からの依頼を断るつもりはないが、ソフィもまた別の問題を抱えている。


 ――『組織』の者達に『アレルバレル』が脅かされている状況なのである。


 なんとかしてそちらの方の解決策も考えなければならないために、今後も今回のように『討伐依頼』を受け続ける事が出来るか分からなかった。


「我の配下達を各ギルドに配置させるとなると、それは内政干渉で問題になるだろうか?」


 アレルバレルでは『魔界』も『人間界』も実質ソフィが支配しているために『ディアトロス』を通じてあらゆる手立てを施す事も可能だったが、ここは別世界の『リラリオ』であり、ソフィが勝手な真似をするわけにも行かなかった。


「『ヴェルマ』ー大陸とは、少し前に戦争が行われたばかりですしね。我々冒険者界隈の人間はソフィ殿がどういった方かという事をある程度理解していますが、冒険者でもない者達にとっては、不安もあるでしょうし。当分は難しいでしょうね』


「ふむ。まぁその話はまた後日、ゆっくりと考えるとしようか。すまぬが今日はこれで失礼してもよいか? 我は配下達に『ベイル・タイガー』を森で待機させておってな。万が一クエスト達成を認められなければ、ベイルを実際にここへ連れてきて、信じてもらおうと思っておったのだ」


 カダルはその言葉に目を丸くして驚く。


 この街の中に、の対象である『ベイル・タイガー』を連れてこられては、街中がパニックになってしまう。それだけはなんとしても避けたいと、カダルは慌てて口を開く。


「そ、そうでしたか。あ、安心してください! クエストは無事に完了していますので」


「うむ。分かった。それではこのまま帰ってもいいか?」


「少しだけお待ちください。クエスト達成に伴う報酬とポイントなどは、既に計算を終えておりますので、直ぐにご用意をしますので」


「うむ、そうか。分かった」


 カダルが執務机の上に置いてある呼び鈴を鳴らすと、本当に準備をしていたのだろう。すぐにギルド職員が報酬が入った包みを持って入ってきた。


「お受け取り下さい。こちらは討伐依頼のみの報酬『』となります」


「……何?」


「こ、光金貨10枚ですって!?」


 ――金貨50枚相当で『白金貨』。そして金貨500枚で『光金貨』1枚なのである。


 つまり『ベイル・タイガー』の討伐報酬として、この場でに値する額がソフィ達に支払われたのだった。


「申し訳ありませんが、国王様からの指名依頼分の報酬は今すぐにご用意できませんので、そちらは申し訳ないのですが、少々待って頂けないでしょうか? 国王様に依頼達成を知らせたら、直ぐにご用意させていただきますので」


「我はもうこれで十分な……」


「だめ! 絶対ダメ!! ソフィ! ちゃんと国王様からいただかないと駄目!」


 目の色を変えたリーネはソフィの手を両手で包みながら、必死に言葉を撤回させる。


「う、うむ! そ、そうか! では直接エイルから受け取ると言う事ではだめか?」


 ソフィがカダルにそう言うと、カダルは『もちろん大丈夫です』と笑って頷いて見せた。


 カダルから『破壊神にも頭の上がらない女性が居るのですね』とばかりに、同情するような視線を送られてくるソフィであった。


 ソフィの横でリーネが何やら計算を始めていた。どうやらソフィの屋敷に居る者達や、ベア達の生活費などの計算をしているようだった。その辺の諸々はリーネに任せているために、何も口に出さずにリーネの云う通りにするソフィであった。


「そ、それでは世話になった。また何かあれば宜しく頼む」


 ソフィがそう言ってギルド長の部屋から出ようとすると同時に、先程の受付嬢が再び慌てた様子で入ってくるのだった。


「ぎ、ギルド長! た、大変です!」


「落ち着いて下さい。まだソフィ様達がこの場に居るのですよ!」


「そ、それがギルド長! ラルフと名乗るお方が『ソフィ』様に会わせて欲しいと、血まみれで訪ねられて……!」


「は?」


 受付嬢からの報告でギルド長『カダル』は素っ頓狂な声をあげた。


「……何だと?」


「ラルフさんが!?」


 そしてソフィとリーネは受付嬢の言葉に同時に驚き、慌てて外へ出て行くのだった。


 ……

 ……

 ……

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