友を想う大魔王編

第403話 最強の大魔王と大賢者エルシスの邂逅

 アレルバレルの『魔界』の中央の大陸に存在するソフィの魔王城。


 その城の玉座に座っているソフィは、組織の残存勢力を葬った事で名実共にこの世界の王となった。彼は玉座に座りながら、かつての大賢者『エルシス』の事を思い出していた。


 それはまだソフィが一介の魔族だった頃の話だった。当時の『アレルバレル』の世界では、大魔王『ロンダギルア』程度の魔族が、世界征服をしようなどとは、決して考えが及ばない程の強さを持つ魔族が蔓延っている時代だった。


 そしてその時代のソフィは、誰よりも闘争心を持っており、強き者と戦う事を誰よりも望んでいた。


 しかしいくらソフィが力を抑えながら戦おうとも全力の一割程度ほどを出せば、あっさりと絶命していく魔族達。


 誰よりも戦いを望むソフィが誰も相手にならない世界を『』も生きるというのは如何に辛いモノだっただろうか。

 しかしそんな辛い世界を生きているソフィの前に、一人の人間の若者が姿を見せたのである。


 曰く目の前の人間は、人間界では『』と呼ばれており、向かうところ敵無しの最強の存在だったらしい。


 彼は人間の王から人間の世界に脅威を齎す魔族達を討伐するように依頼されて、この魔界へ渡ってきたのだと、一方的にソフィに話をするのであった。


 そんな大賢者『』は『魔界』で多くの魔族達を討伐してその時に、もっと強い奴は居ないのかと尋ねたところにソフィの名が上がったことで、こうしてソフィの元に会いに来たというのだった。


 ソフィは最初エルシスを見た時『強いのだろうという感想を抱いただけだった。


 アレルバレルの『魔界』でさえ、退屈しのぎにもならないというのに、そんな魔族共より弱い人間が、如何に敵なしと喚いたところで何も思わないのは当然であると言えた。


 この時のソフィは『人間』という種族を『精霊族』と同様に庇護をしてやりたいとは思える存在ではあったが、直接戦闘を行えるような『種族』とまでは考えていなかったのである。


 そう思えた理由はいくつか挙げられるが、まず第一に考えるに至った理由としては、今回この場に現れた目の前の『エルシス』のように『人間界』からその時代の権力を有する者達。つまり『人間界』の『王』と呼ばれる者から討伐を依頼されて、この『魔界』に渡ってきた『勇者』と呼ばれる人間の相手をさせられ続けたことが理由として挙げられるのであった。


「キミがどうやらで間違いないようだね? 悪いけど人間の安寧の為に、君を倒して魔族を人間界に近づかせないようにさせてもらうよ?」


 エルシスは人間の年齢でいえば『二十歳』に差し掛かろうかという程の若者だった。そんな彼の持っている杖は自前で作ったのか、のようにみえた。


「すまぬが他をあたってくれぬか? 我は『人間界』になど興味はないし。侵略をするような真似はせぬとお主に約束しよう」


 そう告げてソフィは『エルシス』の元から離れようとするが、そんなソフィの元へ一歩近づき『エルシス』は食い下がる。


「そうはいかない! 君はこの恐ろしい魔界の魔族達から見ても化け物だと思われているのだろう? そんな君をボクが倒したという噂が広まれば、間接的に人間界に安寧を齎す事が出来るだろうからね」


 ふふんっと、エルシスはドヤ顔を浮かべながら独自の持論を展開するのだった。


「我を倒したところで他の魔族達がお前たちの世界へ行かぬとは限らぬよ。我はこの『魔界』では多くの者達に知られてはいるが、その実我が『支配』を行っているわけではないからな。むしろ我が倒れたと知れば、私利私欲を働こうとする魔族達が活発的になり、お主たちの世界へ行くかもしれぬぞ?」


 ソフィの正論の前に『エルシス』は『ぐむっ!』と芝居がかった言葉を漏らした。


「うーん。確かにその可能性も否定出来ないか? 人間と魔族は考え方が根本から違うからねぇ?」


 ソフィは溜息を吐いた。


「うむ。そうだろう? 分かったらもう戻るがよいぞ」


「ははは。キミと話をしてみて思ったんだけどさ、キミはどうも悪い魔族には思えないね。本当にこの魔界の魔族達に恐れられているのかい?」


「さぁどうだろうな。思いたい奴には勝手に思わせておくがよい。我には関係がないのでな」


 そういって今度こそ立ち去ろうとするソフィだが、背後から膨大な魔力を感知する。


「何のつもりだ?」


 エルシスの目が『金色』に輝き、彼の周りに『金色のオーラ』が纏われていた。


「キミはどうやら退屈で退屈で仕方ないみたいだね。そこでどうだろう? 何も考えずにボクと戦いストレスを発散させてみるつもりはないかな?」


 ニコニコと笑うエルシスを見てソフィは、この大陸で初めて出会う『強者』の匂いを感じ取るのだった。


 どうやら誇張ではなく本当に目の前の若者は『』を持っているようだった。それも人間だからとか、魔族だからとかではなく、全ての種族の中でも上位だとソフィに思わせる程であった。


「お主は我のなのか?」


 先程までの死んだ目を浮かべていたソフィではなく、恐る恐るといった表情だがしかし。そこには期待をするような目でエルシスを見つめていた。


「さぁどうだろうね? だけどそんな目を向けられてボクは、期待に沿えない返事をするつもりはないかな。最低でもキミを楽しませられる自信はあるかなぁ?」


「面白い。お主が期待外れであっても我はお主を責めぬ。ここ最近ではすでに一番興味を持たせてくれたのだからな」


 そう言うソフィは嬉しそうに笑みを浮かべて『青』を纏うのだった。


「キミ。『青』でいいのかい? 『』でも『』でもボクは構わないよ?」


 エルシスがそう告げると、ソフィは堪えきれないとばかりに笑い始めた。


「クックックッ! ここまで我を乗せたのだ。最低でも数分はその気にさせてもらうぞ?」


 ソフィは静かに息を吐いたかと思うと手に僅かな『魔力』を集約し始めたかと思うと、一気に戦力値コントロールで『真なる大魔王』の限界値。この『魔界』に生きる『力』を有する魔族達が一斉に察知が出来る程の『力』を彼は体現してみせた。


 あっさりと数百億の戦力値に達したソフィと相対したエルシスだが、それでも余裕の態度で『』の前で笑みを浮かべるのであった。


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