第386話 魔王レアとエイネの模擬戦闘

 力をコントロールすることが出来る五歳の少女『リーシャ』はこの日。遂にと呼ばれる領域に足を踏み入れた。


 ――戦力値4000万に到達したのである。


 しかしそのリーシャが見上げる上空で、戦力値10億を越える二体の魔族が、模擬戦闘をしている姿を見て唖然とした表情を浮かべていた。


 リーシャの視線の先の上空では、レアとエイネが恐ろしい魔力を周囲にまき散らしながら、数多の戦術を競い合うようにして戦っていた。


『遅延詠唱』『金色の目』『無詠唱』『フェイク詠唱』『高速転移』といった戦術を余すことなく使いお互いに相手の動きを止めるために、技術をふんだんに使ってぶつかり合っている。


「練度を維持することに意識を割きすぎです! 自身に多少魔力暴発のリスクダメージを背負ってでも私の行動を止める事に1%でも確率を上げる努力をしてください!」


 戦いの中でエイネがそう声をかける。


 レアは頷きながら、素直にエイネの言葉を受け入れる。


 これはあくまで模擬戦闘であり、実際にエイネと真剣勝負をしているわけではない。教えようとしてくれている『エイネ』と『レア』では圧倒的に実力差がある以上、レアがぶつくさと反論する余地などないのだ。


 それを理解しているレアは一つでもエイネの言葉を吸収しようと、自らの技術の向上をはかる。


 そしてそれは如実に結果を示し始めた。模擬戦闘が行われる前と現在ではレアの動きは格段に変わり、エイネの教えを反復させながら実戦で取り入れる速度が上がっている。


 息切れ一つしないエイネではあるが、内心では僅かながらにレアの成長ぶりに焦りを見せ始めていた。


(戦闘センスに問題は何もない。彼女が素直に私の言葉に耳を傾け始めてから明らかに成長速度が増した。彼女を強くする上で重要なのは、彼女の性格かもしれないわね)


 そんなことを考えながら、レアの攻撃を全て躱し続けるエイネは笑みを向ける。


 しかし疲れからかレアの行動に一つ隙が生じた。エイネの青を纏った魔力の余波を受けて、瞼を閉じてしまう。


「戦闘中に視線を切ることは死を意味します! 目にゴミが入ろうとも傷を入れられようとも、私から視線を外さないでください!」


 そう言って隙を見せたレアにエイネは『青』を纏った右拳を繰り出す。


 同じミスを犯させないように痛みを与える事で反省を促そうとしたエイネであったが、そこで彼女は驚きに目を丸くした。


「え?」


 今までのレアの速度とタイミングを確実に計測して、確実に当たると踏んだエイネの拳は空を切ったのであった。


 そんな馬鹿なとばかりに『エイネ』はレアを見ようとするが、レアは高速転移ですでにその場から消えていた。


 そしてエイネは瞬時に、だったと気づく。


 エイネの背後で風を切るような音が聞こえた。


 ――しかし。エイネはこれをフェイク行動と取り背後には誰も居ないと決めつける。


 エイネは次のレアの行動を考えて、確率の高い行動にアタリをつける。そして確実性はないがそのレアの行動に対しての対策を講じた行動に出る。


 それは目の前から消えたレアが、エイネの背後に回るというフェイクを見せて、離れた場所からの詠唱込みの大技を私に向けて放つだろうという思測行動である。


 しかしどこから狙ってくるかまでは分からない以上、エイネは集落上空の行動半径。つまりレアが集落上の空から撃ってくるという判断のみに絞り、エイネはに、広域結界を張るのだった。


 これはあくまでレアが極大魔法を撃ってくると仮定しての行動のため、もし物理攻撃や魔法以外の行動の場合は、単なるなる的外れな行動となる。


 ――しかし『結界』の内部に居るレアは、驚きに目を丸くするのであった。


(こ、この結界は! まさか魔法発動を遅延させる結界!?)


 そしてそれは間違ってはいない。多くある結界の種類の中でも感知や探知。相手の魔法を通さなくする結界と違い、あくまで相手の詠唱を遅延させるためだけの結界である。


 それは無詠唱で放つ魔法であれば、である。


 しかし大ダメージを与えようとするまさに一撃必殺のような『詠唱有の極大魔法』の一点のみに絞ったでもある。


 そしてレアはまさにその詠唱有の極大魔法で、一撃を狙っていたのだった。


「なっ……、何で分かった!?」


 詠唱を即座に取りやめたレアはエイネの右側。およそ50m程の離れた場所で悔しそうに呟くのだった。


「いいえ、決して分かっていたワケではありませんよ? 単に私がレアさんの今までの行動を顧みてですから」


 結界を張った直後にあっさりとレアの場所を割り出したエイネは、そう呟いていたレアの前まで、高速転移で距離を詰めた後にそう口を開くのだった。


「わ、私の行動予測ですってぇ!?」


 そんな真似をされてはいくらレアが試行錯誤を重ねた行動をとっても意味を為さない。


「単なる攻撃では貴方の攻撃力では、私には大した痛手を与えられませんからね。レアさんが私に深手を与えられる唯一の方法のみを潰しただけです」


「といっても今の視線を切った行動や、背後に回ると見せかけたフェイク行動。とても素晴らしいものがありましたよ? レアさん」


 本心からそう言うとレアは素直に頷いた。


 力の差があるとすでに理解しているレアは、自分よりも強い者に褒められたことを素直に受け入れるのだった。


「流石はフルーフ様以外に私が認めた魔族よぉ!」


 目を輝かせながらエイネの強さに、絶対の信頼のようなものを見せながらレアは何度も頷く。


「それは光栄です。レアさん」


 フルーフという魔族が、一体どれ程の強さか分からないエイネは、とりあえず認めてくれているのだろうとレアに苦笑いを返した。


「さて、もう一戦と行きたいところですが、先程の詠唱は余程の極大魔法を放とうとしていたようですね? レアさんの魔力はかなり消耗していますし、今日はここまでにしておきましょう」


 レアの残量魔力を即座に看破して、そう提案するエイネであった。


「ええ、そうしてもらえると助かるわぁ」


 レアの放とうとした神域魔法『凶炎エビル・フレイム』は、大きく魔力を消費させられる魔法なのである。


 その判断を受け入れたレアはオーラを解除するのだった。


 二体の魔族は頷き合って下から見上げていた小さな魔族の『リーシャ』の元へと降りていった。


 ……

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