第344話 世界を束ねる龍族の襲撃

 ――その日は唐突に訪れた。


 ヴェルマー大陸にあるダイオ魔国。その上空を日の光が遮られる程の影が覆った。何事かと民たちが見上げると、瞬間その影は正体を現した。


「う、うわあああ! りゅ、龍族だ!!」


 魔族達が驚きの声をあげると、空から龍達が次々と炎を吐き街を焦がして回る。


 魔人達の襲撃の時とは比べ物にならない速度で、ダイオ魔国の勢力圏である近隣国の民達は燃やし尽くされていく。


 ――龍の数は数万体という規模であった。


 一体一体が戦力値1億を超える程の力を持った神々に近いと言われる種族が、ついに魔族をと認定して、本気で滅ぼしにかかってしまったのである。


 すぐにダイオ魔国王は異変に気付いて、レア魔国王に念話テレパシーを送ろうとするが、恐ろしい程の速度で空を飛翔してダイオ魔国城へと辿り着いた。数多くいる龍達は一斉に城に向けて炎を吐く。


 どの龍をとっても『ダイオ』魔国にいる魔族達の10倍から20倍近くの戦力値の差があり、その龍族達が一斉に襲い掛かっているのである。


 数万体の龍が空を縦横無尽に飛び回り、空から奇襲をかける。空から炎を吐く龍もいれば、空から急降下しながら鋭利な爪で魔族達を次々と殺していく。僅か数分という短さで『ダイオ』魔国や近隣諸国は壊滅。


 ダイオ魔国王『レグーザ』は、レアに『念話テレパシー』を送る暇もなく城ごと燃やされて戦死。そして龍族達は攻め滅ぼしたとみるや、ダイオ魔国など見向きもせずに次々と北上していく。


 龍族達の目的はダイオ魔国ではなく、。それこそがキーリの命令であり、この世界を律する全種族の頂点に立つ『龍族』の現在の目的である。


 龍族達はダイオ魔国を滅ぼした後、三つの部隊に分散しながら国々を荒らして回っていく。魔族達は手も足も出ないまま絶命していき、そしてついに三大魔国である『トウジン』や『レイズ』、そしてレアの居る『ラルグ』魔国にまで龍族達の手は伸びた。


 トウジン魔国にいる魔族達は『ダイオ』魔国程にはあっさりとはやられずにいたが、空の機動力では全く話にならない魔族達はやはり手も足も出ずにやられていく。


「イオール! ここは任せたぞ!」


「わ、分かりました! クーディ様ご武運を!」


 トウジン魔国No.3の『イオール・ビデス』は、トウジン魔国王クーディに言葉を返してクーディと分けた半分程のトウジン軍の指揮を執る。


 そしてそのクーディは、その半分程の規模の軍隊を引き連れながらラルグ魔国を目指し飛び立つのだった。


 ……

 ……

 ……


「!」


 ヴェルマー大陸の結界が破られる感覚を感じ取ったレアは、自室のベッドから飛び起きる。


「まずい!」


 慌ててレアはラルグの城にいる者たちを玉座の間に集める。そこには魔人ラクスの姿もあった。


「おい! やべぇぞレア! これは龍族だ。龍族が大軍で攻めてきやがった!」


 すでにこの大陸の結界が破かれて、かなりの時間が経っている。


「ええ、分かっているわぁ! ベイド! 貴方達はすぐに軍を率いて『ディアミール』大陸へ向かい、避難をしなさい!!」


 その言葉にベイドは驚いた表情を浮かべるが、すぐに頷いて部屋を出ていった。


「ラクスちゃん! 貴方は悪いけどエリスちゃんのところへ向かってくれるかしらぁ?」


「そ、それは構わねぇが、お前はどうするんだよ!」


「この数を相手に私でも全員を守るのは、無理ねぇ……」


 レアはラクスの言葉に少し考える素振りを見せる。普段では見たことのない程の焦った表情を浮かべるレアにラクスは不安になる。


「まさかこんなに早く龍族達が動くとは思わなかったわぁ。まだ数年は猶予があるとそう思っていたのだけどねぇ……」


 このタイミングで龍族が動くのは誤算であった。


 あと数十年、いや後数年もあれば配下達を戦力として数えられる程度には強く出来る準備があった。


 神々に近い種族と呼ばれる『龍族』達は、自分達に危害を加えられなければ動かないだろうと、レアはあたりをつけていたのである。


 どうやら魔人族や精霊族を滅ぼしたことで、ふんぞり返っていた龍族達をその気にさせてしまったのだろう。


「こっちから攻めてやろうと思っていたのにねぇ」


 この世界に来て初めての危機を覚えるレアであった。


「しっかりしてくれよレア! 俺はお前がそんな顔をしているのを見たくないぜ!」


 必死の形相でラクスはレアの肩を掴んで怒鳴る。


「ラクスちゃん。ええ、分かっているわよぉ。とりあえず私は、この国に向かってくる龍達を落とすから、貴方はエリスちゃんと合流しなさい」


「その後はどうすればいい? ここに戻ってお前と龍族退治をすればいいのか!?」


「いや、その必要はないわぁ。私が全て片付けるから貴方はそれまでエリスちゃんや、他の者達を守ってちょうだい」


 そう言って笑みを浮かべるレアを見て、ようやくいつものレアだとラクスも笑みを返した。


「分かった! お前に心配は必要ないだろうが、死ぬなよ!」


 そういってエリスの元へ向かう為に、ラクスは玉座の間から出ていった。


「私の心配より自分の心配をしなさいよねぇ……」


 そう言いつつも嬉しそうな笑みを浮かべるレアであった。


 レアは部屋の窓から空へと飛び立っていく同胞達を見守りながら告げる。


「貴方達の帰る場所は守ってあげるから、無事で居なさいよねぇ」


 ……

 ……

 ……

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