第279話 大魔王の執念
目の前でレアに真相を語りヴァルテンの『
聡明なレアはこの言葉を吐いたレインドリヒが、自らの身体に『
自分はなんと愚かだったのだろうか。本当にソフィは関係がなかったのだ。レインドリヒが死を賭してまで、伝えてくれた言葉を脳内で反芻させる。
――
レアは憎悪の目をヌーに向ける。
「お前が……! お前が全ての原因かぁっ!!」
魔力が枯渇しているレアはそんなものは関係ないとばかりに、目を『金色』にさせてヌーに襲い掛かろうとする。
「だ、ダメよ! レア!!」
しかしにやにやと笑っているヌーを見て、ユファは慌ててレアの身体を掴んで止める。
「離せバカ! こいつが……! こいつが、こいつが……!!」
ユファに後ろから抱えあげられて空中でもがくように足をジタバタさせながら、何とかユファを振りほどこうとするが、魔力の少ない今のレアでは『青のオーラ』を纏い必死で取り押さえるユファの力には敵わない。
「い、今は堪えなさいレア!」
「うわあああっっ!! 離せぇ!」
ユファはここに来る前の
「貴方を必死で助けようとした、レインドリヒの想いを無駄にするつもり!?」
その言葉に暴れていたレアがぴたりと止まった。
「……うっぅ、くっ!!」
その様子を面白そうに見ていたヌーが嗤う。
「クックック……。馬鹿共が馬鹿な事をするのは実に面白いな? もっとこの滑稽な茶番を見ていたいが……、残念ながら時間がないようだ」
命を賭してレアを助けたレインドリヒの行いを
――だが、そんな二人の視線を軽く受け流したかと思うと空を見上げる。
遠く離れた場所から転移して逃げたヌーを追いかけて『力の魔神』が転移してきたのだった。
本来、魔神と使役者の契約上の関係であれば、使役者の命令がなければ率先して動く事はなく、敵が居なくなった時点で戻る事が正常である。
しかしこの『力の魔神』は、ヌーの終焉を望んだソフィの言葉を遵守して契約以上の行動に出たのだった。
「ちぃっ……、あの
レインドリヒから奪った魔力を使い、ここでレアとユファの両名を抹殺しようとしていたヌーだが、先程の戦いでこの『力の魔神』の強さは嫌という程に理解している。
大魔王ヌーは馬鹿ではない――。
勝てぬと理解した以上は決してまともに相手をする事はしない。
そしてこの瞬間に『ヌー』は、ここからそう遠くない場所で魔力の余波を感じた。
「むっ? この魔力は……、ヴァルテンか!」
そう呟いた後にヌーはニヤリと笑う。
「クックック、いいぞ! 時間稼ぎにはもってこいの野郎だ」
目の前で『力の魔神』がヌーを壊す為に近づいてくる。
「ここへ来い、ヴァルテン!」
大魔王ヌーがレインドリヒから奪った魔力を使い、大魔王ヴァルテンの名を呼ぶ。
その瞬間『
「な……? こ、ここは?」
突然周囲が光始めたかと思うと、アレルバレルへと向かうつもりで詠唱を行っていた『魔法』が打ち消されて気が付けばヴァルテンは、逆転移させられたのであった。
後ろを振り返ればそこには『ヌー』が嗤いながら立っていた。
「き、貴様は……! い、いや貴方様は……!?」
ヌーの姿を見て咄嗟に顔を顰めて、貴様呼ばわりしようとしたヴァルテンだが、ヌーの表情が険しくなるのを見て慌てて言い直すヴァルテンだった。
「喜べ屑。お前を
いきなり勝手に逆転移をさせられたと思えば、いきなりのこの言葉である。
「な……っ!? そ、それはどうい……、ハッ……!!」
そこでようやく目の前で倒れいるレインドリヒと、怒りの形相を浮かべた『魔王』レアの存在に気づくヴァルテンであった。
慌ててこの場から離れようとする『ヴァルテン』に『ヌー』は金色の目を向ける。
「ククク! 『お前は俺の忠実な盾だ、俺がいいと言うまで時間を稼げ』」。
キィイインという音が周囲に響き渡り、次の瞬間ヴァルテンは頷きを見せるのだった。
「仰せのままに。
ヌーの魔瞳によって強引に従わされたヴァルテンは、迫りくる魔神に魔法を放つ。
――神域魔法、『
大魔王ヴァルテンの無詠唱の神域魔法が魔神に放たれる。
その様子を見届けた後にヌーは、再び魔王レアとユファの方に向き直る。
『力の魔神』はヴァルテンの『
どうやら神域魔法を放ってきたヴァルテンなど全く眼中になく、居ても居なくても何の影響も無いと判断したようであった。
しかしそのヴァルテンはお構い無しに、その後も次から次に魔神に魔法を放ち続ける。
「―――!」(
魔神にダメージ等は全くないが、こう何度も何度も自分に魔法をぶつけてくる事に煩わしさを感じた魔神はヴァルテンに向き直る。
大魔王ヌーはヴァルテンが魔神を倒せるなど少しも期待をしてはいない。その名の通り『レア』と『ユファ』を抹殺する、ほんの僅かな数秒間の時間稼ぎ要因である。
「さて、さっさと貴様らゴミ共を片付けてやるか」
そう言うとヌーは『魔術師』から奪った残り僅かな魔力を用いて、自身の周囲に『金色』のオーラを纏わせ始めるのだった。
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