第277話 巨大な闇に対するは、光ではなく

 確かに紛れもなく『ヌー』は、世界を束ねるに相応しい『力』を持っている。


 その力に勝る魔族はあらゆる世界を見渡しても、簡単には見つけられない程でだろう。


 ――しかし居るのだ。


 単純な話。そうそれは簡単な事なのだ。


 『大魔王』ヌーより強く『大魔王』ソフィは、


 ヌーの放った禍々しい闇は空を覆い隠したが、ソフィの放つ一瞬の煌めきの後、再びソフィから闇が放たれた。


 ――それは世界の終焉。

 混沌すら生温い、終わらせる闇。


 ソフィがこの願いを望むことはない筈だが、この世界において二度も願われてしまった。


 ――今回は一度目の比ではない。


 何故なら一度目の時の『真なる魔王』状態ではなく、今のソフィは『大魔王』状態であり、金色のオーラを纏った魔力から放たれた魔法なのだから。


 ヌーの放った『エビル』は確かに膨大な魔力だった。


 といった魔力では無く、


 ――まさに桁違いと呼ぶに相応しい恐ろしい桁数である。


 しかし今この場においてそんな物は無に等しい。


 大魔王『ソフィ』の『終焉エンド』という魔法の前に、大魔王『ヌー』の『エビル』など児戯に過ぎない。


 ヌーは冷静に目の前の化け物に『漏出サーチ』を放つ。


 【種族:魔族 名前:ソフィ(真なる大魔王化) 魔力値:185億

 状態:通常 戦力値:測定不能 地位:アレルバレルの王】。

 ↓

 【種族:魔族 名前:ソフィ(真なる大魔王化) 魔力値:1850億

 状態:『金色』 戦力値:測定不能 地位:アレルバレルの王】。


 通常状態と『金色』のオーラを纏った状態、二つの情報がヌーの視界に表示される。


 そしてその情報の一端を脳で理解した瞬間に、ヌーは恐ろしい魔力コントロールを見せながら、自身の放った『漏出サーチ』の魔法を即座に取りやめて、恐るべき魔法の副作用から身を守る事に成功する。


 しかしそんな素晴らしい高等テクニックを見せたヌーだが、魔力コントロールの成功を彼には喜んでいられなかった。


 全ての積みあげて来た努力が泡沫となり、そして結局はだったのだと、強引に理解をさせられたからである――。


「クククッ! 化け物めぇ!! ここまで策を弄しても届かぬか……!!」


 『金色』を纏った魔力値1850億の全ての魔力が注ぎ込まれて、大魔王ソフィの放った最強の魔法の詠唱に応じる為に『力の魔神』はその姿を現世に体現させる。


 ――絶世の美女と呼べるほどの見目麗しい女神がそこには居た。


 辺りは闇に包まれているため、女神の放つ小さな光でさえ眩しく見える。


 そして女神は主の望まれた『終焉エンド』の魔法をその主の代わりに使役した。その対象は『大魔王』ヌーである。


 数多の世界を束ねる王。その名に恥じない程の魔力と戦力値を併せ持つヌーを前に、更に桁違いの魔力を注ぎ込まれた魔神は『王』の望まれた願いをかなえる為に行使した。


 ――魔神域魔法、『終焉エンド』。


 ヌーは何も抵抗しなかったワケではなく、神域『時』魔法『次元防壁ディメンション・アンミナ』や、彼が現在持ち得る全ての行える防御魔法を行使した。


 しかし『力の魔神』に『時魔法タイム・マジック』の類などは何も通用しない。


 『力』を司る神。その最上位神とも呼べる魔神。そんな神々の放つ力を次元の彼方へ飛ばす事など出来る筈がない。


 全ての防衛手段を無効化されてしまい、更には力を奪われて魔力を奪われていく。


 望まれた願いは終焉であり、その対象者は『大魔王』ヌーである。


 ――この願いは魔神の力によって叶えられる筈だった。


 ……

 ……

 ……


 ――しかし。


 魔神域の魔法『終焉エンド』によってヌーの魔力は全て奪われはしたが、最後の生命力を奪われる直前に『大魔王』ヌーは最後の抵抗に出る。


「……く、くくく! ま、まだだぁっっ!!」


 『力の魔神』がヌーの命の灯をかき消そうと手を前に出す瞬間、ヌーは魔力の代わりに生命力を使い、


 なんとしぶとい男だろうか? 『力の魔神』の制圧下に置かれたにも拘らず『終焉エンド』をその身に浴びて、全ての防御魔法を無効化されて全魔力を奪われて尚、魔神から一瞬とはいっても、脱出する事を可能としたのであった――。


 目の前から『絶対者ソフィ』の指示を受けたにも拘わらず、逃してしまった『力の魔神』は信じられない程に焦りを見せて、


「――ッッ!!」(この世の何処へ逃げても必ず消滅させる!!)


 見目麗しい女神の表情が、憤怒に塗り替えられて行く。


 そして魔神は逃してなるものかと一瞬で死にかけのヌーの生命力を察知して、一瞬でその場からヌーの元へ向かうのだった。

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