第241話 九大魔王イリーガル

 ソフィがリラリオの世界に転移させられて数日。


 大魔王イリーガルの元に勇者が魔王城へ乗り込み、大魔王ソフィを破ったという知らせが入った。


 誰もがそんな噂を信じる事はなく、勿論イリーガルも信じはしなかった。


 だが『念話テレパシー』もソフィには通じず『漏出サーチ』でソフィの位置も把握が出来なかったが為に、同じ九大魔王にしてソフィの一番の側近というべき魔族『ディアトロス』に連絡を取ろうとするが、こちらも『念話テレパシー』が通じない。


 『ディアトロス』殿はソフィ様の命令で『ダイス』王国の大臣を務めている筈なので、彼は使い魔に様子を見てくるように指示してイリーガルは、仕方なく魔王城へ向かう事に決めるのだった。


「まさか親分が本当ににやられたとは思わねぇが、ディアトロス殿にも連絡が取れないのは気になるな」


 身長二メートルを越える大男『イリーガル』は、素振りをしていた大刀を背負いなおしてそう呟いた。


「何やらキナ臭い匂いがしますが、配下達を招集しますか?」


 イリーガルの側近の魔族『バルク』はそう主に進言する。


「はっはっは。俺が大人数を引き連れて魔王城へ向かうと、他の魔王連中に謀反を疑われて攻撃を仕掛けられるかもしれねぇぞ?」


 イリーガルが笑えない冗談を笑いながら言うので、配下のバルクは苦笑いを浮かべた。


「それは洒落になりませんよ、イリーガル様」


 とくに災厄の大魔法使いユファや、破壊ブラスト、それに天衣無縫エヴィ辺りはソフィ様に心酔していると言ってもいい連中であり、冗談が冗談でなくなることも可能性はある。


 たった一言の冗談であっさりと殺し合いに発展するのが大魔王達の悪い癖だが、その中でも破壊ブラストは魔王達の間でも危険視されている。


 ソフィ様という抑止力がなければ、鹿の所為で『魔界』は再びグチャグチャになっていただろう。


「まぁとりあえず使い魔が、戻ってくるのを待つとしようじゃないか。智謀ディアトロス殿に何事もなけりゃ、何かしら連絡が来るだろうよ」


 イリーガルの言葉にバルクは頷いて見せた。


 現在イリーガル達はダイス王国のある西側の大陸と、遠く離れた東側の『魔王城』がある魔族達の住む大陸の間に挟まれた大陸にいる。


 この大陸には本当にソフィを慕う人間や魔族達。それに他の種族達もが手を取り合って暮らす謂わば、の者達が暮らしている。


 このイリーガルの側近であるバルクも元々は人間達を見下していた魔族であったが、この大陸で過ごす内に人間達の人柄に感動して、今では魔族と人間両方に分け隔てなく付き合う事が出来るようになったである。


 人間達の大陸『ダイス大陸』では大魔王ソフィの圧政で、日々苦しまされていると言っている者達もいるが、そんな事は決してなく、悪いのはそういう風潮をつくり『ソフィ』を貶めるような噂を流している『ダイス』大陸に住む人間の貴族達が原因であった。


 表向きアレルバレルという世界は、大魔王ソフィの統治のおかげで平和ではあったが、少し表面を削り裏側を見れば、色々な思惑が錯綜さくそうしている状態である。


 イリーガルはここ最近の出来事である勇者『マリス』の誕生や、人間達の貴族達がソフィ様を糾弾している裏側には、ソフィ様に反旗を翻した何者かが関係しているのではないかと目星をつけていた。


 そしてそのイリーガルの予想はあながち間違いではなく、それは水面下で活動していた大賢者の事である。


 ――それにしてもとイリーガルは考える。


 勇者マリスのソフィ様討伐の噂が流れているというのに、他の九大魔王やソフィ様の配下達が、行動を移さない事を訝しんでいた。


 九大魔王は勝手気ままな魔王達ではあるが、皆ソフィ様に対してはを持っている。


 大魔王ソフィに何かあれば、それぞれの魔王達が軍勢を出していてもおかしくはないというのに、イリーガルの元にはまだそんな話が一切届かない。


 イリーガルの元に届いたような情報が、まだ知れ渡っていないのかもしれないが、それでもディアトロス殿に連絡が取れないというのは、あまりにも予想外過ぎる事であった。


 そこまで考えたイリーガルだが、ダイス大陸に出した自身の『使い魔』が戻るのを待つ事にするのであった。

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