第240話 組織と大賢者2

 大賢者は組織入りを約束した後は満足そうに頷き、また連絡をすると一言告げたまま姿を消した。


 それから数百年、数千年経っても大賢者から何も連絡がなかった。


 人間がそれだけの年数生きられる筈がない為に、結局あの話はなくなったものと思いイザベラの記憶から完全に消された頃にまた、大賢者が再び『ダール』の世界に現れた。


 人間にとっては数千年とは途方もない期間であり、既に考える事すらしなくなる年月ではあるが、魔族のイザベラにとっては、確かに長い期間ではあったが、人間の感覚で言えば一昔、二昔程度にしか感じられない年月である。


 あの頃と全く姿が変わらず、初老のような見た目のままだった。


 流石に魔族でもないただの人間が、これだけの年数生きられる筈がない為、目の前の人間はで寿命という縛りがないのだとイザベラは納得した。


 別にこの人間が魔法を使っていようが、そうでなかろうがどうでもよかったからだ。


 そんな事よりもとうとう組織の計画とやらが行われるという事にイザベラは期待感を募らせた。寿命が長い魔族は退屈というのが最大の敵なのである。


 イザベラの予測通り大賢者は件の計画とやらを知らせにきたようだ。計画の内容は少々面倒な事だったが退屈をせずにすみそうだった。


 どうやら仕事はこの目の前の男の世界へ行き、敵であった魔王の残党処理のようであった。実にシンプルで分かりやすく、アレルバレルとかいう世界の平均的な強さを測るにはうってつけであった。


 更に大賢者が言うには全てが片付いた後は、その魔王が治めていた大陸ごと俺に寄越すというのだ。


 二つの世界で影響力を持つ大魔王という事になれば箔が付く。暇潰しで得る報酬にしては破格であった。


 そして大賢者の魔法でアレルバレルの世界に跳ばされた彼は計画を進める。


 ――大賢者から言われた事は一つ。であった。


 勇者マリスを名乗る人間が、大魔王ソフィを討伐したという幻想を創り、影ではイザベラ達『大魔王』と呼ばれる魔族が大魔王ソフィの配下達を皆殺しにしていく。


 確かにソフィの配下の魔族達はそれなりに強い者もいたが、別世界の王にして『大魔王』の領域に居るイザベラの敵ではなかった。


(既にこの時には『組織』の者達が、ソフィの主だった配下の魔族達を葬ったり、ソフィのように別世界に跳ばしていた為に、イザベラが相手をしていたのはあくまで『名付けネームド』を行っている魔物達が多かった)


 そして計画通りソフィは不思議なアイテムで別の世界へ転移させることに成功し、主の居なくなった魔王城にイザベラが居座るのであった。


 ……

 ……

 ……


 大賢者がソフィの重要な拠点であった『魔王城』をイザベラに渡したのには理由がある。単純に報酬として大陸を渡したわけではなく、イザベラを囮に使う為であった。


 ソフィの配下の九大魔王達は、個々がを束ねる程の強さを持つ大魔王達ばかりである。そんな者達が、勇者に敗れたというにわかに信じがたい噂を手にした時、まず『魔王城』に確認に来ることだろう。


 アレルバレルの世界に残っている九大魔王は『ディアトロス』を除けば『イリーガル』と『ブラスト』のみ。


 大賢者の見立てでは『イザベル』と『イリーガル』が、ほぼ互角の強さだとみている。


 もしイリーガルの軍勢が魔王城へ向かうならば、イザベラに奴らを任せる算段である。


 大賢者はここまでを踏まえて、ダールの世界からイザベラを拾ってきたのだった。


「流石に私でも『九大魔王』達を同時に、相手取るのは無理があるだろうからな」


 ダイス王国の玉座の間には、通常であれば多くの兵士達が王の護衛にいるが、現在は大賢者と虚ろな目を浮かべたダイス王国の王が、虚空を見つめて立っているのみである。


 九大魔王の事を考えていた大賢者だが、唐突に視線を王の方へ向ける。


「こいつにはまだまだ、働いてもらわないといけないからな」


 そう言って邪悪な笑みを浮かべるのであった。


 ……

 ……

 ……

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