第112話 魔眼
あぁ、体が痛い……だけど、無事に発動出来たな。万全ではないが──これが今の精一杯だ。
俺の周囲には黒いオーラが噴き出る。
黒気を纏った状態で鎖を鞭状でしならせてセスの相手に放つ。
「「──ぐぅっ」」
2人は防御をしたが、そのまま壁に突っ込む。黒気だと鎖の威力も上がるな。
次は────シバだ。
「甘いわっ!」
さっきの2人と違い、鎖を掴まれてしまう。
やはり──シバは強いな。
「悪いが──付き合ってやってる暇はない────」
「──ぐっ────クソっ! またやろうぜぇぇぇぇ────」
間髪入れずに鎖で巨大な拳を作り、そのまま殴りつけて城の壁を壊し──そのままの勢いで外に放り出す。
シバは相変わらずだな……。
「これ以上は看過出来ないわ────流星」
シャーリーの複数の射撃が俺に迫る──
「それは────こっちのセリフだぁぁっ!」
俺は怒気と共に叫ぶと同時に無数の鎖を放って相殺する。
その隙にジョン、セスを鎖で捕縛し、引き寄せながら回復魔法を使う。
アナスタシアは九尾に守られているから問題ないだろう。
「「若、ありがとうございます」」
「傷が深いな……」
2人は回復魔法をかけているのにまだ全身から出血している。完治までしばらくかかりそうだ
「────まだまだぁっ!」
「鬱陶しいっ」
俺は迫る大量の矢に対して、黒気を込めた状態で三日月鎌鎖を振る────
すると、凄まじい勢いの斬撃と衝撃波が矢を無効化する。
そして、壁もろとも吹き飛ばして空が見えた。
城の最上階部分が無くなってしまった。
というか……黒気で三日月鎌鎖使うと、更に威力が凄まじいな。
あと、これだけ騒いで衛兵が来ない事に驚きなんだが。
「レオン君──強くなりすぎでしょ……きゃっ……」
鎖をシャーリーに放ち無効化する。
「大人しくしてて下さい────さぁ、ドランは続けるか?」
ドランはそこまで攻撃する意思はないようなので、一応聞いてみる。
「はぁ……わしはやめておくわい。だから止めとけって言ったのにのぅ……」
「おいっ、ドラン! お前抜けたら──」
「負けるのぅ」
「──ちっ」
クインはそのまま動かず、ドランと同じく静観するようだ。
「ハイムだったか? とりあえず──アナを攻撃した分はしっかり報いを受けてもらう────」
「……これが失われた奥義の一つ──黒気か……単純なパワーじゃ負けてるね……けど────勝負はそれだけじゃ決まらない。見せてもらおう──君の力を!」
──ちっ、またあの変な力か……。
「────まぁ、動けない事はないな。大人しくボコられろ」
一瞬動きが止まるし、動きにくいが問題ない。
三日月鎌鎖を横薙ぎに振るとハイムは一瞬驚いた顔をして避ける。
「この中を動ける奴は久しぶりだ──誇っていいよ? しかも、君は回復の恩恵持ちだね。その異常な回復速度は恩恵以外あり得ない」
「──ちっ」
動きが阻害されて鬱陶しい。しかも、ちゃっかり剣で攻撃もしてきやがる。
恩恵ではないが恩恵に似た力と言っていた──
──それが何なのかわからない。
遅延の能力? いや、黒気を使わないと動けないレベルだ。停止みたいな能力の方が可能性が高いか。左目がさっきから一瞬光ったように感じたが関係あるのか?
しかし、これほどまで強力な力だ。何かしらの制限があってもおかしくはない────試すか。
左手をハイムに向けてかざし────背後に鎖の壁を発生させ、連続で穿通鎖を放っていく。
1本、2本、3本、4本、5本──
────ハイムの目の前で止まる鎖。
──6本、7本、8本、9本、10本──
────まだ止められるのか……。
────20本目を放つと──ハイムはその場から跳躍し、回避する。
おそらく、20本ぐらいがこの能力の限界なのだろう。
「君は冷静だね。さすがに──全てを捌くのは無理だね」
「なら大人しく捕まれっ!」
「えっ、嫌だよ。痛いの嫌いだし?」
こいつ──
無意識に無数の鎖をハイム目掛けて放つ。
点と線による波状攻撃だ制御は甘いが──この量なら止まるのも一部だ。
俺は目の前から一瞬にして消え──
────ハイムの背後に現れる。
俺が使ったのは転移。通常の転移はいくら練習しても成功しなかったが、鎖間の転移だけは成功していた。
それを今回は応用した形になる。
「──!? ゔっ……」
そのまま振り向いたハイムの鳩尾目掛けて拳を撃ち抜くが、そのままの勢いで飛び退く。
「腐った根性叩き直してやる──九尾────捕縛しろ」
俺は危険の少なくなったアナスタシアの所に待機していた九尾を再度、魔力を大量に込めて召喚し直す。
既に放っている鎖は静止しているが、九尾は静止する事なく動き回る。
ある程度の力があれば動けるのは間違っていないようだ。
「これは厄介だね……まさか魔眼が通用しないとはね」
恩恵ではない能力──魔眼。
能力を使い続けているせいか、今では左目が銀色になっている。
世の中には知らない事がまだまだあるな。
「なら大人しく捕まれ」
「君の顔が怖いから嫌だね」
ハイムは軽口を叩きながらも真剣な表情で回避し続ける。
しばらく経っても攻撃が────当たらない。
まるで──攻撃される場所がわかっているような感じだな。
目は2つある……まさか──
──俺はハイムの両眼を注視する。
──左目は銀色なのはさっきからだが、右目も赤くなっていた。
やはり右目にも──何か力があるのか……しかも既に能力を発動している。
攻撃系ではない?
補助系? まぁどんな能力でも関係ないか……。
俺は既に10回は死んで──回復している。
九尾に魔力を込めるのに9回、残り1回は闘気の枯渇だ。今も消耗し続けている。
──決め手に欠けるな。
無尽蔵の物量攻撃でなんとかするしかないか……。
俺はどちらかと言うと、中距離専門────近づく気は全く無い。
このまま自分の距離で永遠と攻撃させてもらおう。
幸い遠距離攻撃されても、鎖による九尾によるオートガードで防げているし、ハイムが迫ってきても三日月鎌鎖の斬撃を飛ばした上に爆鎖や風鎖で妨害しているので近付ける事はないだろう。
「まぁ、そのうち力尽きて捕まるだろ……」
「君──性格悪いね?」
「いや、お前ほどじゃないが?」
俺はニヒルに笑いながら鎖を増やし、小技を追加する。
次の動きを予測し、俺はその先に攻撃する。気分は将棋の先読みをしている気分だ。
「絶対に性格悪いっ!」
「アナに危害を加えた奴を許すわけねーだろっ!」
こうして八首筆頭ハイムとの戦闘は消耗戦になった。
ハイム、シバ、シャーリーを除く八首は王の前で眺め──
ジョンとセスは傷から回復し、「「若、ぱねっす」」と感嘆し──
アナスタシアはシャーリーに何かを言っている。
シャーリーは鎖で動けない為、淑女と思えない状態で唸っている。
睨む目は俺に向いており、それに気付いたアナスタシアは上から踏みつける。
目が超絶冷たい……背筋が凍りそうだ。アナスタシアも魔眼が使えたんだな……。
俺はそんな姿を見なかった事にして────ハイムに向かい攻撃を続ける。
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勝手ながらカクヨムコン向けの新作の投稿を優先してますので、かなり更新が遅れると思います。
良ければ、そちらもお読み頂き応援して頂けたら幸いです。
新作の方もシリアス&コメディの作品ですので是非ご覧頂けると嬉しく思います。
【幸せを捕縛する!】〜恩恵により死に辛くなった俺は異世界を巡る〜 トロ @tonarinotororo
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